〜Piercing the Sky/ACfA別解 Phase9〜


「あー、寒い、寒い。
 とっとと帰って一杯やりたいぜ」

 コクピットの中、俺はボヤいた。

 目の前に広がるのは、
 ビル街と、真っ白い大地。

 今度の依頼主は、いつものGA。

 作戦地域は、PA‐N51。
 アルゼブラの支配する、
 新資源プラントがある寒冷地帯だ。

 砂漠から一転して、雪ん中。

 ネクストAC乗り、AMSの適正は、
 寒暖の変化への適正とは違う。

 多少は強化されちゃ居るが、
 こう気温変化が激しいと、
 正直言ってシンドイ。

 が、まぁ、俺だって傭兵だ。
 金の為なら我慢もしよう。

 さて、今回は協働相手がいる。

 というか、俺が協力する立場、だ。
 企業から依頼を受けたのは、相方の方。

 普段GAの依頼を受けない奴なんだが、
 何を思ったか参加を申し出て来た。

 その協働相手は、噂の新進気鋭。
 方々でAFを潰して回っている、
 例の若いリンクスだ。


『分かっているな?
 今回の作戦は、制限時間つき。

 それから、協働相手だが……

 もし邪魔な様なら、
 殺してしまって構わんぞ?
 憂いを断つなら早い方がいい』


 協働相手のオペレーターが言う。

 かつてACシリエジオを駆り、名を馳せた、
 引退した、元リンクス。

 奴め、サドっ気でも持ってるんだろう。
 昔から何かと、怖がらせる様な口を利く。

 そう、昔。

 何年も前、奴が引退する以前、
 数える程の回数、協働した事がある。

「相変らず容赦無ぇな。
 オーメルについたんじゃあ、
 なかったのか?」

『敵に回すと厄介だという事も、
 一度知らしめておいた方が、
 いいと思って、な』

 なるほど。

 今回の敵はアルゼブラ。
 オーメル側だ。

 そのアルゼブラをボッコボコにして、
 オーメルの連中も一緒に、
 ビビらせてやろうって腹だな。

 一生懸命、囲っておかないと裏切るぞ。
 裏切ったら怖いんだぞって、な。

 そうまでするって事は、何だ?
 何か不満が? 待遇でも悪かったかね。

 まぁ、その辺は、
 俺の知ったこっちゃ無い。

 俺にとっての問題は、
 協働相手から、後ろから撃たれるのか、
 それとも撃たれないか、だ。


「相棒さんよ、
 後ろから撃ったりしないでくれよ?

 それとも報酬が大事か?
 俺を殺して、報酬全額丸儲け、なんてな」


『関係無い』

 と、返って来たのは、
 低く中性的な声だった。

 声変わり中の少年か、
 陰気でテノールな声を持った、大人の男。
 あるいはハスキーボイスの女なのか。

 とにかく、あの声だけでは、
 性別が分からん。

 ヤツの素顔を見た者は、まだ居ない。
 情報が少ない。

 ACを降りた所で狙われない様に、
 シリエジオが上手く、
 隠蔽しているんだろう。

「関係無くは無ぇだろう。
 こっちは命が掛かってる」

『邪魔をされなければ、
 どうでもいい』

 奴は先行した。
 オーバード・ブーストで、
 霧の中を突っ切っていく。

 自分が撃たれなきゃ、
 わざわざ撃つ気も無いってトコか。
 そりゃ結構。

「そういや、シリエジオの姐さんよ。
 ああいう声のが好みだったっけ?
 付き合ってたりすんのか?」

『か、関係無い!』
「さいで」

『関係無いと言っているだろう!』
「へーいへい」

 どうやらシリエジオ、指導相手について、
 煽られると動揺する程度には、
 気に入っているらしい。

 まぁ、なぁ……

“あの”シリエジオが、
 弟子を取るってだけでも珍しい。

 よしんば取っても、
 ああやって厳しい性格だから、
 リンクスになる前に挫折するのがオチだ。

 厳しい試練に耐えた、
 愛弟子ってワケだろう。

 師弟愛だか何だか、
 それなりに愛情が無い事も……

 まてよ?

