〜竜と女の子の物語C〜


 多くの怪物や悪人を退治して、
 有名になった女の子。

 その噂を聞きつけた王様。
 女の子を騎士に取り立てようとします。

 人の輪に入るのが苦手な女の子。
 最初は乗り気ではありませんでした。

 ですが騎士になれば、
 放浪の旅を続けなくて良くなります。
 給与を得れば親戚達への恩返しも出来ます。

「上手くやっていけるのかどうか。
 でも、親戚の人たちには
 何か恩返しをしなければ」

 女の子は悩んだ末、
 王様の呼び出しに応じます。
 騎士になる事にしました。

 王様に会う為、
 女の子はお城に向かいます。

 豪華なお城で出迎えたのは、
 意地悪そうな貴族たち。

 女の子は、とても不安でしたが、
 王様は優しそうな人。

 彼は緊張しているとでも思ったのか。
 女の子の肩を叩いて
 落ち着かせてくれました。

 この人なら、仕えてもいいかもしれない。
 彼女は王様の前にひざまずき、
 騎士になる儀式を済ませます。

「身に余る光栄にございます」

「うむ。では、早速1つ頼みがある。
 北の山に住む竜を退治して欲しい」

 聞けば王様は、貧しい民衆を救う為。
 沢山のお金になる物を、
 竜の財宝を求めていました。

「少しだけ、準備させてください」

 暮らしが楽になると思ったのも束の間。
 友達に剣を向けなければならない。
 そうと知って女の子は思い悩みました。

 民の為を思えば、竜の財宝は必要です。
 しかし、友達だった竜を思うと、
 女の子の心は痛みます。

「さすがに竜が相手だ。
 恐ろしいのだろうか」

「平民出の小娘に何が出来る。
 大人しく引っ込んで居ればいいのだ」

 大臣や他の騎士は、
 遠巻きに噂をするばかり。
 悩みを相談出来る相手は居ません。

 有名になっても、名誉を得ても。
 女の子は、ひとりぼっちでした。


「もしかしたら、違う竜かも知れない」

「同じ竜だとしても。
 竜は私の事なんて、
 忘れているに違いない」

「見知らぬ者と思って、
 せめてお互い全力を尽くそう」


 とうとう女の子は戦う決心をして。
 竜の住む山へ向かいます。

 彼女のお供には、
 百人の兵隊がついて来ました。

 彼らは女の子を助けます。
 しかし同時に、
 彼女が失敗しないか見張るのです。

 いよいよ後には引けないと悟り。
 女の子は竜の住み家に入りました。

 すると、竜は居ました。
 やはり女の子の友達の、
 あの竜でした。

 女の子の姿を見つけると、
 竜は目を大きく見開きます。

「お前、人間の仲間ができたのか」

 どこか嬉しそうに言う竜。
 まだ気に掛けていてくれたなんて。

 女の子は嬉しくなりました。
 もっと話がしたい。
 再会の喜びを分かち合いたい。

 ですが、兵隊たちの目があります。
 竜の友達だと知られては、
 人間達に嫌われてしまいます。

 騎士でいられないのはともかくとして。
 また仲間外れにされてしまう。
 親戚たちにも、
 迷惑が掛かってしまいます。

「黙れ! 父さんと母さんのカタキ!」

 女の子は兵隊たちの目を恐れるあまり。
 とっさに、そう言ってしまいました。

 驚き、悲しそうな顔をする竜。
 とても見ていられなくなった女の子。
 剣を滅茶苦茶に振り回します。
 すると、竜は嫌がって逃げて行きました。

「やった! 竜が逃げて行くぞ!」
「お見事です、騎士様!」

 歓喜の声を上げる兵隊たち。

 ですが、嘘を吐いてしまった、
 友達を傷つけた女の子。
 とても一緒に喜ぶ気分にはなれません。

 それから、
 財宝をお城へ運び始める兵隊たち。

 女の子は彼らを手伝ううちに、
 一つ指輪を見つけました。

 指輪の石は、
 女の子が竜にあげた、あの青い石。

 それは磨かれ加工されて。
 他の宝物に負けないくらい。
 綺麗に仕立て上げられていました。

「これ、頂いても?」

「宝石じゃないみたいですし、
 どうぞお持ちください」

「ありがとう……
 ああ、私は、なんて卑怯なんだろう」

 友情の証を手に。
 女の子は兵隊たちから隠れた所で、
 涙を流しました。



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