黒鷲の旅団
21日目(1)後腐れは要らないから
「わ、これカッコいい」
「こういうの着るの? 楽しみ!」
朝食後、ケンタウロス駐屯地から3人選抜して仕立屋へ。
ケンタウロス女子3人、楽しげだ。
上はカッチリしたスーツ。
下半身は馬なので、馬用コート。
オプションは帽子、白手袋、肩掛けカバン。
とりあえず形だけ、お姉さんケンタロスの配達屋さん。
美人揃いなのもあって、なかなかサマになっている。
「どう? 直すトコある?」
仕立屋カーラさん、パパパと作ってしまった。
これで良いと思うよ。やっぱり腕が良い。
配達員の体裁を整えたケンタウロス3人。
彼女らは先遣隊だ。運送・配達事業の先駆け。
まずは試しに配達局の下請けとして働かせて貰う。
問題点を洗い出しつつ、徐々に業務を拡大したい。
「うんうん、悪くないじゃないか。
それじゃお嬢さん方には、うちの連中について回って貰おう。
お前達、ちゃんと教えてやるんだぞ。大事な後輩だからな」
配達局はラース・キルステン支部長。
業務提携については意欲的だった。
ケンタウロスの馬力で運送業をやる。
しかし、こちらにはノウハウが無い。
ここで俺は首都の配達局を頼った。
こちらは業種の経験を得られるとして。
彼らの方は事業拡大が狙える。
ケンタウロスの馬力なら、大きな荷物も預かる事が出来る。
配達可能範囲の拡大、必要時間の短縮。
領地の再開発もあって、需要も高まって来る。
楽に運べるなら、単価も下がって市民も助かるだろう。
あとは、先輩側が困らない様にバランス取りが要るか。
速達専門とか、重い物だとか、分業……
まあ、その辺は様子を見ながらだな。
「ちなみに、儲けの取り分なんですが」
取り分。一般従業員は基本給+歩合制。
うちもそんな感じで良いと思うが。
その内、幾らを俺の取り分にって?
違うんだ。俺の取り分は要らない。
俺が上前を撥ねる話じゃないよ。
給金はそのまま、彼女らに出してくれれば良い。
「え、いや、しかし……
それだと、あんたにどんな得がある?」
得か。得……まあ、得は確かにある。
ケンタウロス達が農村を……
えー、農村と揉めそうになって。
俺の目的は、ケンタウロスと農村が揉めない状況を作る事。
これは何も、どっちかを潰したいワケでも無くて。
例えばだが、貧しさ故に行われる悪事がある。
貧しい農家が口減らしとか、下の子を売り飛ばすだとか。
それを止めさせるのに、止めろと口で言うだけじゃ弱過ぎる。
根本的に解決するなら、そいつらの貧しさを何とかしないと。
それが出来ないなら黙ってろって話にさえ、なる。
今回の件では、ケンタウロスが食って行ける環境が要る。
彼女らが食って行く為の仕事……に、なれば良いなと。
だから、これは投資だ。
俺が後腐れ無くスッキリ問題を解決する為の、投資。
買いたい物を出せる金で買っただけの話。
幸い、多少なら金がある。
あんまり儲かる様なら、後で仲介料を貰っても良いが。
まだ試用段階だ。こっちも迷惑を掛けるかも知れんし。
その辺の差し引きも兼ねて、まずは様子見としたい。
「そうか。まあ、損をしてないっていうなら良いんだが。
業務委託。ドブロジャ支部の話も前向きに考えよう。
黒鷲団には私らも世話になっているんだ。
損なんかさせたら罰が当たるってモンさ」
世話に……何したっけ。魔物退治か。
どこへ行くにも行き掛けに、出会う魔物を片っ端。
闇の気配が払われて……だったか。
退治し続けるとリポップモンスターが弱体化する。
こちらこそ、お役に立てているなら何よりだよ。
さて、ケンタウロス配達員、先遣隊。
上手く軌道に乗るか……まずは1日任せてみるとして。
うちの子供達の方はどうかな。各隊に通信を取る。
新人チームはマリナ達、第1弓兵隊が牽引。
トゥリンとヒュリヤの騎兵隊衣装を受領しに行っていた。
道順を教えたりもしているらしい。
レーネの第1弩兵隊は馬商人の所で軍馬を2頭手配。
立て替えて貰った代金は俺が出そう。
細かい買い出しはユッタ、ジルケ達。
第1・第2銃士隊が当たってくれている。
花人隊はポータルから農村へ派遣中。
雨による農地の影響を確認して、これから戻って来る所の様だ。
各隊順次、屋敷の敷地へ集合してくれ。
昨晩、公主宛てに急ぎの密書が届けられている。
後になって一波乱あるかも知れない。
嵐が来る前に、出来るだけの事をやっておきたい。
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