Burn Away!
〜最終焦〜


「それから?」

 と、テーブルに頬杖をつきながら、子供が聞いた。
 耳が長くて尖っている、エルフの子供だった。

 私の傍に、子供は他にも。
 エルフの子供も、人間の子供も居た。

 暖炉の前のテーブルを囲んで、合計5人の子供と。

 共に座るのは私、クライオ・ディープホワイト。
 少しだけ勿体つけた様な言い方で、先の子供の問いに答える。

「ふふん、それからか。
 我々は精根尽き果てるまで、その力を振るった。
 しかしマグマも冷え固まっていく。その足を緩めていく。
 ……そして、ついに!」

「おおー!」

 反応が良いな。
 勿体つけ甲斐がある。

「我らが力を使い果たす、それと、ほぼ同時。
 マグマはついに、その足を止めた。
 我らは町や人々を守ったのであーる!」

「やったー!」

 と、子供達。
 拍手喝采を送って寄越す。

 が、すぐに、

「ねー、それから?」

 興味が尽きぬのか。好奇心旺盛な。
 将来は学者にでもなるかね?

 まぁ、良い。

 このクライオ・ディープホワイトの英知を以て。
 答えられる問いには、全て答えよう。

「それから、な。
 ブレイズ達との戦いを終え……
 次の日、我々は、元の世界に帰る事になった。
 レッドの仲間が、次の日にまた、空間を超える用意をする。
 そういう約束、手配が済ませてあったのだ」

「帰っちゃったの?」

「そうだ。元の世界には、大量殺戮組織の問題が残っている。
 それを解決しなければならない。
 私とブラック、ペイル。それに、ベノムとシャドウもか。
 皆は組織打倒の為、旅立って行った」

「他の仲間は?」

「リリーやリヴェットも、付いて来たがったのだが……
 カウリーの説得あって、彼女らは何とか留まってくれた。
 こちらもまた、立て直さねば、と」

「ついて来て欲しくなかった?」
「我々の問題だからな。我々で片付けるさ」

「でも、こっちの問題は片付けてくれたじゃん」

「あちらの世界では、魔法が使えないかも知れない。
 そう、サウザント老が申したので、な。
 大事を取ったのだよ」

「そんな事、あるの?」

「魔法を使うに必要なのは、術式だけじゃない。
 神だか精霊だかの恩恵が必要だ。
 それが私達の世界では、無いか弱いかって可能性がある。
 そんな所に魔法使いが踏み入っても、戦えない」

「ふーん?」

「ま、とにかくだ。元の世界に戻った。
 ブルー達に協力して、大量殺戮組織を壊滅させた」

「……それから?」

 と、別の子供。

「ふむ、それから。
 組織が壊滅し、その全容が明らかになった。
 関与していた国家役員どもは、罪を問われる事になる」

「直接殺したんでなくても?」

「そう。殺“させた”のでも、立派な罪になる。
 そっちの方が重い罪に成り得る。
 覚えておくが良いぞ、少年よ」

「ふーん……それから?」

「人々は怒り心頭……まぁ、当然だな。
 我らを尻尾切りに使うつもりだった運営側、幹部役員ども。
 彼らは並々ならぬ罰を受ける事となる」

「クライオおばさんは?」

「おばさんってゆーな!
 まだ30代始まったばかり!
 ギリギリお姉さんなのだッッ!!」

「はいはい。じゃあ、クライオお姉さんは?」

 えぇい、小生意気な坊主め。
 しかし他の子供達もまた、続きを待っている様子。

 ここは私が大人になるより他、あるまい。

「……こほん。
 我々5人の他、組織と戦う過程で投降した能力者。
 それから獣人や戦闘員達。
 後悔し、罪を認め、罰を受け入れる覚悟をした者達。
 その多くは流刑になった」

「ルケイって、何?」

「島流しみたいなものかな。
 ブルー達の計らいでな」

「どこに?」

「こちらの世界に、だ。
 我らの罪を償うには、死では軽過ぎるのだと。
 同時に、我らもまた被害者なのだと。
 しかし、あちらの世界で存在を許しても置けない。
 だから今、こちらの世界に居る。
 殺した以上に命を守り、また、育む為に」

「これからも、誰か来たりするの?」

「いや、投降した者は全て、こちらに送られた。
 そして次元を超える技術は、闇に葬られる事となった。
 もう、あちらの世界から人が来る事はあるまい」

「そっかー……」

「これで一応、メデタシメデタシ、だ。
 もう質問は無いかな?」

「ねぇ、一緒に戦った人たちは?
 その後、どうしてるの?」

「まず、リリーの兄弟子・カウリー。
 サウザント老を助けながら、領主の下で働いている。
 リヴェットも領主の所に居たが、カウリーと結婚したとか」

「仲、悪かったんじゃないの?」

「ああ、そうなんだがな。
 彼女は一直線で危なっかしい所がある。
 それをフォローされる内に、愛情でも芽生えたんだろう。
 カウリーの方も、相変わらず才能を持て余しているが……
 寄り添う相手を見つけて、少しは落ち着いてきたか」

「ペイルお姉ちゃんは?」

「ペイルは、ベノムやシャドウを連れて旅をしている。
 私の代わりに二代目“白き魔女”をやっている。
 各地を巡り、人々を助けているよ」

 まぁ、彼女の事は知っているか。
 時々ここにも、顔を見せに来ている。

 事件から数年。少女は少なからず成長した。
 子供らから見れば、お姉さん。
 美人で色白のお姉さんだ。
 大層な人気を誇っている。

「他には?」

「他に……そうそう。グレイが奇跡的に生きていた。
 グレイ・サンダークラウド。
 氷漬け、仮死状態でな。魔法の治癒術が間に合った。
 処刑という話もあったが、ペイルの懇願で命を救われた。
 今は能力を抑制し、領主軍に武術を教えている」

「……ねぇ、黒騎士は?」
「んんー?」

「正義の黒騎士、ブラック・インフェルノ!」
「それは君達の方が、よく知っているんじゃないか?」

 と私が答えた所で、

「ただいまー」

 姿を現したのはリリー。
 続いてブラックも入ってくる。

「押し付けて、ごめんなさいね。
 子供達、うるさくなかった?」

「いや? みんな良い子で待っていたぞー?」

 ブラックとリリー、私の3人。
 行商をやる傍ら、交代で、孤児達の面倒を見ていた。

 こちらの世界の戦乱、内乱で、親を失った子供達。
 彼らの里親を探し、あるいは自立を支援する。

 かつて戦果を広げる側に居た、私やブラックらにとって。
 彼らの面倒を見る事は、償いであった。

 命を奪う側から、命を育む側へ……

 お世辞にも裕福とは言い難い生活だ。
 幸い、領主やサウザント一派からも援助がある。
 どうにかやって行けている。

 リリーにも苦労を掛けるが……
 彼女自身、子供の世話を焼く事を、楽しんでいる様だ。

 そして、私も。

 償いの道もまた、喜び。
 償いの道があるだけ幸せである。

 償う道すら与えられず、死んでいった同胞達。
 彼らの冥福を祈り、また、彼らの分まで償おう。

 出来る事を、1つ1つ……
 この命ある限り。


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