〜暴君と侍女の物語@〜
ある所に、1人の王子が居ました。
年の割に賢く、頭の回る王子。
ですが母親が死んで以来、
その心を閉ざしてしまいました。
他人を信じられない王子。
彼は次第に乱暴で我がままになります。
お城の人たちの気遣いに、
暴力や嫌がらせで返します。
「母親が居ないのが悪いのだろうか」
彼の父親である王様は、
新たに美しい妃と結婚します。
ですが、王子は気に入りません。
「もう新しい女を連れてきた。
父上は母上を愛していなかったのか?」
やがて、王と新しい王妃との間に
弟が生まれます。
王子は兄になりました。
「弟のあいつさえ居れば、
父上も安心なんだろう。
俺なんて、もう、どうなってもいいさ」
自分の代わりが生まれた。
父は自分も愛していないのだ。
そう思うと王子は
更に荒んでいきました。
王子の面倒を見る侍女たちは、
彼の事を怖がります。
次々に辞めて行きました。
兵隊たちも、仕事なのでと
遠巻きに見守ります。
ですが彼の近くを
並んで歩きたいとは思いません。
王子は独りで居る事がほとんどでした。
そんな、ある日の事。
王子が城門近くを通り掛かった折り。
門の外に1人の女の子が倒れていました。
何やら酷く弱っている様子。
ですが通行人も、お城の人たちも、
遠くから見ているだけ。
誰もその子を助けようとはしません。
王子は、近くに居た門番に尋ねます。
「おい、あれは何だ」
「はっ! 女の子のようであります!」
「そんな事は見れば分かる!
あれは一体、どうしたのだ」
「行き倒れかと存じ上げます」
「そうか。それで?
誰も助けは来ないのか?」
「親の姿はありませんね。
見捨てて逃げたか、
既に死んでしまったのでしょう」
「何故、誰も助けようとしない?」
「貧しい者は面倒を見る余裕が無いのです。
子供を拾った所で、
育ててやるのは難しいでしょう。
富める者は、面倒に巻き込まれたくない。
助けてやって、後で誘拐だ何だと
騒がれでもしたら困る」
「お前は、助けないのか?」
「助けたいのは山々ですが、
うちには既に妻と3人の子供。
もう1人養っていく自信がありません。
それに、命令も無く、
見知らぬ者を城に入れたとなれば。
今度は私がクビになります」
「あいつも独り、か……
門番、命令があれば良いのだな。
俺が命令してやる。
その子を城に入れろ。
手当てしてやるのだ」
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