黒鷲の旅団
14日目(12)別の魔王?
「よーう、旦那じゃないすか」
接触して来た騎馬の一団は、イェルマイン達の騎兵隊だった。
追って来たのではなく、自分達の用事か。
公主から直々に任務を賜ったという。
他の冒険者と同様、街道の安全確保というのが1つ。
モンスターを退治して回れば、闇の力が弱まって行く。
公主直々なのは、冒険者ギルドに任せ切りにしたくない?
まだ遺恨が残っていると思われる。
もう1つ。土地や地形の調査。
難民を集めて新しい集落を作る予定らしい。
無償で囲っておくより、自活の方法を探すのは正しい。
農地として抑えたい条件としては、広さ。
出来れば平坦で、水場がある事。
この丘は……ダメだな。
ここの泉は3日で枯れるそうだ。
それと、魔王軍の動向調査。
黒海を渡ったガルーダの一団を見た者が居るとかで。
しかし魔王軍……休戦中じゃなかったか。
「そりゃあ、南だ。ペーター坊ちゃんの方っすな。
あっしらが頼まれてんのは、東の連中でして」
他にも魔王がおるんかい。
アンヌも説明に加わる。
この『7th Earth』の世界の世情について。
ここ最近では、活動中の魔王が5人居るらしい。
魔王バウアー。フランツペーター・バウアー。
こいつが俺の同僚ペーターなのだが。
アフリカ大陸一帯を支配。北はトルコへと攻め上っている。
アンヌ達の父親に当たり、現在は一応の休戦中。
これとは他に、まず南東。魔王バティスタン。
インドから中東に版図を広げている。
自ら前線に出たがるバトルジャンキー。
個人戦闘は強いが戦術・戦略はおヘタクソ。
これが人類軍が均衡を保っていられる原因だとか。
北東には魔王エリダラーダ。
アラスカからシベリア辺りを拠点にしているらしい。
箱庭趣味との噂もあり、あまり侵略に積極的ではない。
しかしその園芸・職工材料となる資源を巡り、諸侯と対立中。
遥か西、アメリカ大陸に魔王クリストフ。
アステカ古代宗教の信徒達を相手に戦っているという。
圧政の他、奴隷売買にも手を染めており、評判が悪い。
海洋には魔王ウルリカ。
浮島状の移動要塞島を拠点にしている。
気まぐれに移動しつつ、沿岸部や商船団を襲撃して……
いや、ちょっと待て。何その海賊魔王。
魔王の共通点として、レベルが桁外れな事。
連中は“通常より早い時代に”この世界に現れている。
イェルマイン曰く、今は制限された課金システムの一端だと。
長い時間を掛けて、しかしコツコツとレベルを上げた。
レベルなんて数字だけでなく、確かな実践経験があるワケだ。
チートと一言で表すには手強過ぎる相手だろう。
仮にレベル差だけ埋めて貰っても、勝てるのかどうか。
まあ、俺は魔王討伐に興味は無いんだ。
変に目を付けられない様に出来れば良いんだが。
さて、イェルマイン隊の調査。
協力を求められるが、こっちも依頼があってな。
まあ、道が同じ範囲で良ければ同行しようか。
「それだけでも助かりやす。
あっしら、魔人さん達との交戦経験も少ないんで」
他の魔王の所にも、魔人って居るんだ?
魔王の血族、息子や娘、親族は皆、魔人らしい。
魔族、という呼び方もあるが、これは正確ではない。
これには悪魔や巨人、悪鬼、吸血鬼なども含む。
亜人族、みたいな大きな括りに当たるらしい。
隊列を合わせて行軍を再開する。
速度はこちらの足、歩兵の行軍速度に合わせて貰う。
子供達も交流を始めた様だ。
騎馬隊いいなー、との声。
強そうだとマルカ。楽ちんそうにゃとジェマ。
少年騎兵エリック、得意そうな顔。
退却時の足としても、馬があれば有利だろう。
状況が整ったら買ってやりたい。
ただ、数が揃うかどうか。
マグダレーナにも意見を求めてみる。
「馬商人に言って……でも、在庫かあ。
野生のを捕まえる、というのも手ですね。
一から訓練しなきゃですけど」
出来れば訓練された馬を買いたい。
乗り手も乗られる側も初心者では不安だ。
銃士隊の発砲で驚いて大混乱、では困る。
何も、レースをするワケじゃない。
多少グレードが落ちても、戦いに慣れた馬を相当数。
街に帰ったら一度、馬商人にも相談してみたい。
さて、先の話は先の話だ。今は行軍を続けよう。
丘をもう1つ、川2つ越えて、林の先へ。
次第に見掛ける敵も弱体化して来た。
キマイラやトロールは姿を消した。
代わりにゴブリンなんかがチラホラ。数も少ない。
首都周辺、闇の気配を離れたからだろうか。
林を抜けて、丘に登っ…………何だ?
探知魔法、脳内レーダーに敵の赤い点が多数。
多数だ。数百は居る。しかし様子がおかしい。
塊が2つに割れていて、陣形が向き合っている。
友軍ならざる2つの軍が、しかし争っているのか。
総員、警戒態勢。干渉すべきか避けるべきか。
まずは気付かれない様に様子を見たい。
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