黒鷲の旅団
29日目(23)何の因果で

「だって、リアルに旦那居るし」

 あ、ああ、なるほど。
 盲点だったが納得だ。

 ブカレストに戻って、西区。
 神聖教会ブカレスト支部。
 アリスマリスさんと話をした。

 トリストリオンの件の報告がてら。
 質問。こちらの世界で恋愛をしない理由。
 答えは、現実の方で既婚者でした。

 異世界っても転移転生じゃない。
 表向きはゲームという事になっている。
 そこへ来て電脳のコピー体。
 経験を共有しているだけ。

 リア充がゲームしないという決まりも無い。
 他方で満たされている部分だ。
 それをゲームに求める必要は無い、と。

 しかし……それ。
 トリスに言ってやれば良かったのでは。

「ストーカーになったらどうすんの。
 旦那刺されたりしたら嫌じゃん」

 リスク管理がしっかりしてるな。
 じゃあ、先生さんにもよろしく。

 教会訪問の用事、2つ目。
 アウローラさんにも話を聞きたい。
 孤児院増設の件は何か進んでいないか。

 聞きたかった……んだがな。
 どうやら出払っていた様だ。
 神殿騎士団が向かった先は北。
 プロイエシュティの開拓地。

 神職殺しの犯人探しか。
 ついでに魔物の掃除もしてくれるのだと。
 それはそれで願ったりだ。
 わざわざ邪魔する事もあるまい。
 日を改めて出向くとしよう。

 戻る前に街の様子を見に行く。
 と、おや。アリスさんもついて来て。
 こっちの状況も聞きたい?

 子供達はトゥルチャに移した。
 トリスの仲間が戻って来ては怖い。
 コドレアの駐屯地は実質放置だ。
 村の守りはリュドミラ軍が入った。

 魔人達も少し凹んでいる様で。
 まあ、ここまで負け知らずだった。
 深手を負わされ、自信を削がれたか。
 トゥルチャの方でボンヤリ過ごしている。
 アンヌだけ探知に躍起になっていた。

「ふうん。なら、良いかな。
 嫌だよねえ、仕返し」

 嫌だねえ。
 そして、しかし、来るだろうね。
 死なない奴。ゲームの中の対戦相手。
 現実でも殺すに殺せない一般人とか。
 揉めると面倒この上無い。

 リュドミラからの苦情が頼りだ。
 女王の耳に入って、お叱りとか。
 もうしないのを条件に丸く収める。
 収まる、と良いんだがな。

 西区から中央通りへ差し掛かる。
 近付いて来る騎馬、3。近衛隊か。
 シュテラ、ジゼル、ザビーネ。
 こちらに気が付いて馬を止める。

「黒鷲殿! お手をお借りしたく!」

 探知情報から戦闘ではなさそうだが。
 何か事件でもあったのか。

 ……子供の死体が?

 聞く限り、殺人事件らしく。
 どこの子供だと。まずは向かうか。
 転移魔法、馬。
 自分の馬を呼び出して追従する。

 事件現場、東下層区の北寄り。
 子供、死体……サミュエルか。
 窃盗未遂、下層区の調査を依頼した1人。
 あのやり取りの後だ。
 窃盗やって返り討ちとも思えんが。

「やはり知っている顔か」
「やあ、君か。惨い事だな」

 先に来ていたのは騎士団長。
 久しぶりのサンダーバロンさん。
 剣士のエトワールさん。
 あと、ゼルフィカールさん?

「たまたま近くに居ただけだ。
 私よりコイツが怪しいと思う」

「これだよ。疑いを掛けられてる。
 俺なんて悪寄りなモンでなあ。
 あんたの魔法で証明出来ないか」

 やるだけやってみよう。
 俺も真犯人は知りたい。

 この子には兄だか兄貴分が居た。
 まずは探知。グレアム少年を探す。
 見つけた。連れて来て貰う。
 重要参考人かつ保護対象だ。
 近衛隊が向かってくれる。

 その間に、サミュエルの遺体を解析。
 追跡魔法。魔法の痕跡は無い。
 診察。執拗な暴行の痕跡。
 それと刺し傷が致命傷。

 刺し傷を詳しく。
 業物、刀の類ではないな。
 剣士2人は除外して良さげ。

 少ししてグレアムが来た。
 酷く怯えた顔をしている。

 弟分に何があった。
 思い出したくも無いだろうけど。
 呼び掛けつつ読心魔法。
 彼の表層心理に浮かんだ顔が……

 ……くそ。ダニエルかよ。



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