 弟子の方、性別がハッキリしていない。
 女で、しかも付き合ってたりなんか?

 姐さん、まさか、
 そっちの気に目覚めたんじゃ!?

 ……いや、まさかな。

 やっぱり弟子は男なんだろう、多分。
 そう思っておく事にする。


『ま、まったく!
 何を言い出すんだ、貴様。

 粗製の分際で、
 おかしな事を言いやがって。

 覚えていろよ?
 いつかオーダーマッチで、
 機体を穴だらけにしてやる』


 おおっとぉ?
 イキナリ根に持たれたぜ。
 あれぐらいの冗談で。

 ああ怖い、怖い。
 だぁっから、女リンクスなんてのは。

 ……まぁ、いいや。

 現役時代ならともかく、
 今はオペレーターだ。
 弾撃って来るワケでなし。

 今は作戦、作戦、だ。

 シリエジオの弟子は左方面へ。
 なら俺は、邪魔にならない様に、
 右方面へ向かう。

『粗製とか言われて、悔しくない?』

 と、今度は、
 こっちのオペレーターが言う。

 俺のオペレーターは、いつものアレ。
 クーガーのメガネ女だ。

 本当はオペレーター、
 GAから借りても良かったんだが。

 しかし、今回もまた、
 お試し品の使用が義務付けられている俺。

 そして、データ収集の為にって、
 ついて来るアレ、だ。

「評価なんざ、どーでもいい」
『でも……』

「本当の事なんだから、
 仕方ないだろ?
 俺の適正自体は高くない」

 言いながら、接敵だ。

 ロックオン。
 試作兵器を構える。

 今度の武器は一体型の、
 レーザーブレード……ライフル。

 ああ、そうだ。
 ブレードとライフルがくっついている。

 こいつが両手に、計2丁。
 いや2本? 数え方も怪しいが。

 とにかくコレ1つ1つで、
 撃ったり斬ったり出来るって寸法だ。

 それはそうと、接敵。

 敵はバーラット部隊。
 軽量で機動力のあるノーマル部隊だ。

 今回の依頼、
 資源プラント施設のみならず、
 護衛のこいつらも撃破対象らしい。

 周囲は霧だ。視界が悪い。

 見つけた奴から潰していかないと。
 後で探し直すなんて、手間だぜ。

 自機はライフル形態で掃射しつつ、接近。

 間合いに入れる手前で、
 武器を変形。ブレード形態。

 正面2機、
 クイックブーストで間をすり抜けながら、
 1機に1振りずつで寸断する。

 相手は軽量ノーマル。鎧袖一触。
 ブレードの出力としては悪くない。

 長さはチョイ物足りない感じだが、
 その分、銃がついてる、か。

 次。右に2機。
 すぐに武器をライフル形態にして、掃射。

 と、んん?
 何かおかしい。

 自機の射撃に違和感を持った俺は、
 メガネ女に通信を取る。


「おい、ブレード使った後、
 照準が軽く狂ったぞ。

 振り回すと、
 衝撃で壊れるのか?」


『ありゃま。
 調整が甘かったかなー。

 強度を上げるとか、
 何か工夫しないと』


「おぉいおい。
 しっかりしといてくれよ」

 とか言っている間に、次の敵が迫る。
 慌ててライフルを掃射。

 敵の機動性もあって、
 イマイチ直撃しないが、
 それでも嫌がって避けていく。

 まぁ、弾が出るだけ、
 便利は便利か。

「いっそ照準は捨てて、
 弾幕に使う、か」

『マシンガンにした方がいいって事?
 でも、あんま複雑な機構を組み込むと、
 かえって壊れ易いし』

「まぁな。
 射程が短いのも考えモンだ」

『帰っ……ら、一度……て……』
「どうした?」

 急に通信が不安定になった。
 濃い霧のせいか?

