〜Piercing the Sky/ACfA別解 Phase26〜


『よう、生きてっか?』

 その日の悪夢は、
 昼下がりの着信から始まった。

 相手は技術屋の爺さんだ。
 何か、久しぶりだな。

 確か爺さんは、ホワイトグリントの撃墜、
 ラインアークが傾いた頃から、
 GA側と繋ぎを取っていたハズだ。

 しかし、同じGA側、
 クーガーのメガネ女の下に居る俺にも、
 こいつの情報は入って来なかった。

 ま、元気そうで何よりだが、
 どこへ行っていたのやら。

「生きてるよ。用事か?
 今は手が離せないぞ?」

『そいつぁ、アレか?
 ストレイドの兄ちゃん対策か』

「いんや、副業の方」

 現在地、GA支配領域上空。
 高度6000m。

 新型アルテリア・ブースターの
 実働試験中だ。

 カーパルス奪還と、
 撃墜によるクレイドル減少。
 幸か不幸か電力が余ったってんで、
 少しばかり回して貰っている。

 アルテリア施設から電力を受け、
 半永久的かつ縦横無尽に飛び回る、
 この新型ブースター。
 加速力自体に問題は無い。

 だが、横にブン回すと振動。
 立て直すまでの間、
 進路が左右に激しくブレる。

 真っ直ぐ飛べば問題無いんだが、
 アサルト・セルの攻撃を掻い潜る為に、
 左右の旋回は外せないだろう。

 安定性に不安。
 改善の余地アリ、だ。

『するってぇと、
 メガネのお嬢ちゃんの方か。
 好きだねぇ、お前も』

「そんなんじゃねぇ。
 ってか、分かるのか?
 まだ説明も何も」

『新型ブースターだろ?
 振動音がVOBと違ぇ』

 は。さすが技術屋。
 俺なんかサッパリだぜ。

「で? 爺さんはどうした。
 何かあるんじゃないのか?」

『あー、いや。
 お前さんが無事だってんなら、
 とりあえず構わねぇや』

 ……何か、的を得ねぇな。

「爺さん、何を企んでる?」
『いんやー、何も?』


「とぼけやがって。

 ……まぁ、いいや。
 爺さんも当分の間は、
 アルテリアに近づくなよ?

 ストレイドに罠掛けようって、
 企業のリンクスが今、用意してる。
 戦闘になったら巻き込まれるぜ」


『ほっほー、そりゃ、ご親切に。
 誰が指揮を取ってんだ?
 マイブリスの兄ちゃんかい?』

「いや、復帰したウィン・Dだ。
 海から引き上げた機体も、
 状態が良かったからな」

『……何だって?』


「だから、ウィン・Dだよ。
 ウィン・D・ファンション。

 まぁ、機体の用意が間に合えば、
 指揮はリリウムに譲るかも知れんが。

 2人ともクールに見えるが、
 内心は雪辱戦だって、
 かなり息巻いてる様子で、な」


『……場所は?
 やっぱクラニアムか?』

「ああ、知ってんのか?
 ここらで特にデカイっていう」

『あっちゃー、何てこった!
 お前、今、どこだ?
 クラニアムまで何分掛かる!?』

「は? 何だよ、急に」


『だっから、お前、
 クラニアムへ行くんだよ!

 戦術核レベルの大型コジマミサイルが、
 クラニアムに向かってんぞ!

 早く撃墜してやらねぇと、
 丸焼きになっちまう!』


 ……何だって?

 俺、ちょっと熟考。
 考えを纏める。

 行方を眩まして、
 隠し事をしていて、
 ミサイルの攻撃を知っていて?

「……爺さん、そのミサイルは、
 あんたが作ったのか?」

『おうよ!』

「ストレイドに頼まれて、
 って事で、間違いないな?」

『……お、おうよ』

 つまり、ストレイドの協力者は、
 爺さんだったのか。

 いや、爺さん“も”と言うべきか?
 他に誰が居るとも知れねぇ。

 が、まぁ、ともかく、
 爺さんは敵側に回った。

 って事は、あの強敵どもが、
 珍兵器を片手に出て来るのかよ。
 それも、やり難い話だが……

「じゃ、何だって今更、
 助けてやろうと思ったんだ」

『そりゃ、お前、
 美人を丸焼きにしちまったら、
 勿体無ぇだろうが』

「このエロボケジジィ!
 じゃあ何だって、
 野郎2人の方についたんだよ!」

『ロマンって奴よ、ロマン!
 苦しい方についた方が、
 人生、面白味があるだろー?』

 相変らず、フザけたジジィだ。
 聞いてて頭が痛ぇぜ。

「あんたなぁ……
 クレイドル落とす様な奴らと組んで、
 タダで済むと思ってんのか?」


『へっ、阿呆が。
 お前さんは何も聞いてねぇか?

