黒鷲の旅団
プロローグ(2)異世界へ……の前に

 真っ暗な空間に待たされる事、数分。

「良くぞ参られました。
 人の子にして神の子、世界を駆ける勇者よ」

 厳かな女の声が俺に語り掛ける。
 こっちの世界の神様とやら、だろうか。

 今いる場所は俺の精神世界?であり。
 赴く世界は、血と鉄が支配する乱世。
 怪物が闊歩し、魔法が行きかう……だとか。
 まぁ、細かい所は行ってみれば分かるさ。

「なかなかの度量をお持ちの様ですね。
 では、まず、貴方の事を教えてください」

 何やらウインドウが開かれる。
 履歴書?みたいなモノが表示された。
 よくあるゲームの初期設定の様だ。

 クソまじめに全部リアルを書いても良いが。
 ここは幻想の、つまりはゲームの世界。
 なりたい自分に生まれ変われる。
 勿論適当でも、定型文を使っても構わない。

 ……と、分かっていても、悩む。

 悩むという事は、俺なりに。
 そんな、なりたい物でもあったのだろうか。

 少し頭を捻ってみる。

 父親に捨てられ、母親は死別。
 当てになるのは己の力。
 右手は義手、右目は義眼。
 その日暮らしの賞金稼ぎ……こんな所か。

「幸薄く、苦難の旅路を行く者。
 強かな意思と才覚が、貴方を導くでしょう」

 厳かな声さん、それは俺の設定への評価?
 ダンディぶったら幸薄いとか。軽く酷い。

 それから、初動資産として320万。
 初期スキルポイント?を50与えられる。
 結構多いのは、身体欠損分の補填らしい。
 狙ったというより、元からだ。昔の怪我。

 ウインドウが幾つか表示される。
 スキルや装備品のカタログの様だ。
 この中から支度を整えろと。

 武器スキル。
 これは装備品と組み合わせ効果を発揮?
 装備は初期資産から買う必要があるらしい。

 買わなくても持っている物は無いのか。
 あるのは最低限度の服。
 あと欠損部用には義手、義眼……
 腕のフックと、作り物の詰め物だけか。

 先に装備を選ぼう。義体の換装が急務だ。

 まずは腕。ギミックメタルアームとやら。
 金属製、機械仕込み。指が動かせる物。
 付属機能のバーストレーザー砲って何だ。
 ファンタジー世界じゃなかったのか。

 説明文、古代文明の遺物……
 便利な言葉があった物だな。

 義眼も魔道仕掛けとかいう高級品に変更。
 視力と簡単なスキャン機能が入っている。

 合わせて200万。
 お釣りが来るスペックなんだが。
 欠損者、被差別的な制約もあるらしい。

 後になって、どうにも出来ないペナルティ。
 それを背負って生きる負荷。
 要はバランス調整だと。
 それでも結構な優遇に見えるのだが。
 勇者に簡単に辞められても困るらしい。

 銃器も普通にある様だ。
 魔法障壁には弱い、と。
 一応バランスは考えられている様子。
 使い慣れている。あるなら貰っておこう。

 初期装備に狙撃銃、ウルティマ・ラティオ。
 拳銃スーパーブラックホーク。
 自動拳銃デザートイーグル。
 単射の狙撃と近接二丁撃ちを想定する。

 自動拳銃を2丁持とうとしたのだが。
 これが上書きされてしまった。
 同じカテゴリは1つしかキープ出来ない?
 リボルバーは嫌いじゃない、とは言え。
 2丁撃ちには少し不便かなぁ。

 一応ファンタジーらしく近接武器も持とう。
 刀とバスタードソード。

 あとは、防具……弾薬や薬も買わないと?
 靴とグローブを買う。服は一番安い奴で。
 初動資産がギリギリ無くなった。

 次にスキルを振る。
 元の銃世界はプレイヤースキル依存。
 引き継げる要素が無い。一から出直しだ。

 スキルは使えば成長すると聞いた気がする。
 まずは数を揃えよう。

 装備品対応の武器熟練度スキル。
 関連した戦闘スキル。
 鍔迫り合いに向けた体術など。
 合わせて25ポイントを消費。

 あと魔法か。正直ピンと来ないが。
 攻撃手段、炎と水、雷。
 閃光魔法は怯ませるのに使う。
 閃光が効かない場合……
 もう1つ、神経魔法も取っておこう。

 治癒と解毒は自己保全の基本。
 照明……探知。冒険感があるな。
 空間魔法、これはマッピング系かな?
 周辺地形を2Dないし3D表示する様だ。
 魔法スキルとして10ポイントを消費。

 残り15ポイント。
 身体・技能系に振りたい。
 身体系から5個。
 五感スキルも5個埋めておく。

 鍛冶スキルで修繕出来れば旅費が浮くか。
 汎用性の高そうな索敵と隠密。
 日々の生活手段として料理スキル。
 医療スキルも持っていて損は無いだろう。

 大雑把だが、こんな所か。
 あとは行く先々で慣らそう。

 おーい、お姉さん。ナビのお姉さーん。

 支度が済んだ事を告げると返答が来た。
 決めたスキルと装備で、幾つか称号が発生。
 何やら補正が入るのは有難い。

「貴方は魔法戦士なのですね」

 そのまんまな感想を頂戴する。
 多芸に秀でる。1つ1つは達人に劣るか。
 注意する様にとは言われなくても分かる。

 力と武器、情報を得た。
 世話になったなと、一応礼を言っておく。

 と、天使?らしい女が姿を現した。
 この人が俺のナビ役、なんだろう。

 背中に白い翼。
 見目麗しいと称して差し支えない美人。

「私は私の役割を果たしたまで、ですが。
 当たり前から尊き事を見出せる者よ。
 その気風が旅路の助けにならん事を」

 ナビ役。守護天使だという。
 名前はリリアノーラさん。
 よく分からんが、旅の無事だかを祈られた。
 じゃ、まぁ……行こうか。

 開始位置の選択を迫られる。
 ル、ル……ルーマニアへ行ってみるか。
 合ってると良いんだが……どうかな。



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