黒鷲の旅団
5日目(5)遠い距離感
「悪い。助かった……はぁー」
サイクロ4体を轟沈させて、一息。
礼を言うサナトス。
少々調子が悪いのか?
サナトスも戦闘経験はある。
プレイヤースキルが活かせるはずだが。
捌き切れない数を引っ掛けた。
これがもう『らしくない』。
ドジを踏んだのは、本人よりも連れか?
NPC従者を増やした様子のサナトス。
どうも育成が上手く行っていないらしい。
原因の1つが……戦闘意欲。
従騎士ルキュアさんは良いとして。
他の3人娘が良家の子女ばかり。
何か、引っ掛けた女達か?
人数合わせ的な。
「引っ掛けたとか人聞き悪いな!
この娘らは、何つーか……
ワケアリなんだよ」
まぁ、事情は何でも構わんというか。
子連れの俺が言う事でも無いが。
自発的に戦ってくれないと厳しい。
少し目を離しただけでも、
「助けて! ゴブリンが!
きゃーっ! きゃーっ!」
「無理! 無理だって!
こ〜わ〜いぃ〜!」
「た、大変!」
「助けなきゃ! 助けていいよね!」
「閃光! 閃光魔法を!」
うちの子達は指示より先に援護を開始。
何だろう、この自主性の差は。
ザコを掃除の後、休憩のやり直し。
逃げ回るお姉さん達が疲労困憊だ。
活力魔法も掛けるが。
治癒で筋肉痛は治せない様だ。
「ちぇっ、亜人だから何さ」
「イェンナちゃん。どーどー」
イェンナが膨れっ面。
フェドラが宥めながら戻って来た。
転倒したお姉さんの1人。
アクアさんを救助に向かったのだが。
助けた所、オドオドされて。
何か差別的な物を感じてしまった様だ。
反対方面で、不意に銃声。
どうした?
マリナが駆けて来た。
運ぶのを何だって?
ユッタがイノシシを撃ったのか。
ステラお姉さんがオオカミ肉に不満。
気を使い、獲物を探したらしい。
イノシシを運んで来る。
ユッタとマリナが解体する。
それを嫌そうに見ているお姉さん隊。
我儘に付き合ってやって、これは……
俺も物申したかったんだが。
トゥーリカが先に食って掛かった。
「あんた達ねえ!
いい加減にしなさいよ!」
「いいよ、もう。
お姫様には分かんないんだよ」
ユッタも不貞腐れた物言いで。
フクフクのほっぺがプックプク。
従者の粗相は主人の教育不足か?
ナイフをボトリと取り落とす。
はっと顔を上げるユッタ。
いや、違う。お前でなくて。
「あぁー……スマン。
マジでスマン……」
サナトスが深々と頭を下げる。
それを見ていたお姉さん達。
ようやく居心地の悪そうな顔になる。
まあ、躾云々は置いとして。
俺も解体を手伝おう。
メシは気分良く食べるモンだ。
錬成魔法、塩。
サンドラちゃん、ハーブ探して来て。
あと、鍛冶だ。鉱石で鉄板を作る。
設置発動で炎魔法。錬成、錬成魔法。
イェンナ、フェドラ、お願い。
大きめの石を探しておくれ。
あとは衛生管理。
水場が無いので水魔法で手を洗う。
手が空いたら並んで並んで。
「あ、あの……ごめんなさい」
ユッタが頭を下げる。
どうした。
俺に恥をかかせた?
そんなのは良いんだよ。
先に調理器具を作る。
マリナに肉焼きを頼む。
塩とハーブで味付け。
火傷に気を付けて。
その間に、食器を……
あちって聞こえたが、大丈夫か?
マリナ、軽い火傷。水魔法で冷やす。
あとは念の為、俺のレザーグラブを貸す。
ちょっと汗臭いかも知れんけど。
すんすんすんすん。鼻が鳴る。
おーい、嗅ぐなー。
振り返ったらマリナじゃない。
フェドラ?
「フェドラちゃん、良くないよ」
「えー、でも、お兄さんの匂いだよ?」
「すーっ、すーっ。ホントだ」
「何してんのマリナー」
「お兄さんの匂いだってー」
みんな回して嗅ぎ始めた。
こら、嗅ぐな。
変な事を流行らせるな。
ご飯の準備。準備〜っ。
金工スキルでフォークを作成。
しかし、皿も無い。
直に鉄板から肉を取る。
育ちの良いお姉さん方。
少々抵抗がある様だ。
育ちの……っと、レーネは?
「はむ? むぐぅぐ」
もう頬張ってた。
全然、大丈夫そうだな。
物怖じしない子で助かるよ。
とは言え、取り皿ぐらい作るか。
なかなか落ち着いて食えんなあ。
前へ
/黒鷲の旅団トップへ
/次へ
|