〜魔女と王子の物語A〜


 不思議な物言いをする、
 黒い服の女の子。

 興味を持った王子は、
 度々、彼女に会いに行きます。

 すると女の子は、
 どこか周りを気にした様子。

「迷惑だった?」

「私は平気なのだけれど……」

 王子と女の子は、
 森や草原を歩きながら話をします。

「この草は怪我に塗るの。
 こっちのは、お腹が痛い時に、
 煎じて飲むといいわ」

「それは狐の巣よ。
 そっとしておいてあげて。
 可哀想だし、噛まれたりすると
 病気になるかもよ」

「今日はもう、お帰りなさいな。
 鳥が低く飛んでいるから、
 もうすぐ雨になると思う」

 女の子はとても物知りです。
 王子は彼女の話を聞くのが楽しみでした。

「君は何でも知っているね」

「ううん、まだまだ。
 知らない事は沢山あるわ。
 だって修行中だもの」

「何の修行?」

 王子が聞くと、
 女の子は表情を曇らせます。

「……知らない方が、いいよ」

「何か、悪い事?」

「そんなつもりは無いけれど……
 世間の人は嫌がると思う」

「君は僕の恩人だ。
 僕は君を嫌がったりしないよ」

「ありがとう。
 でも、知らないで居て。
 私は、私と居るせいで、
 貴方が嫌がられたら、嫌だわ。
 だから、知らないで居て。
 何かあっても『知らなかった』で済むから」

 優しそうな、それでいて、
 真剣な顔をする女の子。
 王子は、この話題は、
 もう止める事にしました。


 それからまた、ある日の事。

 王子と女の子が森を歩いていた時です。
 急に、女の子が血相を変えました。

 彼女は杖を手に、
 茂みに向かって身構えます。

「どうしたんだ?」

「今日は、お散歩は中止よ。
 帰った方が良いみたい」

「何か怪物でも出るのかい?
 安心してくれ。僕が君を守るよ。
 お城でも、剣の腕前では
 誰にも負けた事が無いんだ」

「化け物より、もっと怖い奴よ。
 別々に逃げましょう。
 貴方はそちら。私はこちら」

 王子と女の子は、別々に走り出します。

 女の子が見えなくなって、
 王子が心配で振り返った時。
 不意に背後で銃声がしました。

 それから、落雷。2つ、3つ。

 王子が駆け戻ってみると、
 長銃を手にした男が1人。
 雷に打たれたのか、
 黒焦げになって倒れています。

 その傍で、女の子が膝をつき、
 泣いていました。

「ああ、どうしよう!
 ごめんなさい、ごめんなさい……!」

 事情が分からず、女の子も泣き止まず。
 王子が困っていると、

「派手にやったモンだねぇ。
 全く、困った子だ」

 森の中から、女の子と同じ黒い服。
 黒い三角の帽子を被った、
 お婆さんが出て来ました。

「いつまでも泣いてるんじゃないよ。
 木が燃えてるじゃないか。
 山火事になったらどうするんだ」

「雨の呼び方は覚えているね。
 ほら、落ち着け。自分の後始末をおし」

「それから、そっちの坊や!
 こいつを家まで運ぶんだ。
 あたしゃ腰が悪くてねぇ……」

 女の子は涙を拭うと、
 呪文を呟き、歩き回ります。
 何かの儀式を始めました。

 王子はお婆さんに言われるまま。
 黒焦げの男を担いで、
 森の奥へ運びます。

 森の奥には小屋がありました。
 どうやら、それが
 女の子とお婆さんの家でした。



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