〜Piercing the Sky/ACfA別解 Phase5〜


「はははっ!
 そいつは災難だったな」

「笑い事かよ。
 あと一歩で死ぬトコだったんだぜ?」

 薄暗いバーで飲みながら、俺は隣の客に愚痴を言う。

 隣で飲んでいるのは、ロイ・ザーランド。独立傭兵。
 AC名は【マイブリス】。奴も顔見知りの1人。

 付き合いは数年。人の寿命で言えば、そう長くも無い。
 が、そもそもリンクス。汚染や何かで稼働期間、寿命が短いからな。
 その中で言えば、長い付き合いと言えなくも無い。

「まぁ、この時勢だ。
 企業より女の為に死ぬ方が、まだカッコイイかも知れないぜ?」

「どうだかね……
 あんたも、ご執心のウィン・Dにゃ、軽くあしらわれてんだろ?
 冷たくされても、まだ尽くすってか?
 メンドクセェこった」

「あれはまぁ、立派な女だぞ?
 誰かの為に命を張る。なかなか出来ない事だぜ?
 お前も、少しはさ。
 誰かと真剣に、付き合うなりしてみたらどうだ?」

「ウィン・Dがご立派なのは、俺にも分かるが、ね。
 女リンクスなんて、大概ロクなモンじゃ無いだろう。
 アルゼブラの蜘蛛女、シャミアなんて酷いモンだぜ?」

「あー……アレはなぁ……
 でもお前、ウォルコット嬢は?
 いい仲だったんじゃないか?」

「幾ら何でも、お高過ぎて手が出ねぇだろ」

「それでも向こうさんは、気に掛けてたみたいだが、な。
 相性は悪くないんじゃないか、とは思うが」

「“協働する相手としての相性”だろ?
 男女の相性とか、付き合うって話じゃねぇ。
 俺はただ、自分の仕事をしただけさ」

「機体の相性だけじゃない。中身だってそうだ。
 そうそう裏切らない、とか。
 安心して組める奴なんて、なかなか居ない。
 誰だって気には掛けるだろう。
 現に俺だって、こうして声を掛けたりしてる」

「そりゃあ……な。
 俺だって、リリウム自身には気兼ねなんて無い。
 が、王小龍。あの胡散臭い爺さんが、漏れなくついて来るのは頂けねぇ。
 下手に深く関わったら、“また”体よく弾除けにされるのがオチさ」

「……まだ、夢を見るのか?」

「AMSに焼き付いて、離れねぇよ。
 薄ら笑いと、悲鳴、死に様」

「もう、リンクスなんて辞めたらどうだ。
 過去の亡霊に悩まされながら、それでも続ける理由。
 そんな物、お前さんには無いんだろう?」

「他に出来る事がありゃあ、な。
 とっくにそうしているさ。
 あんただって……」

「まあ、そうかもな」

 ……と、男2人で感傷に浸っていると、

「見つけた!
 今度こそ逃がさないんだから!」

 静けさを破って駆け込んで来た、件のメガネ女。

 他の客、屈強な男達に睨まれる。
 が、そんなモン、どこ吹く風だ。
 奴は一直線にツカツカと歩いて来て、俺に詰め寄った。

「今日こそは、どうしてダメか聞かせて貰うわよ!」

「だあーっから、理由は言っただろ!
 ダメなモンはダメだ!」

「もっと、ちゃんとした理由を言ってよ!
 あんな場当たり的なのじゃなくて」

「他に無いんだから仕方ないだろ!?」
「あんなので納得すると思ってるの!?」

 と、口論になる2人。
 口を挟むのはロイだ。

「確か、宇宙に行くとかって?」
「「その話じゃないッ!」」

 思わず声が揃っちまった。

 ロイがキョトンとして、メガネ女が説明する。

「宇宙まで行くVOBとか、実験は頼むけど……
 本番は、もっと腕のいいリンクスにお願いする。
 そういう条件で、実験だけでも協力してくれる約束なの。
 私だって、その……命の恩人? に、無茶はさせたくないし」

「じゃあ一体、何をモメているんだ?」

 首を傾げるロイ。
 俺とメガネ女の、口喧嘩の原因だが、

「この間、助けて貰った。
 だから修理のついでに、機体を改造してあげたのよ」

「こいつ勝手に、余計な……
 俺の機体のスタビライザーを、パージ出来る様にしやがって」

「……あ? 何だって?」

 ロイの顔が、
 更に不思議そうになる。

 戦闘中にACが、スタビライザーをパージ。
 現行のAC規格じゃ前代未聞だ。

「だって、スタビライザーでしょ?
 安定装置。バランスを取る為の物よ。
 弾切れで捨てる銃と一緒に、反対側のスタビライザーが外れるの。
 装備が変わっても、バランスが取れれるでしょう?
 これ便利じゃない?」

