黒鷲の旅団
6日目(6)作法と策謀

 余興とやらはどうなった?
 今始まる所だとガイゼル。

 ユッタ、代わりを頼めるか?
 一緒に見たいとユッタ。

 ハミルトンを振り返り。
 後は任せて行って来いと爺さん。
 妙にニヤニヤしている。
 デートだとか思ってるだろ。

 物見櫓に登ってみると……
 なるほど、一騎討ちか。

 白地に赤。
 自軍の御大将はイーディス公主。
 相手は赤地に黒。アシュリィか。

 アシュリィは現実世界からの凄腕だが。
 イーディスもゲーム世界では上級者。
 ありえない膂力を発揮。
 アシュリィと互角に打ち合う。

 レベルではイーディス、やや優勢。
 アシュリィはプレイヤースキルがある。
 差を補っている。

 しかし、まどろっこしいな。
 俺は狙撃銃を構えた。
 水を差すのは作法に反するとルキュア。
 決闘『は』邪魔しないがなー……

 今少し打ち合って。
 打ち合いに満足したのか、剣礼。
 大将達が後退する。
 代わりに歩兵達が前に出る。

 前に出るが……ここだ。
 通信魔法。各員、作戦開始。
 あとイーディス、聞こえるか。

『えっ……ちょっ、ちょ!
 全体ストップ! 防御姿勢!』

 イーディスの号令。緊急停止。

 同時、弓兵で複数射。
 錬成魔法付与。
 着弾点にタールが広がって。
 次弾。サンドラの火炎魔法付与。
 イェンナが狙撃。タールに着火する。
 炎が敵陣を両翼から包む。

「あっはははは! 祭りだ、祭りだ!
 いいぞ、祭りらしくなって来た!
 踊れ! 死ねぇ〜! ウヒャハハハ!」

 アシュリィはゲラゲラ笑っている。
 色々と大丈夫か、あいつ……
 まぁ、いいや。
 後は国軍の後ろに付く。
 残敵を適当にあしらおう。

 エンチャント遠射、どんどん行くぞー。
 これ幸いと経験値を稼ぐ。
 子供達のレベルを上げさせて貰う。

 今度は陣地の壁がある。
 盾役が要らない。
 ガイゼル達にも弓を貸そう。
 交代で使って貰う。

 俺は狙撃、っと。
 ラティオはイェンナに貸している。
 拳銃にスコープをつけて狙撃だ。
 短い銃でも良く当てる。
 ユッタが尊敬の眼差し。

 少しして、敵後方に乱れ。
 探知魔法……
 北門の味方が駆け付けた様だ。
 スコープ越しに確認。
 先頭にキャスティーナが見える。

 アシュリィが強敵に。
 つまり獲物に勘付いて、転進。
 釣られる形で敵全体が後退。
 騎兵隊が追撃。更に押し込んでいく。

 一段落……探知。
 少年兵達の姿を探す。
 探知された味方の光点を解析。
 バラけているが、居た。
 それらしい名前が見つかった。

「いやぁ、さんきゅーさんきゅー。
 超燃えた。セキヘキみたいだったよ」

 敵軍の敗走を確認。
 寄って来るイーディス様。
 いや、赤壁はもっと燃えただろうよ。

「イーディスちゃーん」
「あっ、ママ!」

 カシューさんが姿を見せ……ママ。
 そういやイーディスの母親だったか。

「……ママ、だと?」

 カシューさんの付き添い。
 ランスロットが驚愕の顔。
 物凄く戸惑っているが。
 聞かされていなかったのか。

 カシューさん、見た目若々しい。
 忘れがちだが30代後半。
 イーディスも大人びているが。
 本当はアレで10代前半だ。
 ちょっと見ると姉妹にしか見えない。

 ランスロット、俺に詰め寄って来る。
 イーディスの父親? 俺じゃないです。
 50代ぐらいのハゲ親父です。
 結婚は、していなかったと思ったが。

「全く、とんでもない奴だった」

 戻って来たキャスティーナ。
 お疲れ様です、くたびれ顔。
 アシュリィの相手をしていた様だ。

 ダメージ8割与えて後退させたのだが。
 斬っても斬られても終始笑っていて。
 敗走すら嬉しそうだったと。
 ドSでドMなんだ、あの人は。
 これまで戦った事は無かったか。

 西方から流れて来た傭兵団の頭らしい。
 赤竜傭兵団。覚えておこうか。

「よっし、はい、集合集合〜!
 戦後処理するよー♪」

 イーディス公主さん、招集。
 この人もお作法とか適当だな……

 まあ、勝利は勝利だ。
 まずは、お給金を山分けするとしよう。



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