〜Piercing the Sky/ACfA別解 Phase14〜
『友軍機、行けるか?』
濃い霧を裂いて、
シリエジオの弟子の、
少し緊張した、鋭い声が響く。
『こちら、メリーゲート。
いつでも始められるわ』
先に応えたのはメイ・グリンフィールド。
AC名【メリーゲート】。
奴はGA所属の女リンクス。
機体のエンブレムから、
スマイリーの俗称で呼ばれる、
ミサイルを主武装とした重量機使いだ。
『……そっちは?』
「ああ、問題ないぜ。
とっととリベンジしちまおう」
と、メイの問いに俺の返事。
作戦領域はPA−N51。
新資源プラントがある場所だ。
いつぞやの借りを返しに来た、
ってヤツだな。
『了解。貴方の受けた依頼だが、
指揮は執るのか?』
「指揮? とりあえず、
必要無ぇだろう。
それぞれリンクスだ。
勝手は知ってるさ」
『分かった』
シリエジオの弟子は、
機体の後部ブースターを吹かす。
あれは作戦開始を、
挙動で示したってトコだ。
奴が先行。
俺とメイは後ろから援護だ。
奴の機体を追いながら、
俺は聞いた。
「接敵前に、
1つ聞いておくが……
アルテリア施設を潰したって、
お前、本当か?」
『貴方には関係無い』
と、奴は相変らずの無愛想。
質問の内容だが、
GAのアルテリア施設……
つまり、クレイドルに、
エネルギーを供給する為の施設が、
奴によって攻撃された、とか何とか。
……本当かね?
クレイドルってのは、
多くの戦えない一般人を乗せた、
空に浮く、その名の通りの揺り篭だ。
ま、一般とは言っても、
ある程度、金持ちの類だが、な。
企業だって慈善団体じゃない。
金も出せない貧乏人には見向きもしない。
企業が救い切れない貧困層は、未だに、
汚染された地上から空を眺めている。
あいつは、そんな、
社会の格差なんかが、
嫌になったのかも知れない。
……まぁ、本当に、
奴がアルテリア施設を、
攻撃したのなら、の話だが。
何しろ、当時の目撃情報が少なく、
信憑性の方も、幾らか疑わしい。
その真偽を確かめるのが、
俺が王小龍に頼まれた、
今回の、2つ目の依頼ってワケだ。
が、こうも、
邪険にされると、なぁ……
「俺がクレイドルに、
身内が居ると言ったら、どうする。
無関係じゃないだろう」
俺は本来、天涯孤独だが、
情報を引き出す為に、
そう言ってみた。
“空を飛び続けるクレイドル”も、
エネルギーの供給を完全に断たれれば、
いずれは地上に落ちる。
落ちるまで乗ってりゃあ、死ぬ。
脱出する時間もあるだろうが、
その中に身内が居れば、
そりゃあ無関係じゃない。
『それは……お気の毒だ』
シリエジオの弟子は、
まぁた生返事だ。
あくまでもトボケるつもりか。
そうでなくとも、こいつ、
元々、口数が少ない。
こいつから会話で何か得ようってのが、
そもそもの間違いじゃないのか?
まぁ、それでも依頼だ。
俺は質問を続ける。
「どこかの依頼か?
それとも、お前1人で、
テロリストでも気取るのか。
クレイドルは企業の根幹、
アルテリアはクレイドルの根幹。
そんなモンを敵に回して、
何の得がある」
『……関係無い。
誰が敵でも』
「そりゃ、何だ。
全部倒しちまうから、
関係無ぇってか?
お前、そんな強くなって、どうする。
強くなる為に、どうするんだ。
ハハッ。そりゃまぁ、確かに、
1人で人類を全滅させれば、
生き残った奴が最強だろうが、な」
『だったら、どうする。
今、後ろから撃つのか?』
小馬鹿にした俺に、
剣呑なあいつ。
否定も肯定もしない、か。
まぁ、俺の採った態度は、
確かに感じが悪い。
奴が険悪になるのも、
仕方が無い、が……
しかし、奴のオペレータ、
シリエジオ当人でさえ、
何も言って来ないとは。
シリエジオはシリエジオで、
弟子の行動を、
幾らか疑問に思っているのか?