「ん、まぁ……聞く限りじゃ、結構な事なんじゃないか?」

 と、肩をすくめて言うロイだが、俺は怒鳴る。

「阿呆! だからって、ツノまで取る事ぁ無ぇだろ!」
「何がツノよ。アホじゃないの?」
「ACでツノったら、男のロマンだッ!」
「いや、意味わかんないし!」

「機能美と形式美!
 両方を兼ね備えてこそ、最高のアセンブルってモンだろうが!」

「うっぐ……それは……
 で、でも、モノには順序って物があるでしょ?
 カッコつけて死んだら、何にもならないわよ!」

「そ、そりゃあ……まぁ、そうだけどよ……」

 口ごもる、俺とメガネ女。

 詰まる所、お互い認める所は認めてんだ。
 相手の理屈も分かる。

 が、どうにも感情的になる。
 素直になれない。

 別に、ケンカしようとか、憎んでるとか。
 そういうんじゃないんだがな……

 と、そんな俺達に助け舟を出すロイ・ザーランド。
 奴は提案する。

「じゃあ、外すのと外さないの。
 分けとけば、いいんじゃないか?」

「「それだッ!」」

 また揃った……

 特別気が合うってつもりも無い。
 なのに間合いが似ていて、どうも遣り難い。

 向こうも幾らか、そう思ってんだろう。
 メガネ女は1つ咳払いをして、話を続けた。

「じゃあ、その……ツノさえ取らなきゃいいワケね?」

「コアの後ろ、上下に伸びてる長い奴もだ。
 俺は後進を重視してる。
 重心は後ろに寄った方がいい」

「分かったわ。
 あと、他に注文なんてある?」

「長射程と近接戦闘の両立。
 この辺が、もっと楽に出来りゃあ……なんて」

「FCSを2種類積んで、切り替えるっのて、どう?
 大した重さじゃないし」

 ぶっちゃけ無茶だと思ったし、言ってみただけなんだ。
 が、どうやら実現する気らしい。

「……そんな事、出来るのか?」

「やってみる。
  コクピット、ちょっと狭くなるかも知れないけど」

「基本、先に長射程で、後から近接だ。
 最後は近接のだけ残ればいい。
 後で要らなくなる方は、いっそパージしちまうとか……」

「スタビライザー外すんだから、そっちに仕込んじゃうとか。
 外付けにして……おあぁ、ちょっと失礼っ!」

 話している途中で、連絡が来たらしい。

 通信装置を片手に、メガネ女は俺達から離れた。
 壁の方に寄った。

 内密な話をするべき、話し相手。
 企業本社からか?

 それにしても、やっぱり変な女だぜ。
 俺は肩をすくめて、ロイに言う。

「ったく、天才なんだか、アホなんだか」

「無茶苦茶な傭兵に、無茶苦茶な技術屋。
 結構、いいカップルなんじゃないか?」

「誰がカップルだ!
 そんなんじゃねぇ!」

「ま、何でもいいさ。
 AC乗りでも技術屋でも、信頼できる仲間ってのは、いいモンだ。
 大事にしてやるといい」

 ロイ・ザーランド。
 浮かれた様な口を利いたと思ったら、これ。
 同じ顔して、こういうクソ真面目な事まで言いやがる。

 殊勝なのか、とぼけてんのか。
 本当の顔はどっちなのか。
 あるいは両面を合わせてロイ・ザーランドなのか?

 だがまぁ、とぼけたロイ・ザーランド。
 時には神妙な顔だってする。
 そういう風な顔で、俺に言った。

「しかし、お前がGAに寄る、か。
 俺はインテリオル寄りだ。
 次に会う時は敵同士かな」

「寄ったつもりは無いんだがな。
 よしんば撃ち合うんでも、コアは外してやるぜ。
 外せたら、な」

「ははっ、その時は頼むぜ?
 俺も、外せたら外してやるから」

「外せたら、だろ?」

 ……と、そんな折り。バーの中・
 別の席でニュースを見ていた連中が、不意に声を上げた。

「マザーウィルが落ちたぁ!?
 オーメルか? 誰がやった!」

「確か、あのエンブレム。例の若造だ。
 引退したシリエジオのリンクスから、指導を受けたとかいう」

「ああ、あいつなぁ。
 口数は少ないが、結構やるって話だ」

 只ならぬ状況。俺とロイもニュースを見る。

 どうやら、オーメル・サイエンスの作戦。
 GA側、BFFのアームズフォートが、陥落させられたらしい。

 AF、名前は【スピリット・オブ・マザーウィル】。
 拠点型の馬鹿でかい奴。

 企業は大きく分けて、3つのグループに分けられる。
 GA、オーメル、インテリオル。

 で、どれも基本、お互いに仲が悪い。

 オーメルとGAが戦って、GAが負けた。弱った。
 と、なりゃあ……

 ここぞとばかりに、インテリオル。
 弱ったGAを狙ってくるか?

 ……と、なりゃあ?
 俺はメガネ女を振り返る。

 奴は恐らく、企業の誰かと連絡を取っていて・
 その通話を切り上げるなり、俺に言って来やがった。

「アルゼブラのアームズフォート、がGAの領域に向かってるって。
 機種は【カブラカン】。
 足止めしたいけど、手の空いてるリンクスが足りなくて」

 結局こうなるのかよ!

「ああー、分かった分かった。
 俺が行きゃあいいんだろ、行きゃあ」

 俺は席を立つ。
 と、ロイと目が合った。

「行くのか?」

「スタビライザーは必要だ。ACにも、企業連にも。
 世間が一企業の占有になっちまったら、今より暮らし難いと思うぜ」

「お前は社会派だなぁ。
 ちょっと尊敬するよ」

「別に、そんなんじゃねぇ。
 依頼が無くなったら困るってだけさ」

 俺は表に出る。
 愛機のコクピットに駆け込んで、ハッチを閉じる。

 相手はアームズフォート。
 それも、この前みたいな旧式じゃない。
 新鋭、企業の主力……

 ちとヤバイが、ただの足止めだろ?
 本当にヤバくなったら、トンズラするだけ。

 逃げる暇があって、トンズラ出来るなら、の話だが。

 何しろ、カブラカン。新鋭だ。
 情報が少ない。
 どんな隠し玉があるやら。


 ……考えるだけ無駄だな。

 なる様にしかならない。
 やるだけやってみるさ。

 自機、オーバード・ブースト、起動。
 俺は作戦領域に急行する。


 さあ、ちょっとした悪夢の始まりだ。




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