 企業の偉い奴らは、
 自分達の保身と引き換えに、
 クレイドルを明け渡す気だったんだぜ?

 俺は地上生まれの地上育ちだ。
 連中がどうなろうが知らねぇ。

 だがな、これだけは分かるぜ。
 その企業の連中ってのは、
 生かしておいちゃならねぇ。

 お空の一般人を犠牲にする奴らだ。
 地上の一般人も犠牲にするだろ。

 いいか? これはチャンスなんだ。
 ドサクサに紛れて悪党どもを一掃する。

 金や権力に隠れている奴らも、
 無差別大量殺人者が相手だ。
 逃げ隠れは出来ねぇぜ』


「……爺さんって確か、
 孫が居たよな」

『娘の忘れ形見って奴だ。
 あの子が安心して暮らせるように、
 俺は、偉い奴らと戦わなきゃならん』

 大体の理屈は分かった。

 企業の連中を始末する。
 その代わりに技術や何かを提供する。
 交換条件ってトコだろう。

 可愛い孫の為に、
 虐殺者まで利用する。
 捕まって死刑も覚悟の上か?

 老い先短い身、
 命も惜しくないんだろうが、
 知ったら孫は泣かないか、それ。

 まぁ、爺さんの人生だ。
 身の割り振りは、
 自分で決めりゃあいい。

 問題はミサイルだ。
 どう対処するか。

 とりあえず進路修正。
 目標、アルテリア・クラニアム。

 次、爺さんから情報収集。

「戦術核レベルって言ったな。
 その大型ミサイルは何発だって?」

『たっぷり20発。
 一発でも直撃すりゃあ、
 ネクストぐらい蒸発するぞ』

 馬〜鹿〜野〜郎ぉ〜!

 ロクに後先考えずに、
 馬鹿みたいなモン作って、
 馬鹿みたいに撃ちやがって。

 ネクスト相手だぞ?
 プライマル・アーマーなんか、
 前提の前提だ。

 それが1発で蒸発する破壊力。
 通常兵器の射程で撃墜したんじゃ、
 巻き添えになるのは必定だろう。

 次、オペレーターの確保。
 メガネ女と通信する。

「おい、聞いてたか?」

『当然。クラニアムにも連絡送った。
 でもウィン・Dは逃げないって』

 だろうな。

 現地の作業員だの何だの、
 非戦闘員を見捨てて逃げるほど、
 ウィン・Dの信念はヤワじゃない。

 と、なると、
 クラニアムは迎撃体制。

 問題は、撃ち落とせるか、だ。
 長射程兵器が間に合わん可能性もある。

 やっぱり俺がやるか。

「爺さん、ミサイルの位置情報を寄越せ!
 相棒、クラニアムまでは」

『あと3分!』

 メガネ女の返事と同時に、
 ミサイル位置情報、取得。

 ……ギリッギリだ。

 距離、約15万。
 頼りは対アサルト・セル用、
 特殊長射程兵器。

「距離10万で仕掛ける。
 気象データを!」

『ラジャ!』

 データリンク。
 軌道修正。
 狙撃モード起動。

 ……何も見えん。
 当たり前か。
 距離があり過ぎる。

 弾丸はロケット推進。
 飛距離の方は問題無い。

 数段階で推進剤を点火する、
 まるで爆薬をしこたま積んだ、
 スペース・シャトルみたいな物だ。

 問題は誘導性。
 見てくれこそミサイル風味だが、
 誘導機能は持ってない。

 対固定目標、アサルト・セル用の代物。
 対象の回避を視野に入れてないのさ。
 ミサイルみたいな動体を狙うなら、
 当たる方へ撃ってやらんと。

 しかし……見えん。
 遠過ぎる。

 遠過ぎるんだが、
 早く撃ち落さないと、
 落としても巻き添えになる。

 目で見て撃つんじゃない。
 レーダーを、火器管制を信じる。

 まず、第1射。

 ……音沙汰無し。
 こりゃあ外れたな。

 第2、第3射。

 遠くで微かに光が見える。
 爆発したか?

 いや、ミサイルの規模じゃない。
 弾丸が地面に着弾しただけだ。
 レーダー上もミサイル健在。

 ……ダメだ。当たらん。
 角度を変えるか?

 現在の進路、ミサイル方面。

 ミサイルの進路は、
 自機の正面を横切る。

 右から左へと横切って、
 その先にあるクラニアムへ、だ。

『ねぇ、どうするの?
 これ以上接近したら、
 巻き込まれるわよ!?』

「分かってる!
 今、考えてんだよ!」

 自機、進路を若干右へ取る。

 左方からは砲撃。
 クラニアム側の迎撃だろう。
 が、ミサイルに当たる様子は無い。

 長射程武器の方はともかく、
 広域レーダーが間に合わなかったか?

