黒鷲の旅団 >13日目(3)無血戦争〜午前の部・診療所始めました〜


黒鷲の旅団
13日目(3)無血戦争〜午前の部・診療所始めました〜

「オレンジ駄目な人、居ますかー?」
「リンゴあるよ、リンゴ〜!」

 弩兵隊、順番待ちの行列に果物を配り始めた。
 待たされ側、幾らか不満が和らぐだろう。

 あと困るのは、トイレだなぁ……

 魔女協会や酒場の物を解放して貰っている。
 幸い?便所の底には転移魔法が彫ってあるとかで。
 溢れて臭くなる事は無いらしい。
 この辺は本当、魔法の世界で良かった。

 ただ……数がな。

 大魔女筆頭ジズデリアに通信。
 仮設のトイレって作ったり出来ないか。

『それだあああああ!』

 ジズ様が飛び出して来たのが、トイレ待ちの列の後方。
 自分も並んでいる所だったのか。
 漏らす前に第1号が用意出来れば良いんだが。

「流石おじさま、気遣い上手です!」

 俺の傍らでレーネが褒める。
 褒めるのは良いが、何故にミニスカ黒ナース服。

「マグお姉さんが貸してくれたんだよ〜」

 フェドラが同じくミニスカの、ピンクナース。
 治療を手伝ってくれる純真な少女達のハズなのに。
 どこか如何わしく感じてしまうのは、俺の心が汚いからか。
 それともマグダレーナの趣味がおかしいからか。

 イェルマグ隊が参戦。
 外回り、誘導や宣伝に手を貸してくれている。
 衣装とか余計な所にも手を貸してくれている。
 子供らが楽しそうだから断り切れなかったが。
 変な目を向けられる様なら、対策しないとな……

 俺はドリスに貰ったテントで、診療所を併設した。
 負傷兵、難民に貧窮者、ドサクサの浮浪者も受け入れる。
 他地区の孤児なんかも集まって来た。

 治療……明らかにヤバいのも居る。
 システムHP残り2だとか、実質瀕死じゃないか。

 無理に喋るな。読心魔法。
 暴れるな。束縛・鎮静魔法。
 異物除去に転移魔法。
 体温落ちてる。活力魔法。

 えー、次は。部位欠損……右腕を失う重症。
 傷口は焼いてあり、しかし不十分。
 後から損壊、出血している。
 敵の獲物は多分、波状剣フランベルグか何か。

 一度切り開いて縫合する。
 鎮痛じゃ足りん。陶酔魔法を掛ける。
 レーネ、ウェルベックを呼んで来て。義肢の作成を。
 金が無い? 立て替えてやる。返済は期待しない。

 次、隣村から避難中のドメニコ爺さん。
 骨折か。整復魔法。帰りも気をつけて。

 市内の給仕メレルーさん。体調不良。
 診断。不整脈。整脈魔法。
 戦争からのストレスだろうか。お大事に。

 娼婦シュゼットさん。小声でヒソヒソ。
 梅毒。性病か……浄化、抵抗、解毒、抗血清魔法。
 治った様だが、治せるからと過信しないでくれよ?

 病気は魔法で治せない、が常識らしいが。
 そんな常識、俺がぶち壊してやる事にした。

 原因を取り除いて、弱った身体を癒やせば病気は治る。
 抗血清魔法が存在する時点で明白だ。
 魔法には、病気を治せるだけのポテンシャルがある。

 次は……おや。
 傭兵ランカーと、少女兵のローダとテクラ。

 積もる話もあるが、ローダに怪我。
 怪我の方をまず治そう。
 肩に矢傷。破傷風になり掛かっていた。
 回復薬も買えていないのか?

「いや、その……すまん。金が」

 他の神人に、有り金全部を巻き上げられたという。
 挙句、幾らか借金も出来てしまったとか。
 下手のギャンブル好きとは困った性分だな……

「ご主人様、頑張った。怒らないであげて」

 ローダとテクラはランカーを庇う。
 そもそもは、2人の食費を捻出する為だったらしい。
 負けてりゃ世話無いが、動機付けだけは真っ当だなあ。

 次はガキ共でも賭けるかと聞かれ、それは断ったという。
 しかし、一瞬迷ってしまったと恥じるランカー。
 ローダとテクラには情が移った様子ではあるが。
 次また断れるかどうか……相手が格上だと怖いな。
 強要されてしまうと、何とも。

 そもそも賭け事をしなければ良いんだろうが。
 ギャンブル依存につける薬って、何だろう。
 子供可愛さに、何とか……うーん……

 提案。借金の形というワケではないが。
 ローダとテクラを一時うちで預かりたい。
 借金が300万だというので、支援金込みで500万渡そう。

 顔を見に来るぐらいは構わないが。
 また連れ歩きたいなら、条件だ。
 借金体質とギャンブル癖を解消して欲しい。
 健全に金を稼いで、娯楽は生活に支障無い程度に。
 ひとまず1週間様子を見る……という事でどうか。

「わ、分かった。やってみるけどよ。
 俺の子に手ぇ出すなよ?」

 そういうセリフが出るなら、見込みはあるかな。

 以前はNPCを囮ぐらいに言っていたランカー。
 変われば変わるモンだと、しみじみ。

 しみじみ……してる場合じゃない。次の患者だと。

 ランカー達は炊き出しの方へ。
 俺は俺で治療に戻ろう。



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