〜竜と女の子の物語D〜


 竜を退治した女の子。
 彼女は王様から褒美を与えられます。

 土地や城、大勢の家来を与えられ、
 女の子は領主様になりました。

 大臣や他の騎士たちも、
 女の子を褒め称えます。

 美しく、勇敢で、地位も得た女の子。
 彼女と結婚したいという男性も、
 数多く現れました。

 ですが沢山の褒美も、賞賛の言葉も。
 求婚者たちの贈り物も、
 彼女の心を満たしてくれません。

「友達に戻れなくても、せめて謝りたい。
 私は竜に謝らなくては」

 女の子は家来たちに、
 竜の行方を捜させました。


 一方、遠くの山に逃げた竜は、
 さめざめと泣いていました。

 彼の赤い鱗は熱を失って、
 日増しに青く、冷たくなります。

 溜め息は白く凍り、
 山々を雪と氷で閉ざしました。

 近くの国々は霜で覆われ、
 作物が育たなくました。


「やっと見つけた」

 ある日、1人の女騎士が、
 竜の所に現れました。

 青い石の指輪をつけた、美しい騎士。
 それは、あの女の子でした。

 竜は覚悟を決め、言います。

「いいだろう。
 私を殺して両親の仇を討て。
 そして英雄になるがいい」

 ですが、女の子は剣を納めたまま、
 首を横に振ります。

「私はただ、貴方に謝りたいと思って、
 ここまで来ました。
 貴方は私の両親を殺めていません。
 居場所を失うのが怖くて、
 私は嘘をついてしまったのです」

 彼女の家族を殺していないと知って。
 竜は胸の支えが取れました。
 ですが、彼女が人の中で暮らしていく。
 その事を考えた場合。
 いつまでも一緒には居られません。

 竜は女の子に言います。

「もう、私の事は忘れろ。
 人間の中に帰れ。
 私と居ると人間から疎まれる。
 友だからこそ、離れるべきだ。
 私はお前に、幸せでいて欲しいのだ」

「どうか、そのような事を言わないで!
 自分だけ幸せになど、
 なれるはずもありません!」

 言い争う2人。
 すると女の子の後ろから、
 傷ついた兵士が現れました。

「領主様、大変です!
 隣国が領地に侵略して来ました!」

 何という事でしょう。
 野心家である隣国の王が、
 領主の不在に攻めて来たのです。

 民が危険に晒されている。
 女の子は竜に振り返ります。

「竜さん!」

「皆まで言うな。人間は嫌いだが、
 友に頼られるのは嫌ではない」

 竜は女の子を乗せ、飛び上がります。


 領地に戻ると、
 すでに戦いが始まっていました。
 2人は割って入ります。

 女の子の巧みな剣。
 心に熱を取り戻した竜の炎。
 2人は瞬く間に敵を追い払いました。
 領地に平和を取り戻します。

 しかし竜と女の子を見て、
 王様や騎士たちは驚きました。
 武器を手に、2人を取り囲みます。

「これはどうした事じゃ!」
「領主殿、その竜は一体!?」

 竜は今度こそ、覚悟を決めました。

「さあ、私を殺せ。
 手柄を立て、人間の世界に戻るのだ」

「私はもう、
 友達を裏切る事はできません!」

 女の子は王様や騎士たちに、
 本当の事を話します。

 友達になった事。
 竜が町を襲った理由。
 青い石の話。

 それを聞いて、王様は悩みました。
 女の子の友を思う気持ちに心打たれます。

 しかし大きくて恐ろしい竜。
 民の不安も分かります。

 悩み、考え……とうとう王様は、
 手を振り上げました。
 兵隊たちを引き上げさせます。

「陛下……よろしいのですか?」

「そもそもは、そなた以外、
 竜を退治できた者は居らぬのだ。
 いっそ野放しにするよりは、
 そなたに任せよう」

 それから竜は友人として、
 女の子の統治を助けます。

 強く大きな竜に守られて。
 女の子の領地は、
 長く平和を保つ事になりました。


 そして竜と女の子は。
 もう、ひとりぼっちではありませんでした。




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