〜Piercing the Sky/ACfA別解 Phase12〜


「ぐっ!?」

 俺は痛みで跳ね起きた。
 跳ね起きた反動で、また痛い。

「ここは……?」

 辺りを見回す。

 白い、息苦しいぐらいに清潔な部屋。
 薬品臭い空気……どこかの病室だ。

 頭の中で状況を整理する。

 俺は負傷していて、
 それを誰かが拾ってくれた、
 と思われる。

 負傷……

 そうだ、俺は確か、
 メルツェルの野郎に撃たれたんだ。

 メルツェル。ヤツもリンクス。
 管理機構カラードには属さないが、
 AC乗りの1人。

 若い策謀家。
 通称は『自動人形』。
 その由来は、俺は知らん。

 身体をどこか、
 サイボーグ化でもしてんのか?

 しかしリンクスだ。
 多少の強化改造ぐらいは当たり前。

 それが通称になるとしたら、
 相当な改造率だろう。

 それとも、演算装置並みに抜け目の無い、
 頭の良さから付いた呼び名だろうか。

 あるいは、その両方か。

 まぁ、何にせよ、
 相当な切れ者に違いはない。

 そのメルツェルが、どんな意図で、
 オッツダルヴァと居たのか……

 奴は確か、見られては困る、
 みたいな事を言った。

 何を見られて困るって?

 俺が思案していると、
 部屋のドアが開く。
 誰かが入って来る。

「もう意識を取り戻したか。
 腐ってもリンクスだな」

 入って来たのは、
 黒服の護衛を3人ばかり伴った、
 壮年齢層に見える男。

 壮年つっても、
 実年齢としちゃあ、
 間違いなく老人なんだろうが、な。

 何しろ、
 リンクス戦争の前から生きている奴だ。

 相当な高齢の筈だが、
 しかし腰は曲がっていない。

 まぁ、今時、延命措置なんか当たり前。
 誰の正確な年齢も分からんか。

 ともあれ、俺は、
 そいつの顔を見るなり、
 食って掛かった。

「てめぇ……王小龍!
 一体どういうつもりだ!」

「ご挨拶だな。助けてやったのだ。
 礼の1つも言って貰いたいものだが」

「俺の部隊を見殺しにした事、
 忘れたとは言わせねぇぞ!」

「まだ拘っているのか?
 私は犠牲を最小限に留める為に、
 合理的な方法を採ったに過ぎん」

「ぬかせ!
 今日と言う今日は、
 仲間の仇を……ッ!」

 言いかけて、俺の腹に激痛。

 あまり興奮したモンで、
 傷に響いたらしい。

 だが、俺はこいつを前に、
 どうしたって冷静にはなれない。


 数年前。

 局地戦。
 傭兵と企業軍の混成部隊。

 事前情報の違い。

 予想外の横槍。
 戦力差。
 崩壊する戦線。

 後退。

 後方の補給部隊は、
 既に壊滅状態。

 孤立無援。
 敵の包囲網。

 全てが罠。

 殺到する敵。
 俺達は囮。

 相方だった、
 オペレータの死亡。

 散っていく友軍。

 生き残ったのは2人。
 俺と……


 俺は、王小龍に掴みかかろうとし、
 護衛の黒服どもに取り押さえられる。

「くっ、離しやがれ!」

「そう暴れると、傷が開くぞ。
 折角拾った命を無駄にする気か?」

「これが落ち着いていられるか!」

 黒服どもの、
 取り押さえる手に抵抗する俺。

 それとは対照的に、
 王小龍は淡々と言う。

「勘違いをするな。
 お前の仲間を殺したのは、
 私ではない」


「同じ事だ。
 何故、あれだけ撤退命令が遅れた。

 頭のいいあんたが、
 引き際を間違えただぁ?
 そんなワケがあるか!」


「私とて、万能ではない。
 戦局を読み間違える事もある」

「ふざけるな! あんたの情報網なら、
 あれぐらい、とっくに……」


「私がどうあれ、だ。

 仲間を守れなかった自責を、
 私にぶつけないで貰いたいものだな。

 お前は粗製を自称している。
 粗製ならば、手が及ばぬ事もある。

 現に、誰も、
 お前を責めては居ないのだろう?

 まぁ、死人は最早語るまいが。

 しかし一部のリンクスは、
 生還したお前を羨望している。

 粗製の身に余る栄光だ。
 それなりの代償があって、
 然るべきだろう。

 それとも、本当ならば救えた物を、
 救わなかった事を後悔しているのか?

 実力を隠して、結果、
 味方を死なせたのであれば……

 それは、私ではなく、
 お前自身の責任だ。違うか?」


「ぐっ……」

 分かってんだよ、
 そんな事は!

