黒鷲の旅団
11日目(5)村落防衛戦
〜士気は未だ高く〜
「おっちゃん……
今、怖くない? 平気?」
「だいじょぶだよね?
心配してくれたよね?」
教会に入るや、子供達。
揃って不安そうな顔。
味方まで怖がらせてしまったか。
大丈夫だ。冷静にな。冷静に。
サンドラに手を引かれ、奥へ。
教会奥にアウドラとマイナさん。
ヨルクの死体を綺麗にしていた。
しかし頭の傷は塞げなかった。
包帯を巻いてある。
「ちゃんと埋葬し、しにゃいと」
そうだな。
アンデッドなんかにしたくない。
死臭……消臭・調香・芳香魔法。
植物魔法で花を添える。
幾らかマシな寝姿のヨルク。
ジルケも少し落ち着いた様子。
「レスターとエーベルも。
リンダも死んだってさ」
「ぜってー仇取ってやるかんな!」
肩を竦めるティルア。
意気込んでいるマルカ。
戦意はまだある様様子。
何か足りない物は?
食料はストレージから放出する。
足りない矢弾は転移魔法。
保管ボックスから取り寄せる。
心配なのは疲労。身体も心も。
誰か不調な者は居るか?
ペトリナが呼ぶので行ってみる。
レーネが蹲って震えていた。
フェドラが背中をさすっている。
レーネ、大丈夫か?
「何だか身体が熱くて。
抑えが効きません」
顔を上げるレーネ。
目が赤く光っていた。
変身が始まっている?
本人の意思に関わらず。
血の力が暴走し掛けている。
戦闘の高揚感のせいだろうか。
「ふっ、う、ううううううっ!」
背後で呻き声。
ノイエ、大丈夫か。
声を掛けようとしたら、バサリ。
彼女の背中に黒い翼が生えた。
頭上にも黒い輪が浮いている。
半堕天使ノイエ。
堕天使の方の血が覚醒した様だ。
覚醒すれば能力値は上がるのだが。
不安定なのは良いんだか悪いんだか。
初めての変身。不安げなノイエ。
フェドラが抱き締めて落ち着かせる。
そんなフェドラも一見平気そうだが。
見ると尻尾が食み出していて……
それぞれ応急処置。
活力・鎮静魔法。
レーネ、間違って誰か噛むとしたら。
なるべく俺にしときなさいよ?
神人なら最悪でも死なんだろう。
「ふぉっ!? そ、そんっ……じゅる。
み、魅惑的な提案に聞こえますけれど。
大事な時に取っておきます……」
……魅惑的? 大事な時って何だ。
「甘噛みハムハムしたいなぁー」
「あはは、フェドラちゃん。
何かエッチっぽいよ〜」
「えへへへー。
レーネちゃんもエッチだよね〜?」
「あっ、な、やだもぉ〜」
フェドラとノイエ、レーネも笑い合う。
精神的にはまだ余裕があるか。
でも無理しない様にな。
覚醒、変身する亜人種達。
条件が確定していないのが心配だ。
エメリナとか半人魚だというし。
陸地で人魚になられても困るな。
時刻……まだ7時前か。
戦いは続く。一度装備を点検しよう。
ユッタ、折れた刀は繋がりそう?
「繋がったけど、すぐ折れちゃうよ。
ちゃんと直すには打ち込まないと」
そうだな。設備も足りん。
応急処置が限界だ。
刀以外の剣も、幾つかボロボロ。
両手細剣も曲がってしまった。
ユッタ、出来る範囲で研ぎ直しを頼む。
イェンナとカーチャも手伝いを申し出る。
その間、俺は村人達と話をする。
村の子供達。
レベルが3〜7ぐらいに上がっていた。
死んだレスター、エーベル。
リンダにヨルク。
彼らの仇討ちだと意気込んだ。
奮戦していた様だ。
小さいジルケが一番高いレベル7。
弟ヨルクの仇を取ろうと。
頼もしいより痛々しい。
「おじさん、あんま気にすんなよ」
「そうだよ。こんなに生き残ってるよ」
「ヨルク達の為に怒ってくれてたよね?」
ユーリ、ポーラ、アウドラ。
気遣いは嬉しいのだが。
俺の怒りの矛先は、半分は俺自身だ。
憤った所で、どうすれば良かったか。
最早定かでもないが。
もう少し助けられなかったか。
人員配置、罠の密度、警戒……
もっと早くに村を捨てられなかったか。
偵察より説得に加わるべきだったか。
まあ、全部……過ぎてしまった事だが。
自責と感じたのは近衛隊も同じ様子。
リンダの父モーソン。
ヨルクの父グレゴールにも謝罪。
受ける彼らもまた自分を責める。
村に拘らず脱出すべきだった。
ふと、奇跡は、と耳に入った。
神聖教会の奇跡。
死者の魂を呼び戻す御業らしい。
しかし、少なからぬ代償が必要。
レベルダウン、魂の損耗。
一般人では代償に耐え切れない。
消滅してしまうらしい。
無理にでもヨルクのレベル上げていたなら。
いても同じだったかな……
首都から戦闘開始の知らせがあればな。
すぐにでも脱出したい所だ。
魔人と接触したら迂回を促したいが。
いずれにせよ……魔王軍。
ゴブリンがまた向かって来る。
休憩終わり。配置に付け。
連中に、もう一矢くれてやるぞ。
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