黒鷲の旅団
プロローグ(1)コピーダイブ型VRゲーム

 どうも人間、忙し過ぎだ。
 余暇に割く時間すら削っちまったらしい。

 脳と機械を繋げるようになった。
 いわゆる高度電脳化社会。
 コピーダイブ型VRなる物が登場した。

 電脳的な人格コピーを仮想空間に放り込む。
 そのまま冒険させる。
 コピー元の人間は普通に生活して。
 じゃあ一体、何が楽しいのか。
 手の空いた時にデータリンクする。
 記憶や体験情報を共有化する。
 異世界に転生した様な気分を味わえる。

 寝ている間に繋げば、夢を見るのと同等。
 まったく、夢が現か現が夢か、だな。

 VRゲーム業界は発展目覚ましい。
 それこそVR訓練業界よりも。
 出来が良いから需要も増える。
 例えば軍人や傭兵が訓練代わりに使う。
 新兵器もゲーム世界に間借りして試運転。

 その日、俺は。俺の電脳コピー体は、か。
 ゲーム世界で訓練情報を積んでいた。

 傭兵稼業なのだが、雇用主が休戦中。
 戦闘が無く、そのまま鈍って行っても困る。

 それで、現実の訓練の代わりに、VRだ。
 CGで作られた敵性兵士を、怪物を撃つ。
 高機動の人型兵器を撃墜する。
 現実こんな奴ぁ居ないとか思いながら。

 そんな折、不意の着信。
 運営からの通知の様だ。
 アップデートの予定でもあったかな?
 ウインドウを開き、目を通してみる。

 ……サービス終了のお知らせ、だと?

 運営チームが急遽解体される様だ。
 何か事件でも起こしたのだろうか。
 事情については明記されていない。

 あまりに急なサービス終了。
 ユーザー情報の避難措置は、他社作品?
 別のVRゲームに情報をコンバートすると。

 今の俺、電脳コピー体の視点で見れば。
 データ存在の削除。
 知らぬ間に殺される様な物ではある。
 電脳コピー体の消去については制約もある。
 他人が勝手に消すと、準殺人罪に問われる。

 しかし、いきなり別世界へ。
 それはそれでどうなんだ。

 サービス終了と同時に強制コンバート開始。
 時間は……あと5分。ふざけんな。
 実行5分前に通知だぞ。
 黙ってたのと大差無いだろう。

 せめてコンバート先の情報を知りたい。
 通知に添付されたアドレス。
 公式ホームページをウインドウ展開、参照。

 ……『7th Earth』だと。
 少し知っている。妹がやっていた奴だ。

 以前、誘われた事もあった。
 忙しいからと断ったのだが。
 こんな事なら、もっと調べておくんだった。

 より精緻なグラフィック。
 NPCがもう生の人類と変わらない。
 剣と魔法の世界で新しい人生を……だとか。

 剣と魔法、の世界……銃は?
 コンバートって、どの領域まで引き継げる。
 提示情報も少なく、確認する時間も無い。

『だあーっ、マジかよ! ふざけんな!』
『ちょちょちょ、聞いてないってば、もー!』

 一緒に訓練に来ていた連中も狼狽えている。
 サービス終了まで……あと2分。

 誰か移転先の情報を知らないか。
 開始位置とか目標地点はどうする。
 決めたら後で合流出来ないだろうか。

『か、開始位置?』
『え、あっ、じゃ、ル』

 ル…………何だって?
 話している途中でブラックアウトした。

 真っ暗な空間に放り込まれる。
 ウインドウ表示。
 これまでのご愛顧が何とか。
 これ、もう、サービス終了?

 ……おい、まだ2分あったろう。
 最後の最後で適当なサービスしやがって。

 まったく……もういい。
 次はどうしろって?



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