黒鷲の旅団
5日目(6)隣の従者隊
「ふほおお……今度は弓ですか!
魔道に鍛冶、武芸百般。凄いです。
流石、坊ちゃまのご友人ですね!」
ゴブリンやらを排除していた所。
従騎士ルキュアさんに賞賛された。
その……坊ちゃまさん。
サナトス坊ちゃまの素性。
貴族の生まれ、という設定だったな。
実家て、どこよ……セルビア?
母方の実家がセルビアだったと聞いた。
違和感は少ないとか。
今度見に行こうというと嫌がられる。
そりゃあ、ますます見に行かないと。
「全く……ご友人はご優秀なのに。
うちの後輩達と来たらですね。
戦ってはあの様子で。
家事も出来ないと来ているのです。
従者の自覚が足りないと思いませんか!
私達は坊ちゃまの剣となり盾となって!」
「何あれ、こわーい」
「感じ悪ーい」
ルキュアさんが振り返りお説教だが。
口を尖らせるステラさんとルーナさん。
聞く耳持たぬといった印象。
唯一アクアさんがシュンとしている。
まぁ、ちょっと……話そうか。
皆さん、お嬢様だって?
ステラさん。男爵令嬢。
望まぬ結婚が嫌で逃げた花嫁。
街で悪漢に絡まれていた。
そこをサナトスに拾われた。
家に帰りたくない。
そのまま同行している。
ルーナさんは富豪の娘か。
父親とケンカになり、家出。
冒険物語に興味はあった。
が、見ると聞くとは違うよな、うん。
アクアさん。没落貴族。
父親は借金を残して失踪した。
人買いに連れて行かれる所だった。
救助されてそのまま同行。
街に来て1日か、そこいらだろう。
お嬢様ばかり、よく3人も。
何か法則でもあるんだろうか。
それぞれ帰りたくない。
ないし、帰れないのは分かった。
が、冒険に向いているとも思えない。
元々、食うにも困っていなかった。
被差別も、命を狙われた事も無く。
汚いのも怖いのも苦手だと。
腹を括って冒険者を続けるか。
でなければ、街で他の仕事を探したら?
当面の宿代だけ持ってやるとか。
「で、でも、あの……すいません」
俺の話を聞いていて。
何故かルキュアさんがションボリ。
ルキュアさんにとって初めての仲間。
舞い上がっていたらしい。
半ば強引に連れ回してしまったと。
無理強いは出来ない、か……そうかな。
元々お嬢様が庶民の暮らしをする。
自分の意志で、その距離を埋めなければ。
……埋められるのか?
「で、でもほら。
そっちの子供だって……だし?」
ステラさん、恐る恐る。
この子達にだって事情はある。
死ぬ思いをして今ここに居るんだよ。
石を投げられたユッタ。
盗賊に吊るされたイェンナ。
借金の形にされ掛けたマリナ。
レーネは誘拐された。
トゥーリカは実際に売り飛ばされた。
フェドラは撃たれペトリナは暴行された。
サンドラはずっと才能で悩んでいた。
故郷を脅かされるカリマやティルア。
友人マルカも、今もどこかで戦っている。
自分の身は自分で守る。
守る為には力が要る。
力を付ける為にと、今ここに居る。
俺も、戦う力を育てる助けは出来るが。
戦う覚悟は自分で持って来ているんだ。
元々お嬢様が庶民の暮らしをする。
自分の意志で、その距離を埋めなければ。
さあ、どうする。埋められるのか?
「さ、サナトス、様……どうしよう」
「いいい一緒に冒険したいよね? ね?」
詰め寄られるサナトス。
彼も難しい顔。
「冒険て……まあ。
今はゴブリン殺したりだけどな」
「ゴブリン……」
肩を竦めるサナトス。
3人娘は顔を見合わせる。
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