〜魔女と王子の物語@〜


 昔、ある所に、
 一人の王子が居ました。

 王子は活発で、
 反面、勉強は苦手でした。

 彼は度々お城を抜け出します。
 馬で野山を駆けたり、
 狩をするのが好きなのです。

 そんなある日の事。
 王子が馬に乗っていると、
 草むらからヘビが出て来ます。

 馬はヘビに驚き、
 王子を振り落とします。
 そして、馬はそのまま
 逃げて行ってしまいました。

 王子は足を怪我してしまい、
 身動きが取れません。

 途方に暮れていると、
 道の向こうから黒い人影。
 黒い服を着た女の子が通り掛りました。

「そんな所で、どうしたの?」

「馬から落ちて、
 あちこち痛めたみたいだ」

「それはお気の毒ね。
 ちょっと待っていて」

 事情を聞いた女の子は、
 王子を手当てします。
 痛みに効く薬草を塗って、
 杖を1本貸してくれました。

 杖は樫の木で作られた、
 とても立派な杖でした。

 良く効く手当と頼りになる杖。
 お蔭で王子は、お城まで、
 どうにか帰る事が出来ました。


 それから数日後。
 怪我が治った王子は、
 女の子に杖を返しに行きます。

 女の子は前に会った場所で、
 王子を待っていました。

「わざわざ、ありがとう。
 杖を返しに来てくれたんでしょう?」

「どうして今日来るって分かったんだ?
 使いの者も出していないのに」

 首を傾げる王子に、
 女の子は慌てた様子で答えます。

「ああ、うん、ええと。
 どうしてかしら。
 不思議な事もあるものね」

「あの時は、ありがとう。凄く助かったよ。
 父上がお礼をしたいって。
 一度、会ってくれないかな」

「あー、うん……その内に、ね」

「それにしても、
 僕を振り落とすなんて、酷い馬だ。
 見つけたら懲らしめてやる」

「お止めなさいな。
 あの馬はヘビに驚いただけよ。
 今頃は、冷静になって、
 とても反省してると思うわ。
 貴方を心配しているかも。
 後で、草原の方に行ってみて。
 見つかるかも知れない」

「じゃあ、悪いのはヘビだな。
 僕の馬を驚かせて。
 見つけたら殺してやるんだ」

「お止めなさいな。
 ヘビは寝ていた所を起こされて、
 凄くビックリしたの。
 迷惑したのは、お互い様。
 運が悪かったのよ。
 殺すなんて言わないで」

「もしかして君は、
 動物の気持ちが分かるのかい?」

「あっ、ええと……何となく、よ。
 そんな気がするだけ」


 それから王子が草原の方に行くと、
 王子の馬が居ました。
 黒服の女の子が言った通りです。

 馬の足元には、ヘビも居ました。
 あの時と同じ模様のヘビです。

 どちらも、どこか、
 しょんぼりとした顔。
 頭を下げたり、
 王子の顔を覗き込んだりします。

「……分かったよ。僕も悪かった」

 王子は馬とヘビを許し、
 馬に乗って、お城へ帰りました。





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