〜Piercing the Sky/ACfA別解 Phase27〜
「まだ、生きてるか?」
入り組んだ、狭い通路の途中。
通路脇で機能停止しているAC。
そのハッチを開けながら、
俺はコクピットの中に声を掛けた。
「……あぁ、何とか」
疲れ切った顔で返事をしたのは、
リンクス、ロイ・ザーランド。
ACは奴の【マイブリス】だ。
現在地はアルテリア・クラニアム。
中枢の、ちょい手前。
ストレイド達に使うハズの罠を逆利用されて、
企業軍は消耗戦を強いられている。
元々、奴らを待ち伏せるつもりだったが、
長距離ミサイル迎撃の為、
施設から誘き出された企業軍。
その隙に、奴らは施設を乗っ取った。
仕掛けられていた、大量の地雷と自律AC。
その全ては今、敵の手駒だ。
先行したのはロイとウィン・D。
しかし、ウィン・Dの機体、
【レイテルパラッシュ】は見当たらない。
「ウィン・Dは」
「分からん。先へ行っちまった。
あんまり助けられなかったな」
ボヤく様に言うロイ・ザーランドだが、
戦いぶりは、機体を見れば分かる。
穴また、穴。
軽装のレイテルパラッシュが残って、
重量級のマイブリスが落ちたんだ。
盾役っぷりは想像がつく。
閉所で回避が困難。
ウィン・Dを気遣ったな、コイツ。
だが、当のウィン・D、
“尽くす男”ロイ・ザーランドにも、
まるで、そっけない様子。
救難信号も無く置き去りか。
急いでたのもあるんだろうが。
ブラス・メイデンとか呼ばれてるが、
実際、どっかに旦那でも居るんでねーの?
リンクス関係者だ。
命狙われたりするから、公表しない。
ただそれだけの話で、さ。
それはそうと、状況確認。
今度はロイが俺に聞く。
「こっちの応援は?」
「別々のルートで3チーム。
1つは、スティレットと、
ダリオ・エンピオ。
あと、有澤さんが復帰した。
リリウムと組んで向かってる」
「有澤社長、か。
影武者説もあるんだが」
「どっちでもいいだろ。
働いてくれるなら」
「はは、違いない。
で、後はお前らか。
つらい仕事だな、シリエジオ。
出来れば変わってやりたかったが」
そう、俺の相方は、
シリエジオの姐御。霞スミカ。
『弟子の不始末だ。
私が自分で片をつける』
平静を気取ってるんだろうが、
その声は、どこか忌々しげ。
当人は吹っ切ったつもりでも、
まだ少し思い煩ってるな。
そんな様子を察してなのか、
ロイ・ザーランドは彼女に言う。
「その弟子なんだが……
いい話かどうか分からないが、
奴には殺意が無かった」
『どういう意味だ?』
「見ての通りだ。
コクピットを狙われていない。
殺したいんじゃなくて、
案外、死にたいのかな……」
それから俺達は、
マイブリスを置き去りにして、先へ進む。
動けないマイブリスには、
電波遮断幕を被せて来た。
電波遮断幕。
レーダー探知から隠れる為の、
でっかい布って所だ。
簡易のステルス装備だな。
狙撃手が待ち伏せに使ったりする。
使い捨てだが、効果はある。
あれを被って動かない限り、
無人兵器にも見つからんだろう。
俺達の目指すは、
クラニアムの中枢。
多分、ストレイド達はそこだ。
長い通路を行く途中、
シリエジオ、霞スミカは、
誰にとも無くポツリと言った。
『今更、死にたいのか。
死ねば終わるなどと。
……いや、いつだ。
いつから死にたかったんだ。
殺す事だけを覚えさせた。
それも、生きる為ですら無く、か』
内省を続ける彼女。
こんなテンションじゃ、
後に差し障るな。
俺は声を掛ける。
「ここへ来て、迷いか?」
『どうかな……分からん。
確かに、聞くんじゃなかったかな』
「引き返すか?
別に、俺は俺だけでも」
『いや、私は行くさ。
言いたい事が山ほどある。
聞いてやりたい事も』
「……そうかい」
長い通路を越えて、分岐点。
曲がった先、少し開けた場所で、
俺達は遭遇した。
AC【ステイシス】。
オッツダルヴァ。
……いや、それとも、
マクシミリアン・テルミドールか?
「今のあんたは、どっちだ……
って、聞くまでも無ぇか」
奴の後ろ、随伴機はORCAの機体。
確か【スプリットムーン】と【月輪】だ。
「目的は……落とし前、か」
『そんな所だ。
奴らはORCAの名を汚した』
答えるテルミドールの口ぶりは、
どこか鼻に付く、気取った態度。
オッツダルヴァのそれだ。
が、言ってる話自体は、
テルミドールそのものだ。
……どっちが本当のコイツなんだ?
