黒鷲の旅団
29日目(21)防御、手堅く
「障壁魔法展開急げ! 索敵班は!」
「北だよ! 数、20! もうちょい!」
駐屯地に戻るや、物々しい気配。
子供達が武器を手に駆け回っている。
何があった。おやつの雰囲気じゃない。
敵反応。北。ブラデニ方面から。
ふと銃声がして。
城壁の上、銃火がレーネの頭を掠めた。
外れた。いや、障壁魔法が弾いた様だった。
「狙って来てる!」
「伏せろ伏せろ伏せろ!」
「ああ、くそッ!」
毒づいたのはルーシャ。上空を射撃。
何か空中で爆発した。
魔法付与か爆薬付きの矢弾。
放物線軌道でも狙って来ている。
通信。全軍防御。防御重視。
城壁を盾に後退しろ。後退。
城壁の上、狙撃チームも下がれ。
城壁ごと爆破でもされたら堪らん。
花人隊に防御・障壁・防盾魔法を点火。
画家チームは外部? もう避難してる?
狙撃チームが城壁から降りる。
指揮代行役のレーネも。
その上から続けての爆撃。
レーネの位置がマズい。
縮地。俺は咄嗟に庇いに入る。
爆音と衝撃。煙と……頭痛。
「おじさま! おじさま、血が!」
レーネの声は元気そう。
俺はどうやら頭から出血して。
軽傷だ。瓦礫が頭を掠めただけだ。
大丈夫だから。下がって。
背中側を盾にして、痛い。
他にも破片やら刺さっているだろうか。
しかし後だ。安全確保を優先する。
とにかく子供達を下がらせる。
敵の注意は城壁までだ。壁から距離を取る。
花人隊、骸骨騎士団を盾役に。
敵の攻撃は。城壁で止まっている。
案の定、上からも爆撃を食らっているが。
ジュス姉さんとクリムさんの姿が無い。
既に反応したのだろう。
探知情報が敵側に向かっている。
片付けられる程度の相手だと良いが。
探知範囲を細く遠方に絞る。
スナイパー、レベル100前後が3人。
レベル40〜70、80か。20人程度。
それとレベル3桁前半が4人。
こいつらは狙撃装備じゃない。
対魔人用の足止め役だろうか。
魔人コンビより格下だが4人。
2人では手間取るだろうか。
アンヌが頷いて応援に駆けて行く。
駆けながら、アンヌ。
『何が狙いかしら』
さて。詳細は絞め上げてみないとだが。
スナイパー。どこのスナイパーかな。
こちらを攻略しに掛かって来ている。
魔人を止める要員を用意してだ。
こちらの人員を多少は知っている。
倒すか追い払った奴が仲間に居るか。
職業傭兵で私怨もあるまい。
そうした手合いは割り切るモンだ。
お互い金の為、恨みっこ無しと。
であれば、ゲーマー気分の神人か。
本当に誰かが依頼して来たか。
誰か。アーデルハイト派の貴族とか。
女王本人とは考え難いが手下は分からん。
まあ、絞め上げれば分かる。
「おっちゃん、だいじょぶ?」
「痛い?」「血が出てる」
子供達から心配の声。
俺の頭はまだ治さなくて良い。
捕まえて文句言ってからだ。
子供達の命をくれてやる気は無い。
勝ちを譲ってやる道理は無いとして。
俺も被害を受けた。迷惑を被った。
その辺は落し処に繋がるかも知れん。
反撃は魔人たちに任せつつ。
子供達は自己保全に努める様に。
俺の他に怪我人は?
花人数人にダメージ。
葉が少しボロボロになっている。
「へいきー」
「ご主人が重症ー」
俺は大丈夫だってば。
だいじょ……ばない?
眩暈がした。背中を触る。
木片か? ちょっとデカいのが刺さってる。
自己診断。ステータス異常が失血中。
意識を失って指揮が途絶えても困る。
フレスさん、状態の記録と転写を。
その後で異物の転移なり分解。
マリナやサンドラも手伝ってくれる。
いや、そんな造血せんで良いから。
多過ぎても鼻血が出そうだ。
リュドミラからも通信が来た。
明確な敵対行為として抗議云々。
その辺はお任せしますが、後で。
相手は狙撃手中心の部隊だ。
兵を向けて負傷させなくて良い。
魔人チームが撃退に向かっている。
とにかく、専守防衛だ。
静謐の魔人も言っていた事だが。
生き返る奴と刺し違えても旨味が無い。
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