〜魔女と王子の物語G〜


 王子の話を聞くと、
 王様は厳かに言いました。

「よくぞ話してくれた。
 わしは全部知っていたのだ。
 だが、よく自分の非を認めてくれた」

 王子が本物だと分かり、
 町の人たちは頭を下げます。

「すいません、王子様!」
「本物とは知らず、ご無礼を……」

「僕は構わない。
 この人たちが平和に暮らせるなら」

 魔女達を指して言う王子。
 町の人たちは、顔を見合わせます。

「はぁ、しかし……魔女ですか」
「やっぱり怖いですよ」

 やはり心配そうな町の人たち。

 それを見て、
 王様はお婆さんに言いました。

「昔の事件がある故、
 民の心配も分かる。
 だが我らとて、話も聞かず、
 王子の恩人に剣を向けた。
 その非礼は償いたい。
 魔女殿には、どこか所領を用意しよう。
 そちらに移って頂けないだろうか」

 すると魔女のお婆さんは、
 人の姿に戻って言いました。

「所領だって?
 面倒なのは、ご免だよ。
 この山をくれりゃあいい。
 心配なら、見張りでも何でも
 立てればいいだろ。
 あたしが変な事しても、
 すぐに分かるように、ねぇ」

「それでよろしいのか?
 ほとんど今まで通りだ。
 ましてや見張りなど、
 邪魔になるまいか」

「あたしを見張るついでに、
 町の連中も見張っておくれ。
 石なんか投げない様にね。
 うちの子に石が飛んで来ない。
 たまにヤンチャな坊やが遊びに来る。
 それなら、このボロ小屋で十分だよ」

「分かった。では、
 その様に取り計らおう」

 お城の兵隊から見張りを立てる。。
 町の人たちも、
 それで納得して帰って行きました。

 魔女のお婆さんは、
 王子に向かって言います。

「まったく、おせっかいな連中だよ。
 お陰で死に損なっちまった。
 まぁ、礼は言っておくがね」

「でも、僕は誰とも戦わなかった。
 戦いを止めたのは竜と騎士さんだ。
 関所を越えたのは、その子の力」

「坊やだって立派に戦っただろう。
 内なる敵、自尊心や虚栄心と、さ。
 あたしらの命を救ったのは、
 間違いなく、あんただ。
 力を振り回すだけが戦いじゃない。
 時には逃げたり、恥を晒したり……
 悔しい思いをして、
 平和な明日を勝ち取るんだ」

「でも、僕にもっと力があったなら」

「膝を折らないだけが強さじゃない。
 何度踏まれても花を咲かせる。
 そんな野花の様な生き方だってある。
 ま、時と場合に寄るが……
 要は戦い方と戦う相手を、
 間違うなって所だ。
 ……ちょいと難しいかねぇ?」

「はい……凄く」

「ふぇっへっへっ!
 まぁ、そのうち分かる時が来るだろ。
 自分より大事な物ができりゃあ、ね」


「さて、事は片付いたな」
「領地に戻りますか」

「王子、わしは先に戻るぞ。
 后にもお前の無事を知らせねば」

 騒ぎも収まり、
 どうにか一段落した様子。
 竜と女騎士、王様も、
 自分の場所に帰ろうとします。

 ですが魔女のお婆さんは、
 皆を呼び止めました。

「ちょいとお待ち。
 あたしらの話はいいとして、
 もう1つ問題が残ってる。
 知恵を貸しちゃあくれないか。
 黒焦げだった男から、
 ちょいと厄介な話がある」

「魔女殿、黒焦げの男とは?」

「銃を持って現れて、
 うちの子に雷で焼かれたんだがね。
 あいつの狙いは、
 うちの子じゃあなかった。
 坊やの方だったのさ」



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