黒鷲の旅団
7日目(6)法規とか放棄とか

『休戦の時刻となりました〜。
 みなさん速やかに帰投しましょー』

 カシューさんの広域通信魔法。
 ぽやややんとした声が響く。
 どうやら戦闘終了の様だな。

 一度サブ陣地に集合。
 助けた少年兵、奴隷兵を確認する。
 それぞれ容体は安定した様だ。

 こちらの損害……子供達は無傷。
 ステラさんチームも無事。
 隊長候補娘達も無傷で返せそうだ。
 ガイゼル隊に一部軽症ありだが。
 仲間のラーナが治癒魔法で対処。

 戻った騎兵隊側は。
 サナトスの雇った兵士が壊滅。
 相手方の神人と当たったのか。
 加えて格上。配下も精鋭だった様子。
 イーディスも救援に来てくれた。
 しかし、それまでに多数失った。

 生き残った新兵は騎兵お姉さん2人。
 ユディトとマルギットのみ。

 イェルマグ隊は全員生還。
 ノインテリアが無傷。
 騎兵ヘートヴィヒ、フレンツヒェン。
 ベアトリーセまで軽傷。
 致命傷無し。治癒魔法で完治。

 死んだ兵士と残った騎兵。
 両者の差は何か……装備?

 見ると、イェルマグ隊のお姉さん。
 装備を統一している。
 マグダレーナから全員だ。
 黒のミニスカ&ニーハイブーツ。
 趣味丸出しだが防御力も高いのか。

 しかしイェルマイン。
 よく実妹にまで、そういう恰好を。
 マグちゃんの趣味なの?
 そ、そう……

 サナトス隊からユディトとマルギット。
 イェルマグ隊に移籍となる様だ。
 騎兵を一か所に集める。
 でー、また同じの着せるのか。
 良いんだか悪いんだか。

「おっほー、全員無事じゃん!
 半分帰れば良いとか思ってたけど」

 預かった隊長候補らを返しに行って。
 公主さん、サラッと心無い事を言う。

 隊長候補生達。
 良家の子女という話だったが。
 奔放な公主様。
 貴族連中との不仲もある様だ。

 元は近衛隊候補生。
 監視役、あるいはご機嫌取り。
 実家の都合で送り込まれて来た娘達。
 不興を買ってしまったのだろう。

 しかし、率先して隊列を組もうとする。
 根は真面目そうなお姉さん達。
 見捨てるより活用してやりなさい。

「う、ぐ……お、おお、オッケ。
 なんかゴメン」

 どこら辺に対してのゴメンなのやら。
 俺に謝られてもだよ。

 ゴメンついでに聞きたい事がある。
 奴隷兵の運用についてだが。
 どういう雇用契約になっている。

 まず比較として。
 出自不明で身なりの悪い少年兵。
 最下層クラスで銅貨10枚から50枚。
 神人の表示で100から500。
 ついでに雇用期限は1日だ。

 これに対し、奴隷兵。
 雇用維持費は銅貨ゼロ枚。
 雇用期限が無制限。
 買ったら買った奴の物扱い。
 戦闘終わったら返せみたいな規定も無い。

 奴隷兵オルタンシア、エウジェニア。
 募兵官ヘイゼルに聞いて雇用者を特定。

 拾ってしまったモノだ。
 再び見捨てるのも忍びないのだが。
 後で遺恨になってもマズい。
 雇用者に話をしておきたい。

 オルタンシアの主はアルビオン。
 あいつか。怖い奴。
 気が重いが話はしなければ。
 駐留している天幕を探して面会を頼む。

「生きてたら?
 いや、それは無いでしょーよ。
 だって俺が首絞めて殺したし?
 ひゃはっ!」

 このマッドな振る舞いは地かRPか。
 事情については深く触れるまい。
 揉めて勝てる相手じゃないし。

 それで例えばだが。
 死体を貰って人体実験して構わんか。
 で、万に一つも生き返った場合。
 返さなくても良いだろうか。

「面白ぇコト言うね、君ぃ〜。
 良いよー。あげちゃう。
 屍姦でも何でもズコパコやってちょー」

 あ、ああ、うん……はい。
 ありがとう。

 買収ぐらいは検討していたのだが。
 要注意ながら気前の良い人だ?
 今は前向きに考えておく。

 何しろ……勝てないし。

 見た顔とすれ違う。
 手下フルンツベルン。不審げな顔。
 手を出して来ないなら何もしない。

 次はエウジェニアの主だ。
 ヴァルソール氏を探す。

 天幕を訪ねるとヴァルソール。
 酒を煽っていた。

 誰にも会いたくないと言う。
 が、食い下がる。
 お前さん見殺しにしただろう。
 奴隷と少年兵について。

「みっ、見捨てたんじゃねぇ!
 あ、あいつら勝手に……
 うう、チクショウ……」

 どうにも気に病んでいた様子。
 一命を取り留めたと知るや、感涙。
 是非とも会わせてくれという。

 エウジェニアとフィン。
 マグダレーナも呼ぶ。

「ああ、良かった、生きて……
 ど、どうした?」

「ご主人様、お願いがあります」

 マグダレーナ説明。
 騎兵チームにスカウトしたい。
 エウジェニア本人も希望している。

 ヴァルソールは未練がある様子。
 容姿か何かを気に入っていた。

 マグダレーナは金銭交渉の提案。
 エウジェニア、恩もあるのでと。
 最後に抱かれても良いとか言って。

 しかしヴァルソール、逆に折れた。
 決意が固いのを察したのだろう。

「うん……いいか。
 それが君の望みなのか。
 俺はもう、死なせた様なモンだ。
 子供達を守る騎兵隊。良いね。
 彼女を任せる。
 なるべく大事にしてやってくれ」



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