黒鷲の旅団
27日目(12)見上げ、見定め、共に

『アレって何? 撃っちゃう?』

 ジルケ、今は放置で良い。
 良いけど、まあ、気にはなるよな。

 偵察は少数で移動。
 シェルカイア南、ヴァドから。
 シェルカイア上空に何か見える。
 何か……ドローンの様な物。

 再現した機械だろうか。
 それとも魔法仕掛けか分からないが。
 挙動が不自然だ。
 生き物の風任せな動きじゃない。

 ポータルで戻ったマグダレーナと合流後。
 彼女とパーティを組んだ。
 彼女が開通したポータルを登録。
 これで分散しても同じポータルが使える。
 部隊展開先の選択肢を増やす為だ。
 偵察、それ自体はついでのつもりだった。

 だったのだが……ドローンが見える。
 上空から戦場を監視している奴が居る。

 現状、まだ意識の先は他方面だろう。
 ユスティーナ派閥の残存戦力は西。
 南東に逃げたシャルロッテ公女の軍。

 ここで攻撃は悪手だ。
 俺達も敵だとバレてしまう。
 被探知を隠密で誤魔化しているが。
 ダメージを入れてしまうとな。

 奇襲狙い。
 兵を展開させた途端に察知される。
 他方の戦端が開かれてから飛んで来たい。
 ポータルで飛んで来て。
 遠射と騎馬で横腹を突こう。

 騎馬……レーネ、首尾は。

『馬の方は滞りなく。
 でも、お代なんて。
 私、全然出せますよ?』

 側に居たユッタもうんうんと頷くが。
 先のパンツァーファウストもだ。
 ユッタ達の支払いになっている。
 必要そうな物を自分達で買い足してくれた。
 せめて全体的な所は俺に負担させておくれ。

 軍馬の手配。
 新人の花人第3小隊6人分。
 それと、骸骨騎士団12名。

 フェドラの馬に乗っていたニノン。
 彼女にも自分の馬を。

 あとリューリ達3人。
 代金立替て貰っていた。
 軍馬22頭分のお支払い。440万。

 で、馬たっぷり。
 また牧場スペース拡張しないと。
 ポータルで自宅空間に向かう。
 向かいながら、付いて来た子達の話を聞く。

 後でも良いよとユッタ。頷くペトリナ。
 慌ただしいので遠慮しちゃった?
 まあ、後でまた時間を作ろうか。

 見たいモンは見たから、とフリーダ。
 ああ、お城に入ってみたかった?
 陣地を強く作る参考にしたいと言う。
 フリーダはハーフドワーフという話だが。
 職人気質っても鍛冶より建築か。個性。

 マリッタ、提案。
 ニノンは弓も良いのでは、と。
 雷竜人の血縁だ。
 将来的に筋力は伸びるハズ。
 強射に期待出来る。
 フェドラにも懐いている。

 しかし腕自慢。
 重弩という選択肢もあるし。
 体型的にはまだボウガンの方が安定。
 両方教えても良いとは思うが。

 ジルケからのご意見。
 人間の敵よりゴブリン撃ちたい、と。
 サンドラちゃんも同意。
 それはまあ、そうだよな。

 素材集めの方が余程楽しい。
 怪物退治の方が気に病まなくて済む。
 貧しかった頃に比べれば金も余裕もある。

 ともすれば、子供達は待機でも良いか。
 俺や花人達だけでも義理は果たせる。
 自分達の街を、生活圏を守る戦いでもない。

 勿論、連れて行ったなら。
 それはそれで得る物もあるだろう。

 金や名誉、公女殿下の評価もそうだが。
 対人戦闘の経験を積む事が出来る。
 悪い大人、悪い異世界人への対応力。
 ダメージさえ徹れば経験値も入る。

 レベルが上がれば死に難くもなる。

 殺さずとも……しかし、援護射撃。
 援護を受け、味方前衛は敵兵を殺す。
 命のやり取りに加担する事になる。
 既に経験している事ではあるが。
 だが、好き好んでやる事でも無し……

 俺が逡巡していると。
 行くよねとペトリナ。
 慌てて頷くジルケ、サンドラ。

 何だか気を使わせてしまったか?
 気が乗らないならお留守番でも。
 しかしユッタ。
 自分達は従者だからと言う。

 面倒を見てくれるから、ではなく。
 自分達の役割として、参戦する。
 懐かれるのも善し悪しだな。
 置いて行ってもコッソリ来そう。
 目の届く所に置いた方がまだ良いか。

 俺が戦うなら、一緒に戦う。とすると。
 最終的には俺も戦わない道を探すべきか。
 手柄を立てて、領地でも貰っ……

 いや、領主ぐらいじゃダメだ。
 国家の領地、国家の属領だろう。
 派兵、参戦の命が下る事もある。

 自分達の国を手に入れる、か。
 死んだセドリックが言っていた事だが。
 参戦の是非も何も自分達で決める為に。

 しかし、王座についたとして。
 それ、どうなんだ。
 守る為だ何だと。
 結局は戦う事にならないか。

 弱いと狙って来る奴。
 強いと絡んで来る奴。
 真に戦いの無い道とは……
 難しいな。難しい。
 傭兵の、戦いの道を行く俺には。

 見上げて来るユッタと目が合う。
 そうだな。援護は任せようか。
 強く頷くユッタ。慎重に行こうな。
 まずは屋敷に戻って支度に掛かろう。

 目先の苦難は払う。
 果てがどうあれ、今は共に。



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