黒鷲の旅団
11日目(7)村落防衛戦〜魔人折衝〜
「存外、粘る物だ。
そんな手勢には見えんのだが」
「アンヌの言っていた奴でしょうか」
「出て来てくださいな。
お話しましょう?」
ゴブリンの戦列を割って、女が3人。
魔人だな。鎧甲冑姿が2人。
その内の1人は顔がアンヌに似ている。
残る1人はブランディエーヌだった。
「まあ、やっぱり!
会えてとても嬉しいですわ♪」
俺は正直、喜んで良いのか分からんが。
根絶派の手勢と思ったのは勘違いか?
ではなく、ブランさんは方面軍統括。
視察しているという。
という事は、残る2人が根絶派。
頭が高いとアンヌ似の娘が吠えて。
ブランがそれを諫める。
えー、どちら様だ。
解析で名前を見ても構わんのか。
「名を問うか。ならば答えよう。
我は静謐のベレンジェリエ。
存知の通り、派閥は根絶派に属している」
「我は統率の魔人デルフィエンヌ。
派ばちゅ、ふぐっ!」
噛んだ。大人ぶっていた様に見えて。
精いっぱい背伸びしているだけか?
「そしてわたくし。
傾国の魔人ブランディエーヌですわ。
以後、お見知り置きを♪」
もう少なからず見知り置いているんだが。
ブランさんは箱入りらしい。
時々ズレた事を言う。
それで、ご用件は。
「降伏しろ。
本来は人間など根絶やしにする所だが。
分不相応なまでの奮戦、見事。
特別に慈悲をくれてやっても良い」
『ごめんなさい通してください』
ではないのか。
こちらは足止めをしているつもりは無い。
単に村を守っているだけだ。
迂回して行く分には追撃もしない。
「ぬう……時すでに、という奴だ。
我らに派閥があるのは存じて居ろう。
兵卒を少なからず失った。
その上、最早遅参も免れぬ。
せめてもの武勲が要る。
この村は落とさせて貰う」
元より守り切れるとは思っていない。
敗走するか降伏するか、だろう。
降伏した場合、待遇について聞きたい。
「男は戦奴か剣闘士。
鉱山での強制労働とか。
女は、えー、生餌でなくば。
苗床とか孕みぶんぐふ」
デルフィエンヌが語る途中。
ベレンから脇腹を小突かれた。
「少しは濁せ。
私も気分の良い物ではない」
「し、しかし父上の方策でもあります。
後で知れて反乱の火種になっては」
ブラン先生、質問。
幾つか分かり難い単語があった。
待遇について説明をお願いします。
「まあ、わたくしが先生ですのね♪」
「あ、ちょっ、姉上?」
ブラン先生、嬉しそう。
制止するベレンも押し退けて説明する。
内容はとても喜べた物ではないが。
戦奴。戦闘用の奴隷。
使い捨ての兵隊。
粗末な装備で最前線に立たせる。
剣闘士。
いわゆるコロシアムの出演者。
怪物相手、あるいは人間同士でも。
死ぬまで戦わせられる。
鉱山で強制労働。
崩落や毒ガスの危険がある。
これまた危険域。
生餌は支配下にある魔獣達の食事。
それ以外は何だ。
怪物を産ませられるのか。
集落を蹂躙して、女を捕まえて。
捕まえた女に怪物を産ませて。
それをまた戦力に。
魔王軍、とんでもない軍隊だ。
「安心しろ。男女平等だ。
男も変身魔法で女にしてやる。
同じ目に遭わせてやれるんだからな」
エンヌちゃん。
どこ安心して良いのか分からん。
「ちゃんって呼ぶな!
大人だもん!」
もん……
「あっ、お嫌でしたら。
わたくしの庇護下に入りませんこと?
従者さん達にも手出しはさせませんわ」
言うがブランさん。
魔王様の下知、命令が来たら。
お姫様の権限だろう。
魔王様に抗えるのか?
あーうー、と目を反らすブラン。
こちらも総意としてどうするか。
話し合いたいので時間を下さい。
と、言って教会に引っ込んで。
大急ぎで鍛冶。調合。補給。
すぐ動ける様にするぞ。
「どどどどうしゅるの!?」
サンドラちゃん、落ち着いて。
どうしゅるもこうしゅるも。
ここは逃げるしかない。
村を放棄、敗走する。
公主の花火の音。
魔王軍も聞いたハズだ。
そろそろ街道の戦力も動く。
首都へ向かい始めただろう。
ただ、まあ、ここまでやったんだしな。
もう何発か、くれてやりたい所ではある。
遅滞戦闘を試みようか。
裏口から脱出用意。
俺は幾つか罠を仕掛けて行く。
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