〜Piercing the Sky/ACfA別解 Phase10〜
「この間は、うちのが世話になったな」
いつものラインアーク近傍、
薄暗いバーの中。
声をかけたのはシリエジオの姉御。
シリエジオは、ネクストの名前だ。
が、大した違いじゃない。
何しろ、リンクスだ。
戦場に出ている姿こそ己の姿であり、
AMSで繋いだACは、
まさに自分の身体。
協働者として期待するのは、
ACとしての働きであり、
中身がどうとかいう話じゃない。
だから、リンクスではなく、
ACの方の名前を呼ぶ。
そういう奴も少なくない。
一応、リンクスの方、
現役当時の登録名だって、
聞いた事ぐらいはある。
が、リンクスの登録名は、大体が偽名。
引退した今、それを呼ぶのは妥当かどうか。
そんなシリエジオだが、
外見的にはまだ、若々しい。
身体強化・延命措置なんて、
今じゃ当たり前の世の中だ。
まぁ、それでも中身は大ベテラン。
少なくとも、俺以上の、な。
俺は酒を一口煽り、
返事を返した。
「まぁ、姐御には、
俺も世話になったからな。
お互い様だ。
しかし、何だ。
未来ある若者を、
老人達が罠に掛けて殺す、か。
何とも寒い時代だぜ」
「さて、どうだかな……
どっちが消され掛けたんだか。
貴様こそ、リリウム・ウォルコット辺りに、
ちょっかいを出したのが、
王小龍の気に触ったんじゃないか?」
俺が2杯目を口にしかけた所で、
思いがけない切り返し。
俺は思わず吹いた。
「ゴフッ! どこ情報だよ、それ。
手なんか出してねぇ。
手ェ出して出せる相手かよ!」
「ほほう?
その割には慌てているな。
ああいう声で興奮するのか?
この、変態が」
いやに絡みやがる。
この間からかった仕返しか?
「あのなぁ……そもそも、王小龍。
あいつがそんな玉か?
大事な後取り娘、
寄り付く男にゃ容赦無し?
それじゃ親バカっつーか、
爺バカっつーか」
「大事なメアリー・シェリーが死んで以来、
どこか頭がおかしくなった。
……という事も、あるんじゃないか?
まぁ、噂程度の話だが」
「どうだかね」
意見の相違。
俺は、うちの子は悪くない。
そんな相違だ。
何だかナァ……
しかしまぁ、
1つ共通の見解として。
前回の依頼、事前情報の不備。
王小龍が情報操作に一役買ったと見て、
間違いないだろう。
どっちが消されるか……
ま、自己防衛だ。
やる事は大して変わらん。
王小龍が要注意人物なのは、前からだ。
ずうっと前から、な。
俺はまた酒を煽り、
煽った所で目についた。
古い映像装置、ニュースの映像の中、
シリエジオの弟子の機体が飛んでいる。
…まぁ、何時間とか前の映像だな。
奴の専属オペレーター、
シリエジオの姉御がここに居るんだ。
仕事はとっくに終わっている。
で、姉御の顔色に曇りは無い。
って事は、結果はもう、
分かった様なモンだ。
奴の仕事の場所は、メガリス。
ラインアークの循環型電源施設だ。
この間の依頼で失敗した、
オーメルの連中をビビらせてやる、
って話の、延長だろう。
ラインアークは企業連と対立している。
そこを守って見せる。
企業の恐怖を煽る。
敵に回すとロクでも無ぇぞ、ってな。
そしてシリエジオの弟子は、
また1つアームズフォートを落とした。
今度は【イクリプス】だ。
インテリオルとトーラスが共同開発した、
飛行型のアームズフォート。
高高度からレーザーで狙ってくる、
結構厄介な奴なんだが、
まぁ、相手が悪かったな。
遠距離からスナイパーキャノン、
近距離では2丁のライフルから、銃弾の嵐。
あっさり撃墜だ。
空中戦も難なくこなす、か。
まだまだ荒削りだが、
オッツダルヴァ以来の天才かも知れん。
そして、これでまた、
名前が売れる。
強力な手駒として重宝される一方、
危険分子として命を狙われる。
姐御は席を立つ。
休憩は終わりだ。
命を狙われている弟子の為に、
訓練なり調整なりアドバイスなり、
してやる事は多いだろう。
と、姐御は振り返って、一言。
気になる話を置いて行く。
「世話になったついでに、
1つ教えてやる。
クローズ・プランに気をつけろ」
「クローズ……何だって?」
「私にもまだ、
詳しい事は分からん。
だが、オーメルの中で、
何か悪巧みをしている奴らが居る」
「悪巧み、ねぇ」
詳しい事は分からん、だと?
それでも『気をつけろ』?
不確定な情報だぜ。
俺が姐御で姐御が情報屋なら、
とっくに張り倒して居る、
そんな展開じゃないか?
口には出さないが、
何か確信があるんじゃないだろうか。
姉御は何かを掴んでいる……
いや、あるいは、
そのクローズ何とかに、
既に深く関わってるってのか?
分からん。
考えたって、
分からん物は分からん。
だが、“あのシリエジオ”が、
気をつけろって言うだけの話だ。
何かヤバイ話じゃないのか?
姉御を追いかけて、
もう少し聞いてみようとも思った。
だが、姉御の後姿と入れ替わりに、
入って来たのは、いつものメガネ女。
奴は嬉しそうな顔で、
息を切らせて走ってくる。
手には何かの図面を抱えていた。
「ねぇ、聞いて聞いて!
上下方向のクイックブーストを、
考案してみたんだけど……
今、二通りあって、ね?
肩につけるか背中につけるかって。
肩につけた方が、
前後にブレないんだけど……
貴方とかって、
動きながらブースト使うでしょ?
実戦だと、
どっちの方がいいのかなって。
……聞いてる?
どうかした?」
ったく、お気楽だぜ。
とんだ能天気だ。
先の事を心配している自分が、
どこかアホらしく思えてくる。
「いいや、何でも。
実験だろ?
とっとと始めようぜ」
俺はメガネ女に、
苦笑いと一緒に返事を返す。
俺はリンクス、傭兵だ。
明日も知れぬわが身、って奴だ。
先の事を考えても仕方が無い。
やる事は変わらんさ。
何が起きようが、何も変わらん。
何も変わらんと、
俺はそう思っていた。
そう、まだ、この時点では。