Burn Away!
第3焦 第3話
〜Burn the ChainH〜
ブレイズ亡き今、操り手を失った炎の力。
それはマグマの奔流となって周囲に広がる。
更に困った事に、マグマの流れは隣町に向いていた。
炎を操る元が居ないならば。
マグマを直接止めるしかない。
生存者は、その被害を食い止めようと試みる。
ペイルと私、冷気の能力。
魔法使いらの氷結魔法。
しかし効果が上がらない。
自分達の居る場所を守るのがせいぜい。
森が、草原が、マグマに飲まれて行く。
リヴェットがペイルに聞いた。
「何とかなりませんか!」
「ダメ。止めるだけならともかく、範囲が広過ぎる。
私たちも消耗している」
見るとカウリーが、伝書……何だ?
鳥の様な生き物を飛ばしている。
隣町に知らせをやろうというのだろう。
しかし、間に合うのか?
火の回りは早い。
マグマの触れた端から、草や木々が燃え広がる。
また、住民こそ逃げたとして。
作物にせよ住居にせよ、大きな被害が出るだろう。
作物……我々の世界の、食料問題が脳裏をよぎった。
命だけ助かったとして、その後はどうする。
食と職を失った男らは、妻子の命を守らんが為。
野党に成り果て、人を殺す。
命だけ救って、必ずしも救った事にはならん。
とは言え、ここで手を拱いていたとして。
何の対策も出来やしない。
頭の固い騎士らより、魔法使いに聞こう。
私はカウリーに言った。
「撤退が上策ではないか?
災禍を眼前に口惜しいが……
領主らと合流して、対策を練るべきだろう」
「確かに……仕方ありませんね。
手は尽くしたと言えます。
早々に帰還の上、対抗出来る術者を集めましょう」
「どれほど集まる?」
「我々サウザント一派は、すでに全て、この場に。
他の派閥に救援を乞うとして、事情が事情。
集まる人数の程は十分でしょう……人数は」
「問題は時間か」
「ええ。今は我々が、この地域の最大派閥。
他の集団の拠点とは、かなりの距離があります」
「集合まで何日も掛かるか。
車でもあれば……
まぁ、言っても始まるまい。
リヴェット、ペイル。ここは退くぞ」
「しかし……戻って対策を立てていたのでは!
犠牲は少なからず、避けられません!」
「義務感も分かるが、現実を見よう。
ここで炎と向き合っても、我らは非力。
出来る事をしよう。
近隣の民の救助に向かうのだ」
「……分かりました」
「同意」
私とペイルでマグマの流れを抑制。
動ける者が負傷者を担ぐ。
そんな折、だ。
「皆、先に行ってくれ」
唐突に、ブラックが言った。
奴はマグマに向かって立つ。
「ブラック、何をしている。
お前も避難するのだ!
炎で炎は消せん!」
「私の能力は炎じゃない。熱、その物だ。
熱は大気を膨張させる。
低気圧だ。上昇気流になる。
水蒸気を含んだ空気が、上昇して。
冷えて、雨になる」
「雨を……嵐を作り出そうというのか。
気象レベルの熱を練り上げるなどと。
どこにそんな力が残っている!?」
「それでもやらないと、いけないんだ。
今、やらなくては」
「無茶は止せ、ブラック!
限界を超えて力を出したら……
力尽きて倒れるなら、まだ良い。
下手に暴走すれば力が決壊し、飲まれて死ぬぞ!」
と、私は制するが、奴は聞かずに能力を発露。
強大な熱が柱となって立ち上り、大気粒子を励起。
煌々と辺りを照らす。
疲労困憊の我ら。
超能力も魔法力も、残り僅か。
ここに残ったとして、どれだけ役に立つか。
むしろ、我らの屍を積み上げるだけやも知れぬ。
この場はブラックに任せ、撤退するのが現実的だ。
しかし今更、誰が、奴1人置いていけるだろう。
リリーが杖を掲げ、ブラックの隣に立った。
拙いながらも炎の術で、ブラックの熱を加速する。
「リリー……」
「もう、置き去りは嫌だよ。
私はお兄ちゃんと一緒に居る」
「……分かったよ。
まったく、頑固なんだから。
でも、約束してくれ。無茶はしないって」
「分かってる。危なくなったら逃げる。
お兄ちゃんも連れて、ちゃんと逃げるんだから……」
「あーあー、こうなったらもう、もうですよ。
僕も残るしかないじゃないですか。
妹弟子を見殺しになんてしたら、僕の名前に傷がつく。
そこで寝てる爺さん先生にも、ぶっ殺されかねませんね」
「最悪の場合、我々が担いで逃げます。
どうか、ご尽力を! 存分に!」
カウリーが、リヴェットが。
その身を奮い立たせ、助力を申し出る。
続いたのはペイル。
「少し離れて、下降気流を作ろう。
空気を回せば発達する。
大空を重く冷たく。高く、遠く……冷やす。
クライオ、手を貸して」
彼女も頭脳は明晰。
小学生のそれとは思えん。
組織の英才教育の賜物か。
組織の所業も全くの無駄ではないのだな。
「下降気流、高気圧か。
分かった。だが、正面の火は」
「そっちは俺が食い止めてやる」
そう告げたのはブルー。
ブラックらの前に立ち、水を操ってマグマに投げ掛ける。
「お前まで……
そうする義理も無いだろうに」
「勘違いするなよ、ブラック・インフェルノ。
俺は、お前らを許したワケじゃない。
お前ら3人で、10億人は殺した。
自分1人死んだぐらいで、償える罪じゃない」
「……分かってる」
「だったら、20億も30億も救って見せろ。
それまで、お前は殺してやらない。
楽になんて、させやしない」
「……そうだな」
正面のマグマを、ブルーと魔法使いらが止める。
騎士団が土嚢を築く。
焼け石に水だが、やらんよりは良い。
ブラック達が低気圧。
私とペイルが高気圧を生み出す。
強大な熱、冷気。
次第に風が集まり、渦を巻いて天を貫く。
やがて、雨が降り出した。
大粒の雨がマグマに降り注ぎ、その熱を奪っていく。
雨で冷やせるのは表面だけだ。
しかし、このマグマも、火山噴火の物とは違う。
層が薄い。効果はそれなりに上がる。
問題なのは熱量。
鉄も煮溶かす、数千度の火。
まさに、焼け石に水。
広大な面積に雨が降り注ぐ。
この雨も、どれだけ維持出来るだろうか。
我らの力も残り少ない。
事態が収束するのが先か、我々が倒れるのが先か。
だが、倒れてもいい。
死んだって構うまい。
この場の誰しも、そう思っていただろう。
力は、正しい事に使いたい。
ブラックは以前、そう言っていた。
何が本当に正しいのか。
定かではない世の中ではあるが……
それでも私は、贖罪の道の一端を見た。
これから歩むべき道を、ようやく垣間見た様な気がした。
憎しみの連鎖を断つ。
悪しき感情と決別する。
かつての敵とさえ肩を並べて。
自分ではない誰かの為に、その命を張る。
小気味いいじゃないか。
命尽き果てようとも、もはや後悔は無い。
……やがて、どれほど粘っただろう。
風も維持出来なくなって来た。
雲は切れ切れになる。
力尽きた物は腰をつき、また、地に伏している。
こちらの残り、3割足らず。
だが、雲間から照らされる光景。
未だ内に熱を湛え、しかしマグマは黒を纏いつつある。
その足は、目に見えて遅くなっていた。
あと、もう少し……
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