黒鷲の旅団
7日目(7)転戦、魔軍の足跡
「本当に、お世話になりました」
頭を下げるオルタンシア、エウジェニア。
話をつけたのは俺の好き嫌いの問題だ。
気にしないでくれ。
各方面、話が纏まった所で輜重隊へ。
もう給金待ちの列も残っていない。
俺達で最後か。
みんな待たせて悪いな。
お腹も減って……
「むふぉ!?」
「ふぉえう?」
「んむんむ、んぐっぐ!」
全員もぐもぐ中。
輜重隊で何か買った様だ。
ああ、良いんだ。
怒ったりしないから。
落ち着いて食べなさい。
グンター達は一足先に帰還。
教会で食事が待っている。
それぞれ嬉しそう。
僅かばかりの給金を握り締める。
その姿に胸が痛む。
「教官! 教官殿ー!」
隊長候補生の1人バベットさん。
教官って俺かい。
嬉しそうに何か見せに来た。
羊皮紙に……辞令?
脱見習いの昇進証明らしい。
他の候補生達も同様。
丸めた羊皮紙を掲げている。
サンドラちゃんも試験合格。
フレスさん達に認められた様子。
まだ危なっかしいけど。
と、注釈付きではあるが。
正式な魔女に昇進。
何かバッヂの様な物を貰っている。
私達はどうしたら一人前?とマリナ。
経験者はマグダレーナに聞く。
従者に対しクラスチェンジの権限がある?
本人のレベルや適性さえ充分だったら。
後は俺が認めてやればいいと。
認める……か。
まあ、傭兵だ。
戦場に出たら見習いも何も無い。
生きて帰れる様になったからな。
ぼちぼち一人前だろう。
それではユッタ、イェンナ、カリマ。
3人を銃士に認定する。
マリナとフェドラ、マルカを弓兵。
レーネとペトリナ、ティルアは弩兵。
それぞれ正規兵水準とします。
カーチャとノイエは……
レベルの方が少し足りない。
まぁ、レベルは上がっているんだ。
次の機会にしよう。
「子守殿、こちらでしたか!」
颯爽と現れたのは昼間の女騎兵。
公主様の近衛隊。
グレイスさんとジゼルさんだったか。
すっかり子守殿だな、俺。
用件は集落の調査依頼。
南方から魔王軍の侵攻があって。
敵公国軍と同時攻撃をされていた?
聖騎士ランスロットを中心に撃退。
目下、国境へ向けて追撃中だと言う。
その進路上に集落が幾つかあった。
今どうなっているか。
怪我人でも残っていたらマズいか。
輜重隊で食事と補給を済ませる。
準備が出来次第、出発しよう。
イェルマイン、サナトス達。
彼らにも別方向の調査依頼が来た。
フレスさん、ガイゼル達と別れる。
後でまた合流しましょう。
食後、フィールドへ。
いつもの雁行陣形。
活力、加速魔法を併用する。
速やかに調査対象へ向かう。
ゴブリンなど次々に倒していく子供達。
先輩役のユッタ達。
もう、当てるだけなら余裕。
俺のバースト撃ちに着想を得たのか。
新人が倒し切れない相手。
先輩ユッタ達が追撃、止めを刺す。
マルカの矢が当たる。
その後ろからフェドラの矢が刺さる。
更にその矢をマリナが狙う。
まさかの3人掛け3連継矢。
屈強なホブゴブリンでも瞬殺。
瞬く間に胴を貫通されている。
「うっお……や、やるじゃん」
目を白黒させるマルカ。
マリナはグッと、小さく拳を握った。
一見弱そうだった人間の子、マリナ。
しかしマルカは認めざるを得ない。
「ふんにゅっ! ふんっ!
ふんーぐぐぐ!」
ペトリナも奮起。
クロスボウの板バネに足を掛けている。
隣からレーネが少し手伝ってやる様で。
ギリギリギリ……がっちん。
クロスボウ装填。
もうちょっとで届きそうだった。
頑張れ頑張れ。
子供達は順調にレベルアップ。
良い傾向が続いている。
対して、良くないのは集落。
調査結果の方だ。
草原に集落1、集落2……壊滅状態。
死体も無いのは、魔獣が食ったのか。
あるいはゾンビ化して再利用したか?
食料品を見つけ……鑑定、消費期限切れ。
作物も一部は枯れている様子。
どれぐらい放置されていた?
1日2日の経過とは思えん。
首都進攻前、数日潜伏していた?
足並みを揃えていたと見るか。
森の入り口に集落3……
グリフィン在住。
魔王軍の置き土産か。
それとも野良グリフィンか。
厄介な事に2頭。ツガイだろう。
先手を打とう。
合図したら、せーのでやるぞ。
隠密魔法で近付く。
精神・陶酔・夢操魔法。
軟化魔法で弱らせる。
自分達に強化魔法。
まず1頭。首を狙う。
両手剣を振り下ろす。
ブツリ。即死に至らず。
半ばほどで止まってしまった。
目を見開くグリフィン。
マズイ、飛ばれる。一斉射。
頭に矢弾を集中させ息の根を止める。
もう1頭は空に逃れた。
そのまま逃げるかと思ったら。
反転して戻って来る様子。
伴侶を殺されて怒ったのだろう。
相手も死に物狂いだ。
全員にバフを点火。
気合を入れて迎え撃つ。
こちらは遠射主体。
リーチは届いている。
炎魔法を付与、弾幕を張る。
矢弾の雨を浴びせる。
苦し紛れに雷撃魔法を放って来た。
これは反射魔法で防ぐ。
溜まらず逃げ出すが……狙撃。
俺のラティオが頭を撃ち抜いた。
グリフィンは森の向こうに落ちて行った。
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