〜Piercing the Sky/ACfA別解 Phase29〜


「誘導しやがったな」

 クラニアム中枢へ向かう途中、
 俺はメガネ女に聞いた。

『何の事?』


「とぼけるなよ。
 有澤さんとリリウムだ。

 案内が途切れたと思ったら、
 そっちと繋ぎを取ってたかい?」


 と、これが俺の疑念。

 ナビ付きで迷子になるとか、
 そうそう無ぇだろう。

 まして、こいつはそもそも技術屋だ。
 図面を見間違えるハズも無い。

 で、疑問をぶつけてみた。
 帰って来るのは、
 どこかバツの悪そうな声。


『戦闘になったら、
 口を挟でも邪魔だと思って。
 だから、出来る事を探したのよ。

 ……かえって邪魔だった?』


「いんや?
 気が利くな〜って話」

『ホント!?』

 跳ね上がった様な、
 何とも嬉しそうな声。

 そんなに自身が無かったかね?
 それとも、俺に褒められたのが……

 ……ごほん、ごほん!

“相棒”は別に“恋人”じゃあねぇんだし、
 俺に父親代わりを求められても困る。

 あくまでも相棒として、
 仕事上のパートナーとして、
 評価を下しているのであって、だ……


「ま、まぁ、ほら、
 企業連は3チームに分けたが、
 ORCAが出て来て状況が変わった。

 チームを組み直すってのも、
 あながち……」


『待って。通信。
 ……メルツェルから』

 ORCAの奴が?

 しかも、作戦本部の回線経由で。
 機体からの通信じゃねぇのか?

 まぁ、いいや。

『こちらメルツェルだ』
「よう、めるめる」

『……メルツェルだ』

 相変わらず、
 冗談の通じない野郎だ。

「どっちでもいいが、
 今更、何か用か?」

『どちらでも良くは無いが、
 もう一度、聞いておきたい。
 こちらにつく気は無いか』

「シツコイねぇ、あんたらも」

『クレイドルの半数が地に落ち、
 結果論だが、軌道掃射砲の障害が減った。
 今更、枷になるのか?』

「落ちたっつっても、
 まだ残ってんだろうが」


『“人類総人口の過半数が、
 既にクレイドルに移住した”。
 そんな話を真に受けていたか。

 企業の利益にならない貧困層。
 企業が目を反らしている人口。

 彼らを合わせれば、
 地上の人口は7割に及ぶ。

 クレイドルが半減した今、
 それ以上だろう。

 その幾らかは戸籍すら与えられず、
 今、地上でも下層で、
 苦しい暮らしを強いられている』


「……知ってんよ。
 俺だって、そこの出だ」


『ならば、何を躊躇う。

 特権階級に抵抗したくはないか。
 君もリンクスだろう。
 そうするだけの力がある』


「他に方法があるなら、
 そっちを試したいと思って、ね」


『新型VOBの話は聞いている。
 だが、荒唐無稽だ。

 ネクストでアサルト・セルを落としたとして、
 その後はどうする。

 破壊したアサルト・セルは、
 デブリとなって宙を漂う。

 それを排除するのに、
 どれほどの時間を費やすのか。

 それだけの間に、
 地上の汚染は空に達し、
 クレイドルをも覆うだろう』


「全部撃ち落とす必要が、
 本当にあるのか?

 一部でも破壊出来れば、、
 幾らか遣り様はあるだろ。

 空に風穴を開ける。
 通り抜けられる道を拓く。
 それで十分じゃねぇのか?」


『限られた通り道を巡って、
 企業はまた、争いを続ける』


「それでも一部の権利者だけ救われて、
 大多数が死を強いられるよりは、
 幾らかマシだろうが。

 エーレンベルクを容認したら、
 企業の特権階級と何が違う」


『人類全体の、
 緩慢な壊死を待つよりは、
 現状に一矢報いたい』

「手段が手荒過ぎるだろ」

『他の手段が見つかったとして、
 手遅れでは困る』

「……それでも俺は、
 ギリギリまで待ちたいね」

『平行線か……残念だ。
 腕は買っていたが』

「よく言うぜ。
 いの一番に撃った奴が」


『彼の隠蔽を優先したまでだ。
 恨みは無いと言った。

 ……まぁいい。
 我々はクラニアム奪還を断念する。

 ストレイドを追うのは結構だが、
 爆発に巻き込まれるなよ?』


 爆発……爆破すんのかよ。
 融合炉か何かに細工しやがったな?

