黒鷲の旅団
6日目(5)弱くても何でも
「カーチャ、うちらと組まないか?」
「でも、そいつ神人だろ?」
イェンナの申し出にカーチャは渋る。
フェドラの金を盗られた件もあったな。
あとは上納金がどうのと。
うちは取られないよとイェンナが主張。
じゃあ何を取られるの、とノイエ。
泣きそうな声を出す。
「な、な、何だよ!
おっちゃん悪く言うと怒るぞ!」
恩義からかイェンナが怒るのだが。
俺だって万能じゃない。
レーネにも怪我させたし。
イェンナに俺のラティオを預ける。
俺とイェンナの小銃。
これをノイエとカーチャに貸す。
弾薬パックも2つ持たせて。
ダメ押しに隠密魔法とバフを。
せめて上手く生き延びてくれ。
「あ、おじさん……あの、あの……
ご、ごめん、なさい」
「ごめんね。もうちょっと。
もうちょっと考えさせて……」
いいんだ。無理強いはしない。
おかしいのは戦争偏重。
子供まで戦わなきゃならん貧困。
行き届かない社会福祉。
一体どうすりゃいい。
戦争する金を他の所へ。
公共事業でもやれば良いんだろうが。
自分達だけ止めても戦争は止まらない。
周りが襲って来る戦国乱世の風潮。
金と人命の浪費だ。
無駄が多いにも程がある。
詫びを言って駆けて行く少女兵達。
要救助者が居なくなった。
俺も戦場に戻ろう。
「陣地補強! 補強だ!」
「資材急げー!」
「錬成系の術士は居ないか!」
戦況。敵が再び押し寄せて来る。
俺が植物魔法で茨を。
マグダレーナは石柱魔法?
それぞれ駆り出され、陣地の補強に奔走。
子供らは敵の動線を避ける様に。
側面へと迂回を……
『みぎゃあー!』
サンドラの……悲鳴?か何か。
駆け付けると、敵の別動隊が側面から。
鎧甲冑の女が4人。先陣を切る赤い髪。
「ふっひゃははは!
貴様かオルァアア!」
同僚だ。神人。赤い死神。
エルネスティーネ・アシュロット。
相変わらず赤が好きか。深紅の重甲冑。
俺を見つけるや、歓喜と共に襲来。
両手剣を片手で横薙ぎに払って来た。
両手剣でガード。
弾き飛ばされた俺は宙を舞う。
天幕の上に着地。
各種スキルでダメージは軽微だが。
また両手剣が曲がって……ああ、くそ。
不安げに見上げる子供達。
通信魔法。撤退指示を出すのだが。
揃って戸惑うばかり。
懐かれるのも善し悪しだな。
俺の事は良いから、と言っても聞かない。
おーい……アシュリィ。アシュリィさんよ。
解析魔法で自分のパラメータを晒す。
遊んでやりたい所だが。
俺まだこんなモンで、だな。
「ぐっ!? そ、そうか、レベルが。
こほん。よく防いだと言いたい所だが!
得物がそれでは見合わぬな!
貴様とは、もっと良い舞台で渡り合おう!
それまでは貴様の首、預けおくぞ!
ふふはははは!」
……RP上手いな、あいつ。
どこの悪役の真似してんだ。
身内に納得させつつ引き下がってくれた。
今回は自分の弱さにも感謝しよう。
「よく耐えてくれた!
公主様が敵将と相対する。
総員、しばし待て!」
馬上から騎士団長の労い。
正面も凌いだらしい。
各隊は陣地まで後退中。
再度の衝突の前に余興をやるらしい。
「やっぱ通信が一方通行なのがなぁ」
ボヤキながら戻って来たサナトス。
イェルマイン隊も一緒か。
味方の損害にゲンナリ中の様だ。
通信魔法は声を飛ばせる。
しかし声を拾えない。
双方向で会話する場合。
相手側にも通信魔法が必要となる。
神人はウインドウをタップしてすぐ。
しかしNPCが魔法を覚える場合。
儀式とか段取りが必要になって来る。
ユッタ達にも覚えさせられないか。
後で魔女協会で聞いてみよう。
と、今はそれより、剣か。
「そりゃ、まあ、武器だ。
命より大事にしろとは言わねぇが」
輜重隊にハミルトン爺さんの姿。
ドリスの姿もある。
どうやら出張に来ている様だ。
両手剣の修理を依頼するのだが。
度々の破損、複雑そうな顔をされた。
いや、ホント、感謝してるんだ。
俺の代わりに圧し折れてくれている。
コイツが無かったら死んでいたかも。
すまん相棒。
いや、棒ではないけれども。
「まあ、お前さんの怪我もな。
ほとんどユッタ達の代わりだ。
剣も持ち主も苦労してるってか」
少し手伝おうと腰を掛ける。
俺のも頼むって?
騎士トリストラムが剣を差し出す。
ん? 俺がやるの?
まあ、良いけど……
直し……直ったよと顔を上げると。
修理待ちの行列が俺の前にも。
ああ、うん、良いんだけどな。
「はは、鍛冶も板について来たか。
傭兵辞めて、うちの婿殿になるか?」
からかうなよ、爺さん。
ユッタが赤くなり、ぷう、と膨れる。
膨れても可愛いと褒め、照れた。
ユッタ、ぶぶぶと吹いて縮む。
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