黒鷲の旅団
31日目(17)その戦車、頂けません

「出て来ませんね……」
「引き摺り出しますか?」

 訝しむケンタウロス隊。
 ダナさん、ジャネタさん。
 何か対策してからだ。
 開けた途端に撃って来るかも知れん。

 動けなくなった戦車の一団。
 降伏勧告をしたが反応が無い状態。

 探知魔法……効かないな。
 反射の隙間を狙っているのだが。
 戦車の内部を把握出来ない。
 装甲が厚いせいだろうか。

「開けてくっか?」

 待て。待ってクリムさん。
 罠には強かろうが加減が分からん。
 対魔人装備とか飛び出しても困る。

 どんな仕掛けをしているか。
 レベル上位者の神人が最適。
 次点はレベル低くても神人だろう。
 キャスティーナさん……遠いか。
 ここは俺が行こう。
 あまり子供達を待たせたくもなし。

 子供達……上手くやってるかな。
 遠く黒煙が上がっている。
 麦角の焼却作業は継続中。

 探知、解析魔法。
 特に状態異常は見られないが。
 通信。何か困ってないか。
 腹減ったーとツェンタ。
 軽食は取ったが足りなかったかな。
 帰ったら何か食べても良いだろう。

 そんな事を話しつつ戦車の側へ。
 解錠魔法が効かないが。
 解析。ハッチが施錠されていない。
 いよいよ待ち構えているか。

 先制攻撃を。いや、魔法世界だ。
 撃たれた所で何とでもなるか。
 捕虜を取る方を優先する。
 一応、銃は向けるとして。

 砲塔のハッチをそっと開ける。
 怯えた搭乗者と目が合った。

 搭乗者……子供?
 と、何だ。血の匂い。
 車内が酷く暗い。照明魔法。
 赤い液体が目に入る。
 液体から無数の目玉が浮かんで来て。

 ……ブラッドエーテル。

 いや、待て。どういう状態だ。
 車内はブラッドエーテルで満ちていて。
 搭乗者は子供が1人だけ。
 ブラッドエーテル漬けになっている。

 ハンドルなど握っていない。
 違う。ハンドル自体が無い?
 子供は拘束されている様に見える。
 どうやって車体を、砲塔を操作した。
 ブラッドエーテルか。
 じゃあこの子供の必要性は何だ。

「あ、あ……」

 ブラッドエーテルが赤く光った。
 慌てた顔をする子供。
 助けを求めて手を伸ばして来る。

 う、ぐ。てっ、テレポート!

 俺は咄嗟に子供の腕を掴んだ。
 転移魔法。子供を車外へ放り出す。

 途端、爆発。

「お兄!?」
「うおっ!」

 後方でアンヌとクリムさんの声。

 他の戦車も爆発を始めた。
 自爆だと。機密保持のつもりか何か。

 俺の方はどうなった。
 身体が半透明になっている。
 神人仕様の復活待ち。
 死体の方はバラバラかなあ。

 テレポートは失敗だった。
 脱出、リターンにしておけば良かった。
 咄嗟で思いつかなかったが。

 子供。子供どこやった。
 見回すと、草原の上。
 引っ繰り返っているのが見えた。
 動いた。生きてはいる。

「嘘! お兄! お兄ーっ!」

 アンヌが酷く狼狽えている。
 復活するのを忘れてないか。
 呼んで手を振ってみるが無反応。
 魂状態だと干渉できないのか?

 復活待ち。カウント表示は30秒。
 ペナルティ確認。
 レベルダウン2つ。
 こちらの損害はそれだけか。
 許容範囲ではあるが。

 しかし戦車を確保できなかった。
 他の戦車も爆発して……んん?

 大破させた2台が爆発していない。
 復活したら、まずはあれの調査かな。



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