〜魔王と姫の物語O〜


 魔王は3人に別れを告げて、
 旅に戻る事にしました。

 姫は魔王の身を案じます。

「行ってしまわれるのですね。
 償いの為、過酷な旅に。
 私の様に非力な身では、
 妻となって支える事も出来ません」

「あの日、貴女の言葉は、
 頑なだった私の心を変えてくれた。
 私の力ではなく、
 私の存在を求めてくれた。
 これ以上の救いは身に余る。
 だから……私と貴女は友で良い。
 友で十分なのだ」

「約束、覚えていて下さったのですね」

「忘れる物か。
 では、さらばだ、友よ。
 どうか元気で」

「これから、どちらへ?」

「まずは、もう1人の恩人に会う。
 会って話したい事が、沢山あるのだ」

 魔王は、あの女の子を探しました。
 自分を退治しに来た、
 殺さずに帰った、あの女の子を。

 自分なりの答え。
 出会った人々の事。
 話したい事が沢山ありました。



 それから、暫くして。


 領主となった女の子の城。
 それを強国の軍勢が取り囲んでいました。

 どうやら強国の王は、
 とても野心が強い様子。
 幾度となく、
 彼女の国の領地を侵略しています。

 度重なる襲撃に、兵は傷つきます。
 盟友である竜も疲れ果てていました。

 そこに付け込んで、
 強国の将軍は、最後の一押し。
 大軍を率いて城を取り囲みました。
 籠城する領主に対し、
 降伏勧告を行っています。


 その様子を見渡せる丘の上に、
 魔王の姿がありました。

 その後ろには、大勢の骸骨や石人形。
 魔法で命を与えられた、
 数千からなる兵隊が控えています。

 参謀である骸骨騎士は、
 魔王に尋ねました。

「どうなさいますか、魔王様。
 全面的にぶつかっては、
 要らぬ死者を出しますが」

「頭の良い、敵の将軍の事だ。
 不利を悟れば兵を退く。
 奇襲を仕掛けて混乱させろ。
 加えて、あれだけの大軍だ。
 食料を失えば維持できまい。
 後方の物資を焼き払え。
 ……どうだ、出来るか?」

「何なりとご命令を。
 人間には難しい事でも、
 我々は人間ではありませんからな」

「では、進め、者ども!
 魔軍の力を世に知らしめよ!」

 魔王の号令と同時に、
 不死身の兵たちが駆け出しました。
 丘を下り、敵の陣地を襲撃します。


 ほどなくして、強国の兵は逃げ出しました。
 魔王と、領主になった女の子。
 2人は共に勝利を分かち合いました。

 喜ばしいのは、双方ともに少ない被害。
 そして停戦交渉の機会を得られた事でした。


 しかし、まだ魔王の旅は終わりません。

 償いの道、彼なりの正義の道。
 そして、真の正義を追及する旅路。
 それはまだ。その途中にあるのでした。



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