 アルテリア施設1つ失っても、
 計画に支障はない、か。

 ストレイド達の使用が試射代わりだ。
 出力が足りると踏んだんだろう。

 あるいは、まぁ、
 再建できる程度に吹っ飛ばす……か?


「……そうかい。
 で、何でそれを俺に教える。

 巻き添えにした方が、
 都合いいんじゃねぇのか?」


『……君は、もしかしたら、
 真のリンクスなのかもしれない。

 そうだとすれば、得難い人材だ』


 真の……何だって?

「機体の扱いのデキなら、
 あんたらの方が、よっぽど」

『コジマ粒子による、
 精神汚染については聞いているな?』

「AMSとかの精神負荷だろ?
 出撃すると酷ぇ疲れが……」


『それだ。その、疲労感。
 君は疲れるだけに過ぎない。

 度重なる出撃。精神汚染。
 並みのリンクスならば、
 とっくに精神崩壊を起こしている。

 君やストレイドには、それが無い』


「精神負荷に対する耐性って事か?

 確かに面白ぇ話だが、
 そんなモン、あってどうする。
 死んだら元も子も無ぇ。

 寿命が短かろうが、
 機体を上手く扱える奴こそ、
 上等なんじゃねぇのか?」


『機体の扱い、脳の情報処理能力。

 それは脳が器用か、
 不器用かの違いでしかない。

 機械との結合に対し、
 一切の拒絶反応を起こさない。

 過剰な情報を切り捨て、脳を活かし、
 尚且つ、機械を己が身体の如く扱う。

 後世の者は語るだろう。
 ある意味では、君達こそが、
 真の“リンクス”なのだと』


「……眉唾モンだな」
『私もそう思う』

「何だよ、そりゃあ」


『他人に聞いた話だ。
 詳しいデータも無い。

 君達が本当に耐性があるという、
 確信があるワケではない。

 ……いずれにせよ。

 君は現在ORCAの敵だが、
 同時にストレイドへの布石になる。
 生かしておく意味はあるだろう。

 爆破自体について、
 信じるも信じないも、
 君の自由だが……

 英断を期待する』


 そこでメルツェルからの通信は途切れた。
 リリウムが俺に聞く。

『どうなさいますか?』

「お前なら、どう見る」


『まず1つ、罠の可能性。

 ストレイドとオッツダルヴァ様……
 いえ、マクシミリアン・テルミドールが、
 企業軍に対抗する為、
 休戦を果たしてしまった場合。

 我々が退避した所で、
 クラニアムが完全制圧されます。

 ですが、仮に本当であった場合。

 退避という選択肢を捨てる事は、
 甚大な被害に繋がります』


「……本当だと仮定しよう。

 和解までしなくても……
 企業側への牽制として、
 ORCAストレイドを生かす事は、
 十分に考えられる。

 企業側だけ、やられ損は困る。

 ……有澤さんは重量機体だ。
 奥まで行ったんじゃ、
 脱出が間に合わん。

 引き返して、途中で、
 ロイ・ザーランドを拾ってくれ。
 位置情報を送る」


『気遣いに感謝する。
 埋め合わせは必ずしよう』

「ああ、それと!
 ちょい待ってくれ」

 俺は自機からショルダーユニットを外し、
 有澤機、雷電の肩に取り付ける。

『これは?』


「レーダーに反応するマーカーだ。
 発射すると床に杭を打つ。

 退路が分かる様に、
 適当に設置しながら行ってくれ。

 あんまりギリギリになると、
 ナビ聞いてる暇も無いだろうからな。
 レーダー見ながら飛ばした方が早ぇ」


『承知した。クーガーの製品か。
 便利な物を作るものだな』

「あのメガネ女だけ、
 ちょっと変わってるのさ」

『多様性を実現する天才、か。
 私もスタンスを変える事はしないが、
 興味深い人材ではあるな』

 有澤機、雷電が離脱。
 重い機体をオーバードブーストで、
 無理矢理に押し上げていく。

「あとは……相棒、避難勧告は」


『今、本部に伝えてるトコ。

 ダリオとスティレットは、
 損耗が激しくて、
 本部に戻ってるみたい。

 あと、ウィン・Dの回収。
 レイテルパラッシュ、動けないって。
 こっち、行ける人が居ない』


「そいつはリリウムに頼むか」
『単機では、危険なのでは』

「倒すとか無理だが、ね。
 逃げ足には自信がある」

『……分かりました。ご武運を』

 リリウム機、アンビエント離脱。


 これで、結局一人だ。

 いや、シリエジオがまだ、
 頑張ってるのかも知れんが……


 クラニアム中枢は近い。
 今一度、気を引き締めよう。


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