 それとも、
 ECM装置でもバラ撒かれたか。

 作戦開始時よりも、天候が悪化している。
 悪い視界が、更に悪い。

『ネ……トだと? 情報……』
『大アル……ラに……』

 シリエジオの声と一緒に、
 友軍じゃない男の声が聞こえた。

 察するに、
 敵ネクストが出て来たらしい。

 事前情報じゃあ、
 ノーマルだけだって話だったが。

 あの若造を始末する為に、
 誰か、嘘でも教えたか?

 GA側にも腹黒い奴が居るらしい。
 王小龍あたりの入れ知恵か?

 敵は逆間接、軽量の白い機体。
 イルビス・オーンスタイン。

 AC名【マロース】。
 カラードのランクは14。

 かつてバーラット部隊を率いた、
 名のある実力者だ。

 ……厄介な。

 凄腕の相棒さんは知らないが、
 粗製の俺から見れば、
 ちょいと胃がモタれる相手だ

 その相棒は、既にマロースと交戦。
 だったら、このまま任せるか。

 俺はノーマルを片付けつつ、
 残りの資源プラント施設を狙う。

 バーラット部隊の、
 苛烈で執拗な銃撃を掻い潜りつつ、
 自機は強行気味に、前進続行。

 施設に取り付いて、
 アサルトアーマー起動。
 護衛と施設を纏めて粉砕する。

 資源プラント、残り1つ。

 ……チッ! 気付かれたか。
 マロースがこっちに向かって来る。

 敵の得物は、
 手にはマシンガンとライフル。
 肩越しにもグレネードとミサイル。

 まったくもって攻撃的だ。

 対して、こっちの装備は、
 先のブレードライフルが2つと、
 レーダー2つ。

 レーダー2つ。
 こいつは、たまたま、だ。

 両手にブレードライフルがあるんで、
 もう武器は要らんだろうと、積んで来た。
 重量のバランス調整も兼ねてな。

 ま、そのお陰でECMには強い。
 ロックオンにこそ問題無いんだが…

 …クソッ!
 ライフルの照準がおかしい!

 正面に捕らえた所で、
 上手く直撃しない。

 ミサイルの弾幕をかわし、
 ブレードで狙う。

 が、距離を詰めるや、
 マシンガンの掃射がお出迎えだ。
 思うように接近できない。

 こいつはマズイ。
 火力は機動性で凌げるにしても、
 被弾率で押し負けるか?

 と、敵の向こうから、
 スナイパーキャノンの砲撃。

 ありゃあ、相方か。

 マロースはバックブースターを壊されて、
 自機の手前に、つんのめって倒れた。

 リンクスは気を失ったのか、
 動いてくる気配は無い。

 そいつを軽く飛び越えて、相方が来る。

 向こうもオペレーターと繋がらないのか、
 俺との近距離通信を試みる。

『生きてるか?
 そこの……黒い奴』

「ああ、お蔭様で、な。
 どうした?」

『レーダーをやられた。
 敵の位置を知りたい』


「残りのプラントなら、
 お前の左前方、60度。
 残り一箇所ってトコだが。

 この状況だ。
 撤退した方が良くないか?」


『依頼を失敗したくない』


「離脱も考えりゃあ、
 タイムオーバーだろう。

 忘れたか? 制限時間つき。
 グズグズしてると増援も来る。

 こう事前情報がグダグダじゃあ、
 他にも何が居るか分からんし……

 そもそもネクストが居るなんてのが、
 向こうさんの手落ちだ。
 大して評価も下らんだろう」


『評価なんて関係無い』
「何だってそう、意地を張る」

『強く、なりたいんだ』

 ほほう?

 口数は少ないが、根性はある。
 それに、意外と熱い奴らしい。

 突っ込ませて死なすのは簡単だが、
 それも勿体無いか、な。


「意地張って、くたばったら、
 何にもならねぇだろうが。

 引き際を見極めるってのも、
 実力の内だぜ?

 事前情報の間違いは、
 お前の失敗じゃねぇんだし……

 何なら、シリエジオには、
 俺の不調を庇った事にしてもいい。

 とにかく、ここは出直せ」


『……分かった』

 相方は渋々ながら、了承。
 僚機共々、撤退する。

 PA−N51、新資源プラント。
 まぁ、いつかまた、機会はあるさ。


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