黒鷲の旅団
29日目(24)あくまぱんち

『監視対象が動いた』
『ハイン、聞いてるか』

 仕事が入ってしまった。
 長考には間が悪いか。
 一旦こちらに集中しよう。

 現実世界に意識を戻す。
 企業間抗争の世界。

 例のゲーム運営、関係者らしきDNA。
 そこから知人を特定して追跡中。

 マークしていたのは何人か居た。
 その1人があからさまに挙動不審。
 声を掛けた警備部を振り切って逃げたとか。
 捕えて事情を聴く名目が立ったワケだ。
 手隙のメンバーで包囲を計る。

 対象が向かっている先は、どこだった。
 フィルブラント社の支配領域末端。
 入って来て横切ろうとしている所か。

 向かう先は伯竜公司だったかな。
 華僑の末裔が作ったか何だかの企業。

 うちとの関係性は複雑だ。
 連中の中でも派閥が割れている。
 一部は交渉の余地もある、として。
 ここらの管轄はどちらやら。
 標的がこちらにいる内に捕らえたいな。

 バリーがバイクで先行。先回り。
 俺とグレッグが徒歩で追う。
 ヴィル、建物屋上から牽制射撃で援護を。
 対象が足を止める。
 程無くして取り囲んだまでは良かったが。

「く、くそっ! 来い、俺の悪魔!」

 捕獲対象、端末を掲げる。
 その足元に魔法陣が浮かび上がる。
 下からせり出す様に悪魔が姿を現した。
 確定した。こいつ、追跡先の仲間だ。

 しかし、出て来たのがグレーター。
 レッサーデーモンより強い。
 銃が効かない。刃物、刺さらない。
 刀得意のグラディスが今回不在。
 排除しないと捕獲どころでない。

 そうだ端末。
 アンヌ、アンヌは繋がるか。
 これ、悪魔、何とかならんか。

『うーん、あくまー……?
 だもんだーくむにゃむにゃむにゃ』

 今回も寝惚けている。
 寝惚けながら何か呪文を唱える。
 サモンて。召喚?通るの?

 アンヌが手を掲げる。
 俺の端末の前にも魔法陣が浮かぶ。
 浮かんで……

「ふははははは!
 お呼びとあらば即参上っ!」

 出て来たのがエルダーデーモン。
 しかも聞いた声なんだが。
 これ、いつぞやの個体じゃないか?

「ふんぬああああ!」

 エルダーデーモンの剛腕。10m近い巨体。
 比べれば小さいグレーター。
 エルダーはグレーターを殴り飛ばした。

 グレーターデーモン、轟沈。一撃かい。
 背中から倒れた。顔が潰れている。
 頭の中身が出ていてグロい。
 まあ、動かなくなったのは良いけれども。

『もどれー』
「はい、お嬢様〜」

 端末の中、アンヌが呼んで。
 小さくなりながら、しゅるしゅるん。
 デーモンは液晶から吸い込まれて行った。

「え、何すか、今の」
「無茶苦茶だな」

 同僚達も呆れ顔だが。
 俺だって原理とか知らんわ。

 腰を抜かして白目を剥いた捕獲対象。
 こいつを引き摺って帰ろう。

 悪魔を端末で呼び出して。
 こいつはこいつでどうやったんだかな。
 こいつも向こうに協力者が?
 まあ、じっくり聞かせて貰うとしよう。

 あと、グレーターの死体が残るか。
 技術部の連中は調査したいと思う一方。
 エルダーより小さくても5mだ。
 俺達の移動用バンに収まる物ではない。
 本社に連絡して車を手配しないと。

 ……端末を通して異世界転送。
 これ使って行き来は無理だろうか。

 危ないかな。
 確か研究員の残した動画があった。
 失敗して何人も死んだとかって。
 行ったとして戻って来られなくても困るか。

 しかし、向こうに協力者が居る場合は?
 転送ではなく吸い上げて貰うとしたら。
 物品だけでも試してみたい。

 アンヌ、まだ起きてる?
 眠そうに頷くアンヌ。
 えーと、渡せる物、渡せる物。

 これとこれを譲渡するから。
 そっちから魔法で吸い取ってくれるか。
 かくんとアンヌの顎が落ちて。
 俺の手元からブツが消えた。
 しかしてアンヌは持っていない。

 ん? どうなった。
 渡った? 違う? 分からん。
 呼び掛けるもアンヌが反応しない。
 お行儀よく座って微笑んでいる。

 これ、通信が切れてるのか。
 通話が双方向の状態じゃない。
 普通のゲームのステータス画面表示だ。

 しかしそうなると、どこ行った。
 俺のチョコバー、メロンパン。
 あとワイヤーアンカーとか。

 まあ……良いや。確認は後にしよう。



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