〜Piercing the Sky/ACfA別解 Phase11〜


 そいつは、急な依頼だった。

 依頼主は企業連。
 ランク1、オッツダルヴァとの協働依頼だ。

 企業連の作戦で、
 ラインアークの主力ネクスト、
【ホワイトグリント】を撃破する。

 で、当初の予定では、2対1。
 俺は予定の外だった。

 ランク1の【ステイシス】と、
 ランク17の【フラジール】のコンビ。
 勝利は確実と思われていたが……

 しかし、作戦開始直前、
 状況が大きく変わった。

 ラインアーク側に“あいつ”が付いたらしい。
 例の新人。シリエジオの弟子。

 ランク以上に実力がある、
 最強とまで噂のホワイトグリント。

 加えて新進気鋭、噂のAFキラーだ。
 このタッグを相手にしたら、
 何が起こるか分からん。

 だから3対2。
 念には念を、ってコトだ。

 奴と面識がある俺を、
 企業側の援軍に呼んだのは……何だ?

 それで勝率が上がると踏んだか、
 俺自身を試す気か。

 あるいは、更なる援軍を避ける為の布石か?
 俺がラインアークにつかない様に。

 ともあれ3対2。
 混戦になる。

 ドサクサに紛れて生き残れりゃあ、
 上出来だろう。

 なるべく粘ってみて、
 それでダメそうなら……逃げる。
 死ぬよりはマシだ。

 幸い、オッツダルヴァは、
 ホワイトグリントを、
 単騎で落とす気でいるらしい。

 となれば、俺の役目は、
 シリエジオの弟子の足止めだな。

 フラジールも利用して、
 2対1ぐらいか。

 相手も強敵だが、
 まぁ、楽な方だろう。

『私、あいつ嫌い』

 ふと、オペレーター役、
 いつものメガネ女が言った。

 彼女も企業の人間だ。

 ラインアーク側、技術屋の爺さんに、
 幾らか借りはあるが…
 本社や企業連の意向には逆らえない。

 ま、それはそうと、

「あいつって、どっちの話だ」


『どっちも嫌いだけど、
 特にランク1の方!

 ちょっと腕が良くて適正あるからって、
 お高く止まっちゃって』


「ま、そう言うな。

 腕が良くて適正があったら、
 そりゃあ結構な事だろう。

 盾にする分には、申し分無いぜ?
 利用してやればいい。

 それに…あれで結構、
 色々、悩んでいるのかも知れん。

 ランク1に登り詰めて、その先は?
 本当に止まって見えるのは誰なのか…

 …なんてな」


『男なら、同じリンクスなら分かる、
 孤独な英雄の胸の内ーっ!とか、
 何か、そういう感じぃ?』

 口を尖らせたみたいな口調。

 このお嬢さんは本当に、
 あのスカしたランク1の事が、
 気に食わんらしい。

 だからって、俺に当たられても、なぁ?


「ま、ホントの所は、どうだか。
 本当に、ただのスカシ野郎かも知れない。

 が、まぁ、他人様だ。
 どうでもいいだろ?
 俺とお前で上手くいってりゃあ」


『……ん? あれ?
 今のって、何気に告られた?』

「告ってねぇよ!
 ほら、作戦領域! 索敵、索敵!」

『わ、わ、了解っ!』

 ったく。

 自機、作戦領域に到達。
 VOBパージ。

 自機は、海上に作られた、
 長く巨大な橋の上に降りる。

 現場に着いたのは、
 どうやら俺が最後だった。

 フラジールとステイシスを発見。
 俺は自機を近くに寄せる。

『遅かったですね。
 待ちくたびれましたよ』

 不満げに言うフラジール。
 リンクスは、キューブとか言ったか?
 アスピナ機関のテストパイロット。

 言葉がどこか無機質に硬いのは、
 何か、精神改造とかでも、
 されてんだろうか。

「悪ぃ、悪ぃ。
 こちとら粗製なモンでね」

 俺は適当に返事する。が、
 オッツダルヴァは意にも介さない様子。

『ま、空気で構わんさ。
 行けるな? フラジール』

『はい、そのつもりです』

『それは良かった。
 じゃ、行こうか』

 各機、前進。
 この先だ。
 ラインアークの主権領域。

『空気だって。
 失礼しちゃうよね』

 メガネ女、また愚痴か。
 俺の分まで、
 怒らんでもいいだろうに。

「いいンだよ、空気で。
 空気が無かったら困るだろうが」

『あは、それは言えてる。
 じゃあ、黙って見てれば?』


「ところが、だ。
 空気は空気なりに、
 頑張らないといけない。

 酸欠になっちまうからな」


『どういう事?』

「俺の機体は装甲が薄い。
 転じて、空気が薄い。
 大変だぁー、なんつって」

 なんて馬鹿な事を話していると、
 オッツダルヴァから半笑いの通信。

『ま、それはそれで、
 アリじゃないか、貴様』

 おいおい、聞いてたのかよ。
 メガネ女の愚痴のせいで、
 ちょいとバツが悪いぜ。

 と、前方から接近機。

 白い機影、
 X字のシルエット。

 出やがった。
 ホワイトグリントだ。

『貴方達はラインアークの、
 主権領域を侵犯しています』

 グリントのオペレーターから勧告。
 引き返すなら今のうちだぞ、ってか?

『フィオナ・イェルネフェルトか。
 アナトリア失陥の元凶が、偉そうに。
 貴様らには水底が似合いだ』

 オッツダルヴァが先行。
 グリントの出足を押さえる。

 フラジールは旋回。
 オッツダルヴァとは別方向で、
 グリントを追った。

 敵機、グリントだけ。
 肝心の“ヤツ”が見当たらない。
 どこからだ? どこから来る…

 …下か!