 俺が頼りないばっかりに、
 仲間が大勢死んだ。

 俺にもっと、
 技術が、適性が、経験があれば、
 もっと救えたハズだった。

 そして、遣り切れない気持ちを、
 こいつにぶつけている。
 それも分かっている。

 作戦がどうなろうが、
 現場の事は、
 現場で処理するしかない。

 こいつ1人責めた所で、
 死んだ奴らが戻って来るワケじゃない。

 そうだ。俺の感情の問題だ。
 どう言っても始まらん。

 だが、納得も出来ない。

 死んだ奴らが、
 捨て石にされた事は事実なんだ。

 俺が苦虫を潰した様な顔をしていると、
 奴は質問を続ける。

「まだ何か不服か? 小僧」

「いつまで俺を、
 ガキ扱いしやがる」

「言うだけの実力が、
 身に付いたと言うのか?
 大局を見据えられない小僧が」

「俺は戦略には興味無ぇ。
 戦術を徹底するだけだ」

「戦術は戦略の断片に過ぎん。
 お前の軽い頭でも、
 理解出来ないとは思えんが」


「俺は傭兵だ。
 傭兵は傭兵だ。

 兵隊が文民並みに、
 頭こね回してどーすんだよ。

 戦場が愚痴と不平で溢れるぜ?
 みっともねぇ」


「相も変わらず、
 口だけは回るな。

 兵隊ならば兵隊らしく、
 黙って戦略に従え。

 誰もが納得して死ねたら、
 苦労は無い」


「それでも俺は、
 納得して死にたいね」


「ふん。納得、か。

 ならば、お前にも少しばかり、
 仕事を手伝って貰おうか」


「何だと?」


「私に借りを作るのは、
 不満だろう?

 命を拾ってやった分、
 幾らか仕事を押し付ける。

 それとも……ここで死ぬか」


「永遠のタダ働きか?
 そいつは冗談じゃねぇな。

 今殺してくれた方が、
 幾らか楽だぜ」


「3つばかり仕事が終われば、
 放免してやる。

 戦果に応じて報酬も出そう。
 悪い話ではないと思うが?」


 3つ。1つじゃねぇってか。

 粗製の俺の命と、依頼が3つ分。
 釣り合ってるとは思えねぇな。
 欲張りな爺さんだ。

 とは言え、奴の言い分も、
 分からないでもない。

 こいつに借りを作ったままってのは、
 確かに具合が悪い。

「だが、俺には機体が無い。
 グリントと刺し違えて沈んじまった」


「海中から引き上げたステイシスと、
 アンビエントの、
 予備のパーツを貸してやる。

 元の機体に近い、
 アセンブルが出来るだろう」


「外見は、な。
 だが、問題は中身だ。

 FCSやブースト、
 ジェネレーターのバランスはどうなる。
 機体のチューニングは?」


「お前のAMSがチューニング済みだ」

「何だと?」


「反射速度、捕捉距離、
 照準補正が向上しているハズだ。

 武装の違いで、
 認識のズレもあるだろうが、
 お前ならば問題ない」


 AMSを調整?

 AMS。
 アレゴリー・マニピュ……なんたら。

 乗り手に高い負荷を掛ける代わりに、
 高精度な機体制御を、
 可能にするシステムだ。

 そのAMSへの適応性は、
 先天的な知的能力。
 訓練で身に着けるのは難しい。

 だが、技術者達も、
 何も対策を考えていないワケじゃない。

 訓練で補えないAMS適正に、
 機械の側から補助を施す。

 適正の低い者でも、
 可能な限り戦力に仕立て上げる。
 そんな試み、か。

 効果は微々たるモノなんだろうが、
 どんな粗製でも、戦力は戦力。
 使える様にしないとならん。

 だが、ACならともかく、
 AMSの先進技術と言ったら、
 大概は、アスピナ機関じゃなかったか?

 アスピナはオーメル側。

 王小龍はBFF、
 GAサイドだろう。

 それを、どうやって盗んできたんだか。
 それとも、自社製を開発し始めたか。

 まぁ、それはどうあれ、

「ケッ! 人が寝ている間に、
 勝手に身体を弄りやがって。

 本当に、それ、
 大丈夫なんだろうな?」


「欠陥が見つかったという報告は、
 今の所、無い。

 まぁ、見つかったとしても、
 器用なお前だ。
 どうにか出来ると思うが」


「ガキ扱いしといて、
 今度は煽てるのか?

 頭のいい人間ってのは、
 変化が激しくて、ついて行けねぇ」


「少なくとも、
 お前の腕は買っている。

 あの状況下で、
 2人目の生存者が出たというのは、
 私の大いなる誤算だ」


「よく言うぜ。
 俺は結局、
 都合のいい手駒か」

「従わせて従うのか?
 お前に私を守るつもりなど、
 無いだろう」


「俺がリリウム辺りの盾になって、
 お前がリリウムを盾にする。

 結局は、同じ事じゃねぇのか?」


「私は……」

 ふと、王小龍の顔に、
 陰謀屋のそれとは違う、
 妙な表情が浮かんだ。

 奴なりに、リリウム・ウォルコットの事は、
 気に掛けている?

 それとも、もっと別の何か…

 奴の本心は読めない。
 ただ、少しの間、
 奇妙な沈黙が続いた。

 そして溜め息1つ。
 沈黙を切り上げたのは、
 王小龍自身だ。


「……まぁ、いい。
 今は回復に専念しろ。

 準備が整い次第、
 連絡を寄越そう」


 去っていく王小龍。


 ……準備が整ったら出撃か。

“俺の回復”じゃなく、
“準備が整ったら”。

 怪我を押してまで、
 こき使われるってワケだ。

 まぁ、気の重い話だが……

 他にどうしようも無い。
 俺はまた、束の間の眠りに就いた。


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