〜魔女と王子の物語H〜


 魔女の子の雷に撃たれた男。
 お婆さんの看護の甲斐あって、
 元気になっていました。

 彼は王子たちに気がつくと、
 事情を説明します。

 彼はここから南にある、
 別の国の兵隊でした。

 そして南の国の王様は、
 とても野心が強い人物でした。

「南の王様は、
 私を使って王子を暗殺を企てました。
 狙いは、こちらの国の仕返しです。
 戦争を仕掛けられるのを待っています」

「どういう事だ?
 先に攻め込んだ方が有利ではないのか?」

「攻め込むだけの理由が欲しいのです。
 わざと攻め込ませ、
 先に攻め込んだ方が悪いのだ、と。
 助けて頂いて、なんですが、
 私を殺してください。
 任務に失敗して国に帰っては、
 私の家族は殺されます」

「望む所だ。
 我が息子の命を脅かした罪、
 死を以って償うがいい」

 王様は剣を抜き、兵隊に向けます。
 しかし、魔女のお婆さんは
 それを止めます。

「気持ちは分かるが、
 こいつを殺せば厄介な事になる。
 国民がよその国に殺されたとして、
 これまた報復戦争だ。
 あれは大きくて強い国だよ。
 戦争して勝てる相手じゃない。
 勝っても負けても人が死ぬ」

「では魔女殿。どうすれば良いのだ。
 戦を避ける為に、
 我が息子の命をくれてやれと?」

「そこが頭の痛い所でね。
 坊や、あんたの命だ。
 まずはあんたの意見を聞こう」

 お婆さんにそう言われて、
 王子は考えました。

 この兵隊にせよ、隣の国の王様にせよ。
 許せない気持ちは消えません。

 町の人たちにしても、嫌な感じでした。
 幾ら犠牲になったとしても……

 しかし、誰もが誰かの大切な人ならば。
 それが失われたらどう思うか。

 両親である王様、お后様。
 騎士や兵隊、お城の人たち。
 友達になった魔女の子、お婆さん。

 自分に置き換えれば、
 すぐにその結論は出ます。

「僕は、貴方を殺さない。
 貴方が来なければ良かったと思う。
 でも貴方を殺したって、
 来なかった事にはならない」

「それに殺しても殺さなくても、
 次の暗殺者が来る。
 だったら殺すなんて馬鹿げてる」

「貴方の身柄は、この国で匿おう。
 失敗したのが分からない間は、
 貴方の家族も無事だ。
 殺される前に助けに行こう」

 王子がそう言うと、
 兵隊は首を横に振りました。

「お気持ちだけで十分です。
 貴方の様な立派な方を、
 危険に晒せません。
 自分の家族ですから、
 自分で何とかしてみます」

「相手にしていない国の者なら、
 潜入も容易いハズ。
 私も力を貸しましょう」

 女騎士の助けを借りて、
 兵隊は旅支度を整えます。
 彼の家族を助けに出かけます。

 その姿を見送りながら、
 お婆さんは王子に言いました。

「戦わずに解決するか。
 確かに理想的だが、今度は国が相手だ。
 簡単には行かないよ?
 今回はそれで難を逃れても、
 また次の手を打ってくる。
 坊や、どうするんだい?」

「とにかく、力だけじゃダメだ。
 僕は、もっと知恵をつけないと」

 その後、王子は沢山勉強して、
 立派な王様になりました。

 彼は知恵の限りを尽くします。
 戦争を、野心を退け、民を守ります。

 魔女の子は彼と共に学び、成長します。
 彼の相談役として、
 やがて后として、彼を支えます。

 ですが、それはまた別の物語。
 彼らの戦わない為の戦いは、
 まだ始まったばかりなのでした。



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