 橋を貫通して、
 下からスナイパーキャノンの砲撃。

 自機、クイックブーストで後退。

 すぐ右へ切って、降下。
 壊された橋の残骸に紛れて、橋の下へ。

『貴方とは、一度、
 戦ってみたいと思っていた』

 出たな、新進気鋭。

 奴はECM発生器を使っている。
 道理でレーダーに映らんと。

 奴は崩れ落ちる橋の残骸の中に俺を見つけ、
 2丁のライフルで狙って来る。

「へっ! 授業料は高くつくぜ?」

 煽る様な事を言いながら、
 自機は後退。

 誘い出して、
 長射程のスナイパーライフル。
 狙い撃ちにする。

 向こうもスナイパーキャノンで応戦。

 しかし距離は600前後。
 こっちの機体は機動性重視。
 オマケに、障害物の多い橋の下。

 この環境。
 この距離。
 三次元戦闘。

 そうそう当たるとか、
 思ってくれるなよ?

 回避、回避、回避。

 外れた砲撃が橋の支柱を壊す。
 残骸が降り注ぐ下を縫って、
 ACが飛ぶ。銃撃戦が続く。

 敵機、思う様に当たらなくて、
 業を煮やしたか?

 奴はターゲットを変更。
 海面スレスレを鋭く飛びながら、
 フラジールを追う。

 なら俺は、そいつを後ろから追う。

『メインブースタがイカれただと?
 狙ったのか、ホワイトグリント!』

 と、何だ?
 オッツダルヴァが不調?

『沈んでいく!
 こんな物が私の最後だと』

 何だって? 最後?

 俺の位置からは確認できないが、
 ステイシスが早々に、
 戦線離脱の様相。

 しっかりしろよ、ランク1。
 整備でも怠ったのか?

 フリーになったのはホワイトグリント。
 すでに撃ち合ってる2人は無視して、
 こっちに向かって来る。

 自機、肩のレーザー砲で牽制。
 スナイパーライフルに切り替え、
 避け切って止まった所を狙う。

 グリント、クイックブーストで回避だ。
 右・左・後方へと、ブースト3発。
 止まるどころか全部避けやがった。

 ヤツは弾丸をすり抜けざまに、
 ミサイルを発射。

 ……分裂ミサイル!

「野郎ッ!」

 奴が放つ分裂ミサイルの間を縫って、
 自機のスナイパーライフル、弾丸が飛ぶ。

 着弾。グリントが仰け反る。

 スナイパーライフルの弾なら、
 軽量機体には重い一撃だ。

 先のステイシスとの交戦で、
 すでに被弾もあるだろう。

 殺ったか?

 だが、こっちもピンチ。
 ミサイル、多数接近。

 自機、マルチロック・システム、起動。

 こいつは爺さん特製、
 ミサイル以外の武器でも、
 マルチロックオン出来るFCS。

 ターゲットはミサイル。
 ミサイルをロックオンだ。

 セミオート照準。
 2丁の銃が別々に狙う。
 手近な物から撃ち落す。

 しかし…多い!
 捌き切れん!

 狙撃銃じゃ連射も利かん。
 ミサイル複数、
 至近距離に着弾。爆発。

 回避するも、自機は爆発に、
 右腕を持っていかれた。

『気をつけて!
 まだ来る!』

 フラフラと、
 海上へ降りていったホワイトグリント。

 一度は停止したかに思われたが、
 すぐまた動き出しやがった。

 殺ったと思ったのは、
 俺の勘違いか?

 それとも……再起動だと?
 あり得るのか?

 迫るホワイトグリント。
 飛び交う銃弾。

 プライマルアーマー、減衰。
 予測装甲値が2割を切る。
 メガネ女が悲鳴を上げる。

『もうダメ! 無理よッ!』
「まだまだぁッ!」

 自機、ライフルをパージ。
 ブレード用意。

 どうせもう逃げられそうに無い。
 こうなりゃ、刺し違えてでも!

 と、俺はイキナリ、
 空中に放り出された。

 コクピットを強制パージだと!?

 あの、馬鹿女!
 仕込んでやがったのか!

 俺はそのまま、海へ転落。

 自機は直進、ホワイトグリントに特攻。
 弾丸を浴びながら、
 アサルトアーマー強制発動。

 至近距離で緑の爆発を食らい、
 ホワイトグリント、
 ようやく制御を失って、墜落。

 何とか倒した、のか。

 だが、自機も限界。
 穴だらけだ。

 とうとう爆発して、
 こいつもまた、墜落。

 残るはシリエジオの弟子と、
 フラジールだけ。


「……ぶはっ!
 死ぬかと思ったぜ!」

 海に落ちた俺は、
 橋の支柱まで泳ぎ着いた。

 落ちた衝撃で、あちこち痛い。

 愛機も失った。
 明日から、どうすりゃいいんだ?
 多少は貯蓄があるとは言え……

 あのメガネ女、後で絶対、
 文句言ってやる。

 そう思って、支柱の下、
 足場に上がりかけた時、
 俺は誰かに突き落とされた。

 派手な水飛沫を上げて、
 また海に落ちる。

「な、何しやがる!」

 俺はすぐに、
 突き落としたヤツを探した。

 先の足場に居たのは、
 オッツダルヴァと……誰だ?
 見た様な顔の。

 そいつは、俺の眉間に銃を向けた。

「君に恨みは無いが、
 目撃者が居て貰っては困るのでな」

「おまっ、メルツェ……っ!?」

 咄嗟に頭を反らす。
 一撃目は回避。

 しかし銃撃は執拗に続く。
 肩に、胸に突き刺さる銃弾。

 痛み。
 赤く染まる水。
 沈んでいく、俺。


 俺の意識はそこで途絶えた。


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