黒鷲の旅団
13日目(4)無血戦争〜昼・平和的に優勢〜
「よっし、代わるよ。行っといで」
シャンタル達、魔法医療師チームが診療所に来訪。
それじゃあ、ちょっと頼む。
手に負えない患者が来たら呼んでくれ。
昼休憩。といっても、来客はまさに昼飯を食いに来ている。
命に係わる様な重症患者も担ぎ込まれる。
はい時間です閉めました、というワケにも行かない。
炊き出しは俺の子供達と、イェルマグの騎兵隊。
診療所は俺と魔女達でローテーション。
長期戦だ。交代で休憩を取ろう。
根を詰めても後が続かないだろう。
「黒鷲さーん、居ますかー?」
魔女クリスタ。フッケバエナ派だったか。
俺の分のシチューを取って来てくれた。
黒鷲団の団長さん、で、黒鷲さん?
少々、略し過ぎな気もするが、分かり易くて良いか。
シチューを少し掻き込んで。
各隊に通信。状況は。
『ふぉっ?』『ふぉえうぉう』
『んんっんぐっぐ!』
ああー、落ち着け。
食べてる子は無理に答えなくて良いから。
先に外回り組から報告を聞こうか。
『あっははは! 最高だ!
奴らの無様と来たら!』
通信先で高笑いするのは、巡回偵察のフリアリーゼ。
上空から神聖教会側を見に行った様だが、どうした。
どうやら神聖教会、こちらの集結は察知していたが。
しかし何を始めるか、までは考えが及ばなかったと見える。
武力衝突を見越して完全武装。
の後、炊き出し宣言を受けてアタフタ。
奴らも遅まきながら、炊き出しを始める様だ。
妨害しようか?との問いに、帰還を促す。
直接邪魔するよりも、良い手がある。
こっちの炊き出しは? 今のところ順調。
人手は充分に足りている。
材料もどんどん持って来て欲しい。
生産サイド。農耕魔法。
花人農婦のローテーションは何とか維持。
しかし収穫の手が足りない様子。
魔女達が診療に回る分、手薄になったか。
弩兵隊に通達。
炊き出しの列に子供を見かけたらスカウトしてくれ。
孤児か、親が居るなら一緒でも良い。
収穫を手伝ったら晩飯もやる、という事で。
銃士隊はユッタとルーシャ以外、料理担当に参加。
運搬はイェルマインに委託する。
収納系のスキルを持っていると聞いた。
荷車ごと収納して運んで貰う。
隠してしまえば、途中で狙われる事もあるまい。
ユッタとルーシャは魔女協会の建物、上層階へ。
銃のスコープを使って、捜索班をやって貰う。
会場に怪しい奴が居ないか。
あるいは、フィリッパの両親が居ないか探してくれ。
俺は酒場の奥へ。
女将さんにレンガのオーブンを借りる。
花人隊から小麦が幾らか届いている。
脱穀機はハミルトンが用意してくれた。
しかして製粉。碾き臼では時間が掛かる。
重力、創傷、圧殺、分解。粉砕魔法グラインド。
地味に物騒な魔法を作って、しかし平和利用だ。
小麦粉が完成して、それじゃ掛かるとするか。
弓兵隊、何人かこっち回って……
と、みんな来ちゃった。
いや、いい。いいよ。手を貸しておくれ。
炊き出しの方には別の援軍を呼ぼう。
小麦粉、砂糖、卵……生地を作る。
捏ねて形にして、パンやクッキーを作る。
「ああっ、良いですね! タルトにマドレーヌ!
私、得意だったんですよ」
顔を出したのはマイナさんとジルケ、ヘルヘレ姉妹。
マイナさん、一見元気そうだが、体調は?
「平気です。それに、じっとしていると思い出してしまって」
まだ心の傷は残る様だ。
そいつも粉砕できれば良かったんだが。
お菓子作りに経験がある様なので、頼らせて貰う。
ジルケ、ヘルヴィとヘレヴィも手伝ってくれ。
ヘルヘレは追手の件が片付いておらず、外に出せない。
それに生産的な事をさせた方が、情操教育に良いだろう。
「あっ、食べたぁー!」「試食だもんねー」
「ドーナツ! ドーナツも作って!」
みんな楽しんでるな……全部食うなよ?
「戻ったぞ! ふふん、良い匂いだな」
戻って来た偵察チーム、フリアリーゼ隊。
早速だが、お菓子を詰めたカゴを渡す。
神聖教会が炊き出し始めたら、菓子を持って行列に接近。
食って見せるのも良いし、欲しがるなら配っても良い。
こっちのが美味しいよと言って、市民に誘いを掛けてくれ。
「む、むう……やってみよう」
可愛い役回りに、少々はにかむフリアさんが可愛い。
さて、腹ごしらえしたら俺も午後の部だ。
拡声、音響魔法。みんな食ってるかー?
市民からにわかに歓声が上がった。
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