オッツダルヴァについて、
複雑な、あるいは分裂した性格。
そんな話も聞いた事があるが、
どうしてまた、そんな事に。
コジマの精神汚染か?
どっかイカレてるとか。
それ自体、あり得なくも無い話だが、
まぁ、それはともかく。
思い返せば、クレイドル襲撃。
あれはORCA旅団の予定外。
本来なら、企業の重鎮と取り引きして、
クレイドルの電力を衛星軌道掃射砲に回す。
宇宙への道を切り開く。
反動勢力なんて馬鹿げてるとは思うが、
それでも奴らなりの理念があった。
世界だの、人類だのの為にって。
そんな連中にとって、
ストレイドとオールドキングの虐殺は、
連中の名を貶めただけだ。
許しがたい反逆行為。
『結果論だが、企業の応援になる。
共闘を受け入れないか?』
渋い声が聞いた。
おそらく【月輪】の方。
リンクス名はネオニダス。
確かに悪い話じゃないが、
俺は異を唱える。
「企業を救援?
そんなつもりも無ぇだろう。
ついでにクラニアムを頂いて、
エーレンベルクを奪い返す。
クローズ・プランのやり直しだ。
共闘して、終わった途端に、
今度は後ろから撃たれるのか?
余計なリスクは負いたかないね」
『若いのに、用心深いな。
殺すには惜しい人材でもある。
いっそ仲間にならないか?
後ろから撃つ必要が無くなる』
「俺みたいな粗製を誘うんじゃねぇ。
足手纏いもイイトコだぜ?」
『そう謙遜するな。
メルツェルも、お前の腕は、
高く評価している』
「“腕は”だろ?
馬が合わないとは思ってる」
『地上育ちと聞いている。
クレイドルに不満は無いか?』
「不満はあるが、
あんたらのやり方も不満だ。
気に食わない相手だからって、
後から騙すのは、俺の品性に関わる。
最初っから、お断りするぜ」
『なるほど、惜しい男だが、
テルミドール。
諦めるしか無さそうだぞ?』
『シリエジオはどうだ。
共に来ないか。
弟子の命を助けてやってもいい』
『お断りだ。
うちのをお前達に預けたのが、
まず1つ、間違いだったと思ってる』
『そうか、残念だ。
……真改、ここは任せる』
『承知』
【ステイシス】と【月輪】、離脱。
先行してクラニアム中枢へ。
慌てて追おうとするシリエジオの鼻先を、
高出力のブレードが阻む。
立ち塞がるリンクス、真改。
AC【スプリットムーン】。
更に連撃を繰り出す相手に、
シリエジオは後退。
彼女の得物は銃器だけだ。
閉所でブレード相手は分が悪い。
俺は間に切り込んで、
ブレード同士で斬り結ぶ。
「先に行けよ。閉所で2人じゃ、
かえって、やり難い。
俺はヒーローなんでね、
一足遅れて登場させて貰うぜ」
『……フッ、言ってろ。
そんな調子で死ぬんじゃないぞ?
尚更、格好悪い』
「はは、そいつは違ぇ無ぇ」
そう言いながら、
俺の額に汗が滲む。
真改。
AC名【スプリットムーン】。
レイレナードの生き残り。
以前、AFの情報と一緒に、
ORCA構成員のデータを入手した。
ストレイドがリークしたアレだ。
そこから、ブレード使い、
高機動戦闘を得意とするとか聞いている。
相手にとって不足は無ぇ。
ってか、俺が不足。ヤベェ。
低空から斬撃。
交えた剣を、反動で叩き上げる。
その下を、シリエジオがクイックブースト。
スプリットムーンをすり抜けて、先行。
『いいな! 死ぬんじゃないぞ!』
姐御、念を押して行く辺り、
あれでも恩義に感じてんのかね?
すり抜けるシリエジオの姿に、
一瞬気を取られるスプリットムーン。
俺は隙を逃さない。
更にブレードで強襲する。
出力で劣る剣だが、
相手の方が振り遅れた。
威力を活かし切れていない。
「ハッ! アンジェほどじゃねぇな!!」
『……旧知?
お前は、アンジェと』
アンジェは故人。こいつの旧友。
リンクスで、ブレード使い。
レイヴン殺しの異名を持ち……
直接なんて知らねぇよ。
お懐かしい名前を聞いて、
せいぜい動揺してろ。
剣の腕で劣る。
持ってるネタをフルに使う。
俺は剣士じゃない。
ただの粗製リンクスだ。
手段なんか選べねぇぞ?