〜暴君と侍女の物語A〜


 倒れていた女の子を、
 お城で保護した王子。

 しかし何しろ王子様です。
 他人の看病など、
 した事がありません。
 勝手の分かる者に、
 全部任せてしまいたい所。

 しかし、侍女も兵隊も、
 遠巻きに見守るばかり。
 王子に関わるのを嫌がって、
 遠巻きに避けて行きます。

 仕方が無いので、
 王子は自分で手当てする事にしました。


 王子の手当ては、
 お世辞にも上手な物ではありません。

 ですが、それでも。
 食べ物を貰い、暖かい所で休んで。
 女の子は少しずつ、
 元気になって行きました。


「拾った物は俺の物だ。
 お前は今日から俺の家来だ」

「はい、王子様。
 何なりと、ご命令を」

 すっかり力を取り戻した女の子。
 彼女は侍女として、
 王子に仕える事になりました。


 父王の家来ではない、
 久しぶりの自分の家来。
 王子は女の子に、
 度々危険な事をさせます。

「崖の上を見ろ。
 珍しい花があるだろう。
 お前、ちょっと行って、
 あれを取って来い」

「おい、あれを見ろ。
 通りでケンカが起きているぞ。
 お前、ちょっと行って、
 騒ぎを鎮めて来い」

「この近くの山に、
 怪物が住み着いたそうだ。
 お前、ちょっと行って、
 怪物を退治して来い」


 度重なる、王子の無茶な注文。
 ですが女の子は、
 文句1つ言わずに実行します。

 時には失敗し、怪我をして……
 彼女はいつも傷だらけでした。


 気の毒に思った、お城の人たち。
 口々に彼女を気遣います。

「無理しないでいいんだぞ?
 あの方の無理難題は、
 今に始まった事じゃない」

「そうよ、辞めたくなったらいつだって。
 王陛下も、事情を知っています。
 上手く取り計らってくれるでしょう」

 ですが女の子は、
 笑って首を横に振ります。

「私はいいんです。
 少なくとも、ここに居られたら。
 食べ物の心配がありませんから」



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