黒鷲の旅団
27日目(11)マルルースの転機
「あああ、ガキのお守りでも何でもする!
頼むよ! ここから出しておくれ!」
ああ、こいつか。こいつが居たか。
現在地はブラショヴ王城、地下牢。
経緯。バルビエ夫人の護送。
公子公女に挨拶して行くと言う。
夫人は先に城へ送って。
次いで黒獅子隊に声を掛けた。
彼らは彼らで出撃準備をしつつ。
公女にも報告したい。
ヴァルター隊長。
ハイルヴィヒとジョルジュ。
それから会計担当のアドニスを連れて。
まずは城まで来ている。
で、ヴァルター隊長の勧め。
戦争捕虜の件。
俺の自由に出来そうな人材が居ると。
会ってみたら納得だ。思い出した。
牢の中の若い女。傭兵マルルース。
元はセドリックの取り巻きの1人。
俺が相手をした。
頭を打って昏倒していた奴だ。
ヴァルター隊長曰く、傭兵同士の戦い。
敗者は基本、勝者のモノ。
俺が倒したんだから、と。
俺の自由にしてはどうかと言う。
このマルルース。
罪状もそこそこな物で。
セドリックの悪事に加担して来た。
良くて奴隷落ち。
最悪、縛り首の可能性もあるらしい。
スカウトを持ち掛けたら縋り付いて来る。
アライメントは悪寄りの中庸。
混沌寄りの中立と。
縛り首の割に完全な悪でもない?
心を入れ替えると言う。
それなら機会を与えよう。
一旦、俺の配下になるものとして開放。
その後の派遣先は傭兵団。銀狐隊。
細かい待遇について。
まあ、改めて説明して貰うとして。
戦い方を覚えたい子供だ。
子供を1人、従者として付ける。
将来は冒険者か、傭兵か……分からん。
剣を置く道を選ぶかもしれない。
しかし、本人が戦わないつもりでも。
戦火が及んで来るのが現状だ。
命を奪われない様に、守れる様に。
先輩傭兵として指導を。
抗い生き延びる方法を教えて欲しい。
「や、やれる事は、やるよ。
でもその、奪われない様にって?
奪う側だったあたしに出来るかね」
奪う側の思考が分かる。
その邪魔の仕方も分かる。
あんたにしか教えられない事がある。
ある、かも知れない。
まずは、やるだけやってみて。
ダメならまた考えよう。
屋敷でメイドやるよりマシだと思う。
騎士ジャンナさん立ち合いを頼んだ。
雇用を承諾。
牢番にマルルースを開放して貰う。
後の世話はノインテリアさんに任せる。
マグちゃん代理。従騎士。準隊長格。
何か問題があったら言ってください。
「承知しました。ではマルルース隊員。
我々は騎兵部隊です。
まずは馬を手配しましょう。
それから宿舎の方に案内します。
部屋は個室です。
同僚と顔合わせして、隊服と武器の支給。
武器種は使い易い物で良いですが。
それとマグダレーナ隊長。
彼女の事はお姉様と呼ぶ様に」
……ノインテリアさん?
さりげなく怪しい事を混ぜ込んでいる。
マグちゃん同性にモテていると聞いたが。
この人が誘導しているんじゃなかろうか。
『ちょっと、ノイン。
また変な事を吹き込んでいますね?』
「あら、お姉様。
ご機嫌麗しゅう」
『だから、お姉様は止めなさいとっ!』
「あはっ。冗談ですよ。
マグ様。何かご進展が?」
相手はマグちゃんマグダレーナか。
通信が来ている様子。
ノインさんはマグ様呼びに戻っている。
単に反応を面白がっているだけか?
通信魔法を俺にも回して貰う。
マグちゃんの用事。
危険を察知して、ではなく?
パーティ表示に1名増えたから確認か。
『なるほど。そちらが新入りの』
「あ、ああの、おね、おねっ」
『それはもう良いから!』
お姉様と呼ぶのが照れ臭いマルルース。
呼ばれるのが照れ臭いマグダレーナ。
と、横からニヤニヤ見ているノインさん。
真面目な顔して悪戯者だな。
『コホン。まあ良いでしょう。
言われた事をやる程度には真面目と。
まずは歓迎しましょう。
それと、取り急ぎ報告したい事が』
マグちゃん報告。峠越えは順調に。
ただ、シェルカイア。
どうやら既に交戦状態で。
それも陥落寸前だと?
街の外門は既に突破されたらしい。
動きが早いな。
横槍を嫌って攻略を急いだか。
シェルカイアは南東のペルシャニ。
ここで脱出して来た市民。
後退した軍団とも遭遇。
軍団長は第11公女シャルロッテ。
残った兄姉の救援を乞われたという。
マグダレーナは見捨てたくない。
ただ、リュドミラの軍団としては?
公子公女の救出作戦を強行か。
つまり少数潜入で対応するのか。
それとも正面から制圧する。
派兵しての都市奪還作戦をするか、だ。
救援は確定なのか。
マグちゃんオトコマエ。
うん、まあ、そりゃあモテる。
「からかわないで下さいよー。
それより、どうします?
通信、リュドミラ公女に繋がらなくて』
公女様は伯爵夫人と会見中だった。
応答拒否しているかも知れない。
誰か騎士に連絡して取り次ぎを。
いや、顔を見せに行った方が早いか。
すぐに報告に向かおう。