〜Piercing the Sky/ACfA別解 Phase30〜
クラニアム中枢に到達……
妙に静かだ。
視界には、開けた空間。
奴らの姿は上か。
階段状の足場の上方。
AC【リザ】、
リンクスはオールドキング。
その足元、半壊したAC【シリエジオ】。
片腕片足の有様だった。
しかし、コクピット、
コアをやられた様子は無い。
オールドキングの嗜好とも思えんが、
ストレイドの指示か?
当のストレイド、姿が見えない。
別働隊、ORCAの応対中だろうか。
っと、通信。
『貴方はそちらか』
ストレイド、か。
見ればリザの右、設置式の……
何か、通信補助装置らしき物体。
爺さんの作だろう。
こちらの傍受対策に、
独自の通信ルートを確保って所か。
加えて、厚い壁で隔てられた屋内。
あれを壊せば連絡も断てるんだろうが……
俺はストレイドに呼びかける。
「少し、聞いていいか」
『答えるかどうかは質問による』
「十何億って殺して、
お前、今、どんな心境だ」
『何も感じない』
「何も、か」
『貴方にとっても、
そんなに驚く事じゃないだろう。
私達は地上に居た。
ずっと前から、地上に。
人が争い、人が巻き込まれ、
そして死んでいく。
人が死ぬなんて今更だ。
数が多いから何だ。
それに……』
「それに?」
『……何でもない。
貴方には関係の無い話だ』
「お前、何があった。
何がお前を、そこまで駆り立てた」
『関係無い。
話す意味なんて無い』
「お前と俺は敵同士だ。
殺し合う。殺されたりする。
殺されるなら、一応、
理由ぐらい聞いておきたい」
『貴方は、納得すれば、
死ねる物なのか?』
「納得するかどうかは、理由にも寄る。
そいつで死ねるかどうか、も」
『……分かった』
『いいのか?』
と、オールドキングが口を挟むが、
ストレイドは言葉を続けた。
『問題無い。こちらは手空きだ。
彼には少し借りもある。
……私には、姉が居た』
「居た、か。過去形だな。
姉さん、死んだのか?」
『私がオーメルに近づいたのは、
その真相を調べる為だ。
新型AMS被験体。
姉は使い潰されて死んだ。
企業に殺された』
「企業の、その体制に対する復讐。
それがお前の動機か。
気持ちは分かるが、だからって、
何でも殺せばいいってモンじゃ無ぇ」
『たった1人の“大切な人”に比べれば、
何十億の、その他大勢の命が、
一体、何だって言うんだ!?
一般人も非戦闘員も関係無い!
私は独りだ。独りで戦う。
私には、その力がある!』
大層、気に障ったのか、
声を荒げるストレイド。
冷静な、あいつらしくない反応だが、
腹を立てるのは俺も同じだ。
「関係無くは無ぇ!
てめぇは独りで戦ってねぇ。
誰だってそうだ。
機体を組んだ奴。
パーツを作った奴。
その素材を開発した奴。
FCSのビス止め1つ見てみろ。
そいつが発明されてから、
お前んトコに届くまで、
どれだけ人間が関わったと思ってる?
材料の採掘、精錬に関わった奴。
そいつらの生活を支えた奴。
操縦のイロハは誰に教わった。
何人と戦って腕を磨いた。
お前に報酬を出したのは誰だ。
その金はどこから来た。
お前の機体は、技術は、命は!
何十億の、その他大勢が支えてんだ!
目を反らしてんじゃねぇッ!」
ストレイドはリンクスとしては優秀。
だが、それ以前の所が欠けている。
そこがまず遣り切れない。
姐さんと暮らしてきて、
一体、何を見て来たって話じゃねぇか。
あれだけ目を掛けられて……
と、ストレイド。
『……多分、きっと、
貴方の言う事は正しいんだろう。
でも、そんな理屈で、
私の感情は埋まらない!』
「それでも埋めなきゃならねぇ!
それが人間だ!
感情のままに力を振るう。
確かに、お前は強いだろう。
だが、そのお前を倒す為に、
企業は、社会は、また努力を重ねる。
お前は一体、何人の“姉さん”を、
この世に生み出せば気が済むんだ?」
『……私で終わりにする。
企業の痛ましい犠牲者も、
くだらない負の連鎖も』
「死なせたくない奴の1人や2人、
もう居ないってのか!?」
『私を死なせたくない奴が居ない。
だから、平等だ』
「少なくとも姐御、お前の先生は、
昔のお前を取り戻したかった。
そうじゃないのか?
俺だって、別に、
殺してやりたい程じゃない。
お前はどうなんだ。
例えば先生は、お前にとって」
『先生…………』
「死なせたくない奴が居る。
そいつの生活を支える奴が居る。
だから無暗には殺せない。違うか?」
『私、は…………』
ストレイドはその言葉に、
僅かな迷いを滲ませる。
だが、それを断ち切るかの様に、
オールドキングが俺を制した。
『戦争屋風情が……
選んで殺すのが、
そんなに上等かね」
「殺さねぇのが上等つってんだ!
俺だってお前と同じ、人殺しだ」
『同じなら、分かるだろう?
そんな拘るなよ。
善人を気取ったって、
所詮、悪党の集まりなのさ』
「善悪に拘ってんのは、
それこそ、お前じゃねぇのか?
命は平等、多数決で善悪決めて、
殺したモンじゃねぇってな。
――――“リザ”は」
『はっ、はははは!
安い挑発だぜ、亡霊野郎。
相棒、もう、いい頃だろう?』
『……ああ、そうだな。時間だ』
爆発。頭上からだ。
ORCAの連中が仕掛けたって奴か。
それを知っていた辺り、
ORCAの連中、ストレイド達にも、
その情報を流したんだろう。
例えば、企業への牽制の為に。
奴らを生き残らせる事で、企業と戦わせ、
漁夫の利を狙おうとか、そういう……
っと、考え込んでる場合じゃない。
爆発と振動。
崩落を始める天井。
「上で待ってるぜぇ、【レブナント】。
5年越しだかの因縁に、
ケリをつけようじゃねぇか」
挑発めいたセリフを残して、
オールドキングは一足先に撤退。
レブナントってのは、
ノーマル乗り時代、
俺の愛機の名前だった。
意味は“亡霊”。
死に損ないってトコだな。
機体も、俺自身も……
さて、先方からのご要望だ。
さっさと追いたい所だが、
俺はシリエジオの姐御を回収しねぇと。
シリエジオ……再起動は無理だな。
コクピットを開ける。
リンクスだけでも回収する。
助け起こした彼女は、俺の機体から、
ストレイドに言葉を放った。
「私では、姉の代わりになれなかったか」
『先生は、先生だろう。
代わりなんて居ない。
姉さんにも……先生にも』
返ってきた、意外にも温かな言葉。
姐御は目を丸くして、
しばらく言葉を失っていた。
「それなりに愛されてた、って事か?」
「……ハッ! 不器用過ぎるだろう。
まったく、誰に似たんだか」
肩をすくめ、
力無く笑うシリエジオ。
そりゃ、あんたの弟子だ。
あんた似だろうさ。
っと、感傷に浸っている場合じゃない。
いよいよ崩落が激しくなる。
「脱出するぞ!
リリウム、ウィン・Dは!」
『既に回収しました。
貴機も脱出を』
互いに無事を確認しつつ、
各機、撤退する。
崩落するクラニアムを放棄して、
次なる戦場へ……