黒鷲の旅団
31日目(16)対戦車ケンタウロス部隊
「うわああ、マズった! 仕損じた!」
慌てているのは誰さんだった。
落ち着け。まだ予備はある。
散開。散れ。撃って来るぞ。
離脱、目眩ましの後で再攻撃する。
ガーランド領に魔軍襲来、と。
知らせを受けた村落占領部隊。
先んじて戦車隊が後退を開始して。
この車列に襲撃を仕掛けた。
俺と村のケンタウロスチーム。
ヴィクトリエさんと供回り。
ダナ、ミハエラ、ジャネタ、ヴェンドラ。
戦闘経験があるのはこの5人だけ。
それ以外は非戦闘員からの抜擢12人。
見込みはあるが訓練不足。
最初から百発百中は期待していない。
試し撃ちなんか出来ていないんだ。
しかし、その訓練不足。
かえって良かったんだろうか。
言われるままの水平一斉射。
12人で9台を小破。
足回りを壊して走行不能にした。
他方、戦闘要員は5人で2台だけ。
大物に気圧されて集中攻撃したか。
爆破しなくて良いんだって。
結果、17発で11台が走行停止。
まだ9台は砲塔が生きている。
油断は出来ないとしても。
そう悪いスコアじゃない。
敵戦車は20台。
持ち込んだ対戦車ロケットは30発。
残敵9、残弾は13とプラスアルファ。
戦車部隊の砲塔が回る。
俺は黒煙魔法を使い掛けて停止。
被探知反応。奴ら視認してない。
対処。防盾魔法。空中に複数展開。
透明な盾が砲撃を阻む。
複数展開だ。爆風は次の盾で止める。
……結構、抜かれてるな。
複数が地面に着弾。
幸いケンタウロスの機動力。
どうにか難を逃れている様だが。
装填速度が許す限りの連射。
被害が出るのは時間の問題だ。
もっと広く展開したい。
空間、測量、転移、遠雷。
座標魔法。座標指定魔法発動式。
コーディネイトマジック。
上空へ防盾魔法を次々に放る。
どうか。止まってるか?
地面に落ちる砲弾が減ってる。
減ってるがまだゼロでない。
と、不意に砲撃が止まった。
残弾切れだろうか。
何十発も積んで来るでもないか。
車列が徐々に後退する。
易々と逃がすものか。
「おりゃー! っとと」
アンヌ、発砲。
俺が貸したツァスタバM93。
ガコン、と音がして。
戦車の駆動音が1つ止まった。
煙幕越しで分かり難いが。
効いた、かな。弱い所に入ったか。
反動で体勢を崩したアンヌ。
俺の浮遊、制動魔法で援護。
援護するが、アンヌは下馬。
どうした。馬?
馬がビビってると。
ああ、俺の馬もだった。
爆音で動転しただろう。
制御が難しくなって来ている。
鎮静も掛けるが転移魔法で帰そう。
この辺、ケンタウロスは強いな。
意思の疎通が出来る。
弱者を守る矜持もある。
使い勝手が良い分、貴重。
あまり犠牲を出したくもなし。
敵が弾切れして良かったな。
「あと、どうするっけ?」
対物ライフルに再装填するアンヌ。
奴らの足を止めて。
無力化は、もう良いか。
乗り手を引っ張り出して捕獲だ。
残敵、あと……8台か。
戻って来るケンタウロス隊。
残りの対戦車ロケットを運んで来た。
装備は選抜隊に優先配備?
戦闘要員4人が非武装。
撹乱牽制役といった趣だ。
無駄撃ちの責任でも感じたかな。
乗せてーと駆け寄るアンヌ。
えっ、という顔をされたが。
返事を待たずに跳ぶ。
ヴィクトリエさんの背に陣取る。
えっと、俺は。
ミハエラさんが寄せて来た。
お願い出来ますか。
特別ですよと笑う。
特別。何かルールがあったかな。
曰く、ケンタウロスの慣習。
背中は恋人ぐらいしか載せない?
あああ、また何かフラグが。
言ってる場合じゃないけれども。
とにかく、攻撃を。
ロケット持ちのジャネタさん。
アンヌも再攻撃と。
選抜隊からも再度の斉射。
大破1。エンジンでも誘爆した?
1台派手に爆発して。
他、命中7。あと1台。
あと1台が逃げる様に前へ。
「おおっらああああああ!」
クリムさんが割り込んだ。
前から力で引っ繰り返してしまう。
大したパワーだ。助かった。
弾切れの走行不能。
最早どうにもなるまい。
降伏勧告に移ろう。
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