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黒鷲の旅団
14日目(13)不期共闘戦

「片方は魔人、っすなぁ……」

 少し後方に子供達を残して、先行偵察隊。
 俺、アンヌ、イェルマグ兄妹で丘を登った。
 愛銃ドラグノフのスコープを覗いてボヤくイェルマイン。
 アンヌが探知情報に、高位の解析魔法を加えて身元調査。
 父親は魔王バティスタンで間違いないらしい。

 女の魔人が3人。魔人って女が多いのか?

 アンヌが言うには、バティスタン軍は男系社会。
 序列を競って男達が日々争い、時には殺し合っている。
 逆に女はどうしても地位が低く、潰し合う甲斐が無い。
 無駄に争わない為、比較的多いのではないか。

 でなければ、男の地位が高いから。
 こんな前線までは出て来ないのか……

 前者かな。戦闘狂だという魔王バティスタン。
 有能な息子には、手柄を立てて来い、ぐらい言いそうだ。

「ま、そうかも知れないけど。
 それより、どうするの?
 もう片方、不死者っぽいわよ」

 アンヌの指さす方。
 魔人達の獣魔混成部隊の反対側。
 骸骨兵士や亡霊の戦列が並んでいた。

 ゾンビ……は、居ないな。
 肉や皮なんて風化し尽くした、年季の入ったアンデッド兵団。
 一様の黒甲冑に身を包み、組織化されている。
 大将首らしいのは中央後列、少し派手な不死者の魔術師。
 ワイトかリッチか。前に戦った奴より各上に見える。

 で、陣容はともかく、どういう状況だ。

 不死者側の背後には、遺跡の様な建造物が幾つか。
 地下墓地、かな。連中は根城を守っているワケだ。

 対する魔王軍。魔王バティスタンの尖兵達。
 連中が地下墓地を攻める理由は?
 制圧、拠点にして侵略の足掛かりとする、とかだろうか。

「あっ、やべぇ」

 イェルマインの見る先……敵方の魔人。
 スコープで見る。こちらを指差して何か喋っている。
 どうやら気付かれた様だ。

 どうする。両方の軍隊を同時に相手にするのは危険だ。
 しかし東の魔王軍が西方侵略の橋頭保を築きに来たのなら。
 防備が整うのを待ってやるより、早期に叩くべきだ。
 今ならまだ先手を打てる。

 勝算は……ある。こう睨み合っているのだ。
 一気に雪崩れ込まない以上、双方の戦力は幾分拮抗している。
 互いに戦わせつつ、一方に助力すれば。

 拡声魔法。宣言。
 総員、不死者の方に加勢する!

 へ?という顔で、魔人から不死の術士まで。
 敵から味方から全員固まった。
 ええい、動け動け! 話は後だ!

 子供達と花人達を丘の上へ。
 植物魔法でバリケード、陣地構築。
 近接の護衛約はジュス姉とハミルトン爺さん。

 俺とアンヌ、イェルマグ騎兵隊は丘を降りよう。
 不死者達と連携して敵の注意を引く。

「おっちゃん大丈夫かな」
「大丈夫だよ、援護するよ!」
「帰還スクロール忘れないで」
「どうかご無事で! ご武運を!」

 動揺する子は隊長役が宥めてくれる。
 中隊長、妖精指揮官トゥーリカ。総指揮を。
 魔女参謀サンドラがフォローします。
 言っても、やる事はいつも通りだ。
 みんな気負わずにな。

 丘を降りて不死者側と接触。
 どういうつもりだと魔術師が聞く。
 そっちのが、話が通じそうな顔に見えたんだよ。

「顔! 顔とな!
 ふふはは、面白い事を言う!」

 不死の魔術師の、骸骨頭がカタカタ笑う。
 ソルヴェーグだと名乗り、共闘には応じてくれる様子。

 戦端が開かれる。ぶつかり合う前線、獣魔と不死者の軍勢。
 敵の主戦力は武装したゴブリン。物の数ではない。
 ソルヴェーグ麾下の骸骨騎士団は練度が高い様だ。
 子供達の援護射撃も功を奏している。

 問題は、魔人をどう捌くか。
 敵の魔人、3人。探知に解析魔法。
 魔人ライザネルザ、レベル921。
 魔人メアリーロア、レベル273。
 魔人ブレンダルシア、レベル246。

 ザコの統率役がブレンダルシアらしく、こいつは前に出ない。
 一度、子供達に向かう素振りも見せたのだが。
 すぐに戻って指揮に徹している。
 どこか蒼い顔。ジュス姉さんが威圧スキルでも放ったか。
 前衛がこちらを排除するのを待つつもりの様だ。

 その前衛2人が当面の脅威。
 一番の強敵ライザネルザをデルフィアンヌが迎え撃つ。
 レベルは少々格上だが、秘策を持たせてある。

 俺、イェルマイン、マグダレーナ。
 残る1人を足止めする。
 魔人メアリーロア。レベル273と強敵。

 こちらは俺、レベル43。
 イェルマイン78、マグダレーナ81。
 3対……いや、もう少し有利か。
 不死者ソルヴェーグ、レベル120。

 大丈夫だ。遣り様はある。



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