〜Piercing the Sky/ACfA別解 Last Phase〜
『リンクス、調子はどう?』
管制塔より通信。
メガネ女が俺に聞いた。
「恨めしいほどの青空だ。
こんな日はバカンスでも行きたいんだがね」
と、俺。愛機のコクピットで応える。
『気分じゃなくて、身体の調子を聞いてるのよ。
違和感とか無い?』
「いんや。いつも通りだ」
そう、いつも通り。
俺の調子も、メガネ女の口ぶりも。
至って普段通り。
……依頼の内容を除けば、だが。
『なら良し。出撃まで、あと5分ぐらい。
ゆっくりしてて』
「はいよ」
俺は座席にもたれ掛る。
AMS接続した、俺と機体のカメラ。
機体の前には、空へ向かって長大な坂道。
いわゆるマスドライバー施設が横たわっている。
自機の後方には、流線を基調とした巨体。
ロケットを上下左右に並べた様な代物。
メガネ女の作、アルテリア・オーバードブーストだ。
略称はAOBってトコか。
どうにか“試作品”の域を脱したらしい。
こいつらで、俺は空に向かう。
空をブチ抜いて、宇宙へ。
アサルト・セル包囲網に、風穴を開ける。
それが俺の受けた、今回の依頼だ。
人類の命題、空の壮大なゴミ掃除。
その記念すべき第1歩。
地上からの支援は、無し。
クレイドルも減ったが、アルテリア施設も減った。
ストレイドの奴が、派手にやりやがったんで、な。
お蔭でエーレンベルクは動かせない。
AOB飛ばすのがやっと。
まぁ、それでも飛んでくれるからな。
乗りかかった船、相方への義理。
俺は行くだけ行ってみる事にした。
出撃まで、あと5分弱。
俺は退屈しのぎに、無線のスイッチを入れた。
『明後日、正午。クレイドル5を襲撃する。
共に来る者は拒まない』
広域放送。声の主はストレイド。
差し当たり、犯行声明とでも言った所か。
奴は続けて、言う。
『逃げたければ逃げればいい。
阻むならば阻めばいい。
私はただ、行くだけだ』
あいつは今、人類種の天敵として大地に君臨。
現在の企業体制に異を唱え、反攻作戦を繰り返している。
『私もまた、いずれは報いを受けるだろう。
その時が来れば、それは甘んじて受けよう』
罪を背負い、尚も進む。
ひたすら孤独に行く。
変革と贖罪の道を。
流血の償いを、流血で。
世界が変わるまで死に続けろ。
これまでに死んだ者達の為に。
そんな、屈折した戦いの道を行く。
そんなあいつだが、少なからず味方が出来た。
反企業勢力。民間人、テロ組織、ORCA残党の一部。
ORCA本隊もまた、度々共同戦線を張っている。
図らずも、オールドキングと同じ……
いや、むしろ逆か?
誰を先導したワケじゃない。
しかして、テロ屋は図らずも英雄に、か。
『私を止めて見せろ。
私は私が打ち倒される様が見たい。
政治の腐敗、大地の汚染、不公平な世界。
それでも、そこに正義や希望があるのなら。
私は、それを見てみたい』
正義、ね。
そんな物が果たして、存在するのかどうか。
正義って奴は、定義がそもそも曖昧だ。
個々人で思い描く物が違う。
定義がそれぞれで……
だから、あるって言い切る奴の心中には。
もしかしたら、それなりの物があるのだろうか。
が、あの純真で不器用な天災坊や。
あいつの思い描く正義ってのは、難しいかも知れない。
それが分かっているからこそ、だろうか。
“俺が納得して死ねるだけの、世界の理念を見せてみろ”。
“それが出来るまでは死んでやらない”。
そんな、意固地とも取れる闘争。
止めてみろ、殺してくれと言う。
その反面、戦う事を止められない。
基本、死にたがり。
そのくせ銃を向ける。
戦う事が習慣化している。
AMS常用者の常。
精神負荷。
破綻していく人格。
幾ら、常人よりも耐性があった所で……
果たして、あいつは今、正気か否か。
まぁ、その人格がどうであれ。
企業はあいつ1人によって、多大な流血を強いられている。
ORCA旅団の内紛後。
ストレイド単独での犯行でさえ。
それでもクレイドルは、3つ4つ落とされた。
無論、向こうも無傷じゃない。
少なくとも、オーメルから強奪されたAF。
自動化された【アンサラー】。
その主翼は3割ほど失われている。
撃墜は時間の問題だろう。
いずれケリがつく、か。
ついたとして、世界はどうなるか。
多大な犠牲を顧みて、争いを控えるだろうか。
それとも、そんな犠牲故に……
例えば抑止力を理由にして。
さらなる軍事の道にひた走るのか。
人類の中に、正義らしい正義があるのかどうか。
それはその段階になって、ようやく見えるのかも知れない。
が、俺にそれは、どうでもいい。
坊やは俺と戦いたかった、とも聞いた。
“世界はそういうモンだ”に逃げなかった、小賢しい大人。
自分の出した答えに、採点でも欲しかったのか。
しかし、俺にそいつは語れない。
否定も肯定も出来ない。
どうなるか、前例を見たワケじゃない。
何より……俺の選んだ答えは、これだ。
『時間よ。カウント開始するわ』
AMSの電子視界の片隅に、表示。カウントダウン。
こいつがゼロになったら、AOBが起動される。
宇宙に向かうってのは、結構、難儀なモンでな。
気象条件やら何やら、タイミングも重要らしい。
だから出発時間を割り出すのは機械の仕事。
俺が決めるのは覚悟だけ。
「まず1基、だな」
『3基よ。安全に帰れるだけ、退路の幅を確保しないと。
ある程度は射角を変えて来ると思う』
「3基ねぇ……出来ると思うか?」
『出来ないと思う?』
「やるだけやってみるが、前代未聞だからな。
どうなる事やら」
『平気よ。私が作って貴方が飛ばすんだもの。
平気に決まってるじゃない』
その自身は、一体どこから来るんだか。
こいつなりに励ましてるつもりか?
機械マニアのヘンテコリン。
最初の頃は、俺の命より機体を優先してた位だ。
それが、よくもまぁ懐いたモンだ。
そして、俺は俺なりに。
こいつに影響されつつあるのか。
情に、話に乗せられるまま、宇宙へ。
協働者、パートナー。
それも悪くは無いさ。
向かい合って、言葉や弾丸をぶつけ合う……
それだけが人間関係じゃないだろう。
時には肩を並べて、同じ方を向いて、だ。
機体及び装備、各部異常無し。
センサー類、感度良好。
カウントダウン、残り5秒。
「おし。行って来るぞ」
『おー!』
AOB起動確認。
急加速。
マスドライバーより離陸。
自機は空へと昇って行く。
俺の選んだ答えは、これだ。
クレイドルは落とさない。
現状維持でも、これまた困る。
アサルト・セルの包囲を破る。
空に、人類の活路を開いてやる。
とは言え、現状は俺1人の孤立無援。
アサルト・セルは空の上、無数に散らばっている。
どうなる事やら、だが……
行ける所まで行くさ。
今はただ、空を貫いて。