 自機、ミサイルを超過。
 その進路後方へ回り込み、
 急速旋回する。

 機体もブレるが、最大望遠。
 俺は視界にミサイルを捕らえた。

 横に高速移動する物体よりは、
 真っ直ぐ離れていく方がマシだ。
 狙い易いだろう。

「ラスト、ワンチャンス!」

 左右同時に発射。
 2発のロケット弾がミサイルを狙う。

 ミサイル、爆発。
 一塊に飛んでいた20発のミサイルは、
 誘爆して派手な光を撒き散す。

 ほとんど白に近い緑の光。
 コジマ粒子だろうが、
 何て濃度とエネルギーだ。

 と、爆発が近過ぎたか?
 横殴りのショックウェーブが来る。

 揺れるなんてモンじゃねぇ。
 コントロール不能。
 錐揉み状になって吹っ飛ばされる。

 俺はヘルメット越しに頭を強打、
 意識を失った。


 それから……何分経った?
 自機はまだ、空中を飛んでいた。

 アルテリア・ブースター、健在。
 しかし、相当ガタが来ているらしい。
 カメラ視界が酷く揺れている。

 それと、異常音。何だ?

 よくよく見れば、警報。
 アルテリア・ブースターに危険信号。
 爆発しそうなのか。

 仕方無い。
 自機、ブースターをパージ。
 とりあえず着陸する。

『……ぶ!? ちょっ……
 生きて……応答……!』

 メガネ女の掠れた声がする。

 濃密なコジマ粒子の奔流で、
 変な磁場でも発生したんだろう。
 劣悪な通信状況。

「ああ、大丈夫だ!
 生きてるよ!」

 向こうも聞こえ難いハズだ。
 俺は声を張り上げた。

『良かっ……
 クラニアム……じ……』

「無事つったか?
 ああ? 聞こえねぇぞ!?」

 言いながら、
 俺は周囲を見渡す。

 眼前に広がるのは、
 巨大なクレーターが、
 幾つも重なった様な風景。

 ……危なかった。

 幸い、クラニアムまでは届いていないが、
 届いていたら、どうなったやら。

『ねぇ、聞こえてる?
 大丈夫なのよね!?』

 ようやく通信状況が戻って来たか、
 明瞭な通信。

 少し冷静になって、
 俺はメガネ女に謝った。
 ちょい、情けない声で。

「……すまん、ぶっ壊れた」

『どこが悪いの!?
 大丈夫!? 出血は!?』

「俺の身体じゃなくて、
 ブースターが、な」

『な、何だ……
 いいよ、また作るから』

「一応、持って帰る依頼だろ?
 報酬は受け取れねぇ」

『いいって。修理費ぐらい出すよ。
 データは取れたし』

 あの状況下で?
 そりゃあ、逞しいこって。

「んじゃ、まぁ、帰還するか。
 これだけ撃ってんだ、
 もう来る気なんか無ぇだろ」

『待って。通信。
 マイブリスから』

「ロイ? どうした」


『お疲れの所、悪いんだが、
 加勢を頼めるか?

 クラニアムで交戦中。
 2名様ご案内だ』


「ストレイド達か!」


『他に居るかよ。
 ミサイルが爆発した辺りで、
 乱入して来やがった。

 クラニアムの外で、
 迎撃部隊の指示に当たっていた所で、
 防衛網の隙を突かれて、な。

 連中、俺達が仕掛けた罠を利用して、
 逆に待ち伏せしてる。
 正直、手に負えん』


 なるほど。アルテリアは他にもある。

 ミサイルを撃ち落せなきゃ、
 待ち構えているであろう手練が、
 何人か減ってくれる。

 撃ち落したら撃ち落したで、
 立て直す前の混乱に乗じて、
 トドメを刺しに来る、か。

「加勢したいのは山々だが、
 こっちも装甲がヤバイぞ?」

『クラニアムの外、
 防衛部隊の拠点がある。
 補給も受けられるだろう』

「まだ持ち堪えられるのか?」

『こっちも1人じゃない。
 まぁ、何とかやるさ』

「……無理すんなよ?
 お前だけじゃなくて」

 本当に。
 ウィン・D辺りが早まったりすると、
 ロイの奴、庇って死に兼ねない。

 アルテリア・クラニアム。
 誰の墓標になるんだか……

 まぁ、分が無い勝負じゃない。
 今は行くだけだ。

 オーバード・ブースト起動。
 進路、アルテリア・クラニアム。


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