黒鷲の旅団 >13日目(6)無血戦争〜午後の部・黒鷲さん三面六臂〜


黒鷲の旅団
13日目(6)無血戦争〜午後の部・黒鷲さん三面六臂〜

「あたしゃ馬に蹴られてね。ま、どうにか生きてるんだが。
 この人が文句言いに行って、貴族様に斬られて……」

 難民で物乞いをしていた浮浪者、ジネットとルディガー。
 ジネットに打撲と骨折。整復魔法から。
 打撲の発熱には解熱魔法も効く様だ。

 ルディガーは右腕を欠損、出血している。
 シャンタルが止血魔法で抑えていた。

 縫合魔法スチュアライズ。
 抗血清魔法アンチセラム。
 造血魔法ブラッドメイク。

 あとは義手が要る。ウェルベックに……
 ん、どうした。感心した様子のウェルベック。

「ああ、いや。凄いな、ってさ。
 貴方のお陰で、助からなかったハズの命が助かって行く」

 命は繋ぐが、現状、無くなった手足までは治せない。
 後の人生作ってやるのは、お前さんの仕事だ。

「そ、そうか。うん、頑張らないとな……」

 炊き付けられた様子で作業に戻るウェルベック。
 なまじ頑張れば助かるから、一部技術者の負担が半端無い。
 でも頑張れば助かっちゃうからな……頑張らないと。

『おっちゃん、今、だいじょぶ?』

 弩兵隊からティルアの通信。
 弩兵隊参謀、何か進展が?

 食料生産組。弩兵隊のスカウトで収穫の手は増えた。
 北区の孤児、グンター、リュシアン、メリカ。
 南区の孤児、フィン、テッド、カリカ、サフィラ。
 見知った顔なので、勧誘は容易かった様だ。

 孤児に親子連れ、他にも居たら誘ってみてくれ。
 子供同士の方が警戒心が少ない。誘い易いだろう。
 ペトリナ、ツェンタ、アイリスが整列を担当。
 合間にティルアとテルーザが勧誘して回っている様子。

 しかし今度は、花人達のローテーションが難航。
 バテて生産が間に合わなくなって来たという。
 レイヴンヒルト派が農耕魔法を習得していたハズだ。
 通信、応援を送って貰おう。

「「お兄さああああああああん」」

 ヘルヴィとヘレヴィ、ハモりながら走って来た。
 どうした、お菓子製造班。小麦粉が足りないのか。
 小麦は来たが製粉する奴が居ない?
 しまったな。人材管理が間に合っていない。

 一緒に来たマルカ、石臼なら回せると言うが。
 俺が製粉した方が早い。お前はここ手伝って。
 すぐ戻るから、患者が来たらレーネ達と治癒魔法を。

『ご主人、お水ー』
『鍋が足りないぞ。鍛冶屋呼んでくれ!』
『列の途中で揉め事だって。誰か人手を』

 はいはいはい、分かった。
 今行くから話すから。

 バケツに水を入れて転移転送……
 バケツが足りん。作る。

 解析、空間、記録、転写、錬成、再現。
 複製魔法レプリカント。
 コピー元のバケツと同じ形状。
 鉱石から鉄のバケツを創出する。

 鍋もこれで作ってしまえそうだが……
 ダメか。元になる鍋が無いや。
 鍛冶にはジュスティンさんが向かってくれ。
 整列にはイェルマイン隊に派遣要請。
 並列で通信魔法。話を付けてまた治療に戻る。

 戻ると……うぉい。マルカがナース服になっていた。
 フェドラとマグダレーナの悪乗りで、無理に着せられた様子。
 顔を真っ赤にして俯いている。
 尻尾にスカートが引っ張られて、パンツが見えそうだ。

「マルカちゃん可愛いよねー?」

 フェドラの問い。まあ、うん、可愛いけど。
 ぷしゅー。マルカの真っ赤が赤みを増した。
 女の子扱いに慣れてないので、余計に照れてしまったか。
 ああー、落ち着いて。ちょっと落ち着こう。

 マルカ、変身状態が継続中。
 本人の意思ではない。コントロール不能。
 何しろイベント。大衆の、喧騒の最中。
 ストレスや高揚感で感情を抑制し難いんだろう。

 尻尾でミニスカートが捲れてしまう。
 ずっと手で押さえていては仕事にならない。
 いや、パンツを晒せという意味ではなくて。

 竜人状態でも着られる衣装は、またの機会に考えよう。
 でー、折角着替えてくれてる所、悪いんだが。
 普段着に戻って、次は収穫の方を見てやってくれ。

「あー、でも折角だから、みんなにも見せてあげよ?」
「ええー、そんな、いいよ。いいよぉー」

 フェドラに引っ張られて、マルカ撤退。
 嫌がっている様で、声はまんざらでも無い様子。
 男の子顔負けでも、女の子だからな。
 もっとオシャレとか気を使ってやっても良いのかも知れない。

 ……そうだ、子供らの礼服作らないと。
 そんな事をぼんやり考えていると、

「お、おじさま!」

 レーネの声。振り返ると……来客だな。
 大司教アルディスと、異端審問官ベルトラム。
 神殿騎士団長アウローラと手下の騎士達。
 まあ、来るだろうとは思っていたけれども。

 けれども……めんどくさいな。



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