〜Piercing the Sky/ACfA別解 Phase2〜
「まぁた、派手に壊しやがって」
不機嫌そうな年寄りの声が、ガレージに響き渡る。
ガレージ内にACは1機。俺の機体だ。
少し前の戦闘でボロボロになった。
今、年老いた技術者が、若い手下どもを先導、修理している。
「多勢に無勢だったんだから、仕方無ぇだろ。
手足がついてるだけ、マシと思えよ」
「よく言うぜ。
どこぞの女にウツツを抜かして、腕が鈍ったんじゃねぇか?
美人だったら紹介しろよ? へっへへへ」
「こきやがるぜ。このエロジジィめ。
残念ながら、ここ最近じゃ、浮かれた話なんかサッパリだ」
「そうかい? まぁ、どっちでもいいが。
やっぱアレか? 適正だけあっても、ヘタクソはヘタクソか。
真面目にシミュレータやってっかぁ?
訓練サボって実戦でくたばったんじゃ、遅ぇんだからなぁ?」
と、よく喋る爺さんだ。
何十年と技術屋やってるメカニックジジィ。
ACの修理なんて、目をつぶっても出来るってか?
俺がフリーの傭兵なら、爺さんはフリーのエンジニア。
昔はアスピナ機関だかに居たらしいが、詳しくは知らん。
今は、企業に所属せず。
使われるのが嫌になったんだっけ?
で、専ら自分の生き甲斐として、メカを相手に仕事をしている。
ACの修理をするだけじゃない。
パーツの自作もやってる。
武器を開発して、それを傭兵に流している。
ここ、爺さんの仕事場は、結構ラインアークの近所だ。
知ってるだろ? 来る者は拒まない海上都市。
自由と民主主義のラインアーク。
周辺には、企業内部の競争に負けて……
それでもAC開発に関わりたい連中、なんかも集まって来る。
爺さんの手下も、そういう奴らだ。
それはそうと、爺さんと俺の世間話は続く。
「浮いた話って言えば、お前。
クーガーのお嬢さんとは、どうなった?
確か宇宙に行くんだろ?」
何だ、噂になってるのか?
クーガーのお嬢さんってのは、アレだ。
いつぞやの、クーガー所属。新型VOBの開発者。
宇宙へ出たいとか言ってた、あの女の事だ。
あの新型VOBの依頼から、かれこれ一週間か。
「あの話なら断った」
「何で」
「何でって……出会った矢先に、無理心中のお誘いだぜ?
普通は断るだろ」
「勿体無ぇなぁー。
お前も男なら女の為に、カッコよく死に花咲かせて来いよ」
「ロマンに命を賭ける趣味は無いね」
「いい乳してんだろ? ああー、勿体無ぇ」
「死んだら巨乳もヘッタクレも無ぇだろ」
「へっ。とんだチキン野郎だぜ」
「なぁに言ってやがる。
傭兵は、チキンなぐらいでいーんだよ。
客が死に急いで減ってったら、爺さんが困るだけだぜ?」
「ははっ! そいつは違ぇ無ぇ」
爺さんは苦笑い。
そう、俺は夢を見ない。
俺はごく平凡な、粗製のリンクスだ。
カラード。傭兵管理機構だっけ?
アレの上位とは、違う。
具体的には……そうだな。
例えばオッツダルヴァの様な、際立った技術も無い。
ジェラルド・ジェンドリンの様な上昇志向も無い。
ウィン・D・ファンションみたいな矜持も無い。
俺はそんな、ただのリンクスだ。
日々を生きる為、それだけの為に戦っている。
まぁ、断った理由はそれだけじゃないか。
あの女の、人柄の問題だ。
強引な女は、ある意味、頼もしい。
根性のある女。これもまぁ、嫌いじゃない。
が、強引で、しかもシツコイ女。
ここまで来ると、ちょっと面倒だ。
そんな女とウッカリ付き合ってみろ。
クイックブーストみたいにブン回されるぞ?
平凡な俺じゃ、身が持たねぇよ。
……と、通信だ。
俺はACのコクピットに入り込んで、呼び出しに応じる。
「あー、もしもーし?」
『良かった! 繋がった!』
噂をすれば何とやら。
クーガーの技術屋、例のメガネ女だ。
「また、お前か。
宇宙なら行かないって、もう何度も」
そう、何度も。
何度も何度もお断り申し上げている。
にも拘らず、こいつは通信してくる。
だが、そんな俺の生返事を遮って。
メガネ女の緊迫した声が響いた。
『お願い、助けて!
