〜魔王と姫の物語N〜


 王様の話を聞いていた魔王は、
 召し使いに言います。

「そういえば、お前。
 どこかに落ち着きたいと言っていた」

「私に、お2人のお世話をしろと?
 なるほど。
 他ならぬ貴方の頼みとあらば」

「すまないな。
 願いどころか、役目を押し付ける」

「いいえ。渡りに船です。
 ただ1つ、住む所を用意して頂けたら」

「いいだろう。
 城をパンにするより簡単だ」

 魔王は魔法で、
 森の中に屋敷を建てました。
 中には王様と姫と召し使いの3人。
 暮らしていけるだけの用意があります。

 姫は魔王に言いました。

「何から何まで、
 ありがとうございました。
 貴方は昔、私の塔に現れた、
 魔王様ではありませんか?」

「何と、そうであったか。
 あの時は、よくよく話も聞かず、
 酷い事をしてしまった。
 それなのに、よくぞ助けてくれた。
 礼を言おう」

 王様が頭を下げると、
 魔王もまた頭を下げます。

「思えば、あれも1つの転機だった。
 道を踏み外しもしたが、
 出会うべき者に出会えた」

「かたじけない。今のわしには、
 恩に報いるだけの褒美も出せぬが……
 そうだ、姫を嫁に貰ってくれぬか。
 姫もそなたを慕っておるようだし。
 そなたほど力のある者なら、
 姫を幸せにしてくれるだろう」

「申し出はありがたいが、
 今の私に、その資格は無い。
 より正しい事を成し、
 これまでの罪を償わなければ」



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