〜悪魔と老人の物語G〜


 大天使が天国に戻ってみると。
 老人が雲の縁に立ち、
 地上を眺めていました。

 大天使は老人に話しかけます。

「たまの息抜きも結構ですが……
 人間に化けて悪魔に悪戯するなんて、
 勘弁してくださいよ。
 ねぇ……神様?」

 実は木こりの老人は、
 人間に化けた神様でした。

 この神様は、少し悪戯好きでした。
 度々、人間に化けて地上へ出向きます。
 そして悪い人間を逆に騙し、
 懲らしめていたのです。

 神様は大天使に答えました。

「ああ、うむ。確かに。
 可哀想な事をしてしまった、ねぇ。
 しかし、美しい悪魔もいたものだ」

「おや、神様ともあろうお方が。
 あの様な姿に惑わされましたか?」

「いやいや、そうではなくて。
 どんなに外見が醜くとも、ね。
 正しい心を持った者の姿は、
 美しく見えるものだよ」

 神様は大天使に語ります。

 本当の美しさとは、外見ではなくて。
 心の奥から湧き立つ物だという事。

 優しい心は、優しい顔を作る。
 歪んだ心は、歪んだ顔を作る。

「どんなに美しく生まれついても、ね。
 邪悪な心を秘めていれば、
 その顔は、姿形は。
 おのずと醜く歪んでくるだろう」

「……ああ、だから、
 うちの神様ときたら。
 小汚いジジィの姿に見えるんですね」

「お前も口が悪いねぇ。
 あの子と気が合うんじゃないかい?」

「まぁ、あんな天使が1人ぐらい居たとして。
 それも悪くは無いでしょうけどね」

 2人は地上を眺めます。
 あの悪魔は今、どこにいるやら。

 正しい者は、正しく報われて欲しい。

 あの悪魔の子の心は純粋だった。
 周りの汚い言葉に惑わされず、
 自分を貫いて欲しい。

 神様と大天使は、
 悪魔の前途を案じていました。

「……っていうか、どうするんです?
 不器用に一直線な、あの悪魔の事です。
 遠からず、本当に天使になるでしょう。
 神様が神様だってバレたら、
 物凄く怒ると思いますよ?」

「う、うむ……覚悟はしておこう」


 やがて、月日が流れ。

 善行を重ねた悪魔は天使になり、
 大天使の補佐役として。
 悪戯好きの神様を、
 日々、ド突き回したのだとか。



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