今、アルゼブラの新型に襲われてて、もう護衛がヤバイって』
……何だ、依頼か?
「報酬はどうする。あと、敵戦力は?
依頼なら依頼で、事前情報なり何なり」
『いいから、すぐ来て!
位置座標を送るわ』
ったく、聞きやしねぇ。
企業相手に、こっちはフリーの傭兵だぜ?
専属のそれとは違う。
口約束で企業の依頼に出たりすると、後が怖い。
『そんな契約してませーん』
『証拠がありませーん』
と、まぁ、ちょっと極端な例えだが。
そんな風に、後で報酬を渋られたりす事もあるる。
俺自身、何度も痛い目に遭ってる。
相手が下層市民なのをいい事に、な。
企業のお偉いさんってのは……
まぁ、俺の感情はともかくとして。
緊急でも、せめてカラードを通せって話だ。
あんなんでも管理機構。
それが間に入れば、後で便宜を図ってくれる。
ってワケで、
「おい、聞いてんのか?
依頼を出すってのには、取るべき手順があってだな」
とか言ってると、爺さんが口を挟んで来やがった。
「行ってやりゃ、いいじゃねぇか。
困ってんだろ?」
「うるせーよ。
そんなに助けたきゃ、自分で」
と、振り返って……俺は思わず口をつぐんだ。
技術屋どもの、やたら険しい目線。
俺の通信先が女。
妬みみたいなモノを感じる。
で、しかも同じ技術屋だ。
同業者を軽んじるなって?
仲間意識だかフェミニズムだか知らないが、面倒臭ぇこって。
ま、仕方無ぇ。
こいつらに修理を渋られても困る。
見捨てても後味が悪い。そいつも確かだ。
しかし、だから行くかっつーと……
情報だけ聞いて、こっちで取り次いでやるのも手だ、な。
「あー、それで?
敵は分かるか?」
『てっ、敵は、えーと……
四脚の、逆間接タイプ!』
「はぁ? フザケてんのか?
4脚か。それとも逆間接か。
2機居るんなら、2機居るで」
『だっ、だから、4脚だけど逆関節なんだってば!
足が4本あって、その足が逆間接でー!』
何じゃ、そりゃ。
ACの足つったら、逆間接なら2本足。
4本足なら普通の間接だ。
それが……何? 逆間接で4本足だと?
「何だよ、聞いた事無ぇぞ?」
『私も初めて見たわ』
技術屋も知らない? 何かの実験機か?
『うひっ!』
通話の向こうで、メガネ女の変な声。
と、何だ? 銃声と爆発音。
敵が迫っているらしい。
「あ、あー……分かった。
応援を寄越してやるから、もう少し持ち堪えろ」
『え? あ、えーと……
うわ、ちょ、マズイって!
きゃああああっ!!』
「おっ、おい! どうした!」
突然の悲鳴、そして通信途絶。
こりゃ緊急事態だ。
「何だ? ヤベェのか?」
異変を察して、爺さん達も寄って来た。
俺はメガネ女に返答を求めるが、
「クソッ、切れやがった。
場所は……」
俺はコクピット端末で、送られて来た位置座標を確認する。
と、結構、近くだ。
カラードの傭兵を呼ぶより、俺が行った方が早い。
「爺さん、修理は」
「ああ? ちょっと待ってな。
おおーい! あとどれくらいだぁー!?」
爺さんが作業中の奴らに呼びかける。
と、少しして返事が返って来る。
「右腕がまだでーす!」
「片方あれば十分だ。
後は何とかする」
「ほほぉー? 頑張るじゃねぇか。
惚れたの女の為ならば、ってか?
男だねぇー」
「そんなんじゃねぇ!
あれだけシツコイ女だ。死んだら今度は化けて出るぜ。
俺は、オバケって奴が嫌いでね」
「へっへへ。まぁ、何でもいいが、よ……
作業中止だ! 出るぞぉー!」
爺さんが作業員達を引っ込める。
連中が慌しく散っていくのを横目に、俺はコクピットに座る。
そのハッチを閉じる。
メインシステム起動。
残弾数、装甲状況、確認。
バックブースター、フルスロットル。
上昇。高度200……300……
オーバード・ブースト、点火。
一息に時速2000km超。
虚空を貫いて、ACが飛ぶ。