『あまり変なコト言うと、怒るわよ』
剣呑な様子を見かねてか、
メイからの釘刺し。
奴はシリエジオの弟子に、
幾らか好意的らしい。
協働経験があるせいか、
その時に借りでも出来たのか。
しかし自分だって、
GAの人間だろうに。
とは言え、確かに、
疑わしい点もある、か。
『シリエジオの弟子が、
アルテリア施設を攻撃』
っていう話自体、
かなり怪しいモンだ。
奴は名が売れて、
その分、敵も増えた。
企業だけじゃない。
リンクス個人でも、そうだ。
カラードからの評価を上げる為に、
奴を蹴落としたい連中だって居る。
そういう連中が、
デマを流した可能性もある。
ま、実際、な。
どこかの依頼を受けたと考えるのが、
妥当ってモンだろう。
企業並みの報酬が無ければ、
ACなんて動かしてられない。
弾薬費にせよ修理費にせよ、だ。
そして、そこらのテロリストにゃ、
企業並みの報酬が、
ホイホイ出せるとも思えない。
だから、奴が、
アルテリアを襲っただとか……
周辺のリンクスで、
それを鵜呑みにしている奴は少ない。
勿論、よっぽどの阿呆と、
奴を攻撃する為の、
口実が欲しい連中を除いては、だが。
『協働を前に、
揉める理由を作ってどうするの?
話は後にしましょうよ』
と、メイ・グリンフィールド。
リンクスには珍しい常識人だよな。
俺としちゃあ、
とっとと王小龍の頼みを片付けて、
依頼に専念したかったんだが…
ここで撃ち合いになっても、
それはそれで困る、か。
俺は溜め息1つ。
この場での追及は諦める。
「ま、ごもっともだな。
後で少し付き合えよ。
話せる範囲で、
ちょいと聞かせて貰う」
『話せる範囲。
それでいいなら』
シリエジオの弟子も了承だ。
とっとと目の前の仕事の方を、
片付けちまうとしよう。
各機、作戦領域に到達。
レーダーに感。
敵だ……が、やたら多い。
作戦前のブリーフィングじゃ、
ネクストが2機って話だったが、
実際、20機は居る。
ま、流石に、これ全部、
ネクストって事は無いだろうが。
「先行して引っ掻き回す。
ちょっと待ってろ」
肩部装備、起動。
自機が光学的に不可視になる。
『消えた?
どうなってる』
「ちょっとした試作パーツさ。
時間制限付きだが、な」
試作パーツ。
ある種の光学迷彩だ。
本当はコレ、
ECMと併用するのが望ましいが……
ここは霧が凄い。
レーダー不調。
ECMを使う間でも無ぇ。
自機、前進。
敵を視認する。
敵の大半は案の定、
ノーマル部隊だった。
まず1機目。
銃を撃ったんじゃ居場所がバレる。
刺突ブレードをぶち込んで、沈黙させる。
続いて2機目、3機目。
地味に怖いな、コレ。
ちょっとした暗殺者気分だ。
こっちが使ってる分にはいいが、
使われたらと思うと、ゾッとする。
この光学迷彩パーツは、
例の爺さんの作だ。フリーの技術屋の。
奴はラインアークが旗色悪いってんで、
GA側に接触を図ってるらしい。
ま、メガネ女も、
爺さん採用の後押しぐらいするだろう。
よしんばラインアークが潰れたって、
爺さんが食い扶持に困る事ぁ、
そうそう無いとは思うが。
……っと、5機ばかり片付けて、
流石に敵も気がついたらしい。
レーダーの表示、
敵の配置が乱れる。
俺の機体は……
まだ見つかってないか?
友軍機は接敵。
先に見えている方を叩くつもりだろう。
敵機はシャミアの【レッドラム】と、
ド・スの【スタルカ】。
『今度こそ穴だらけよ、坊や達!』
『子供扱いするな!』
突出して来てるのは、
シャミア。ACレッドラム。
その相手しているのは、
シリエジオの弟子か。
機敏に動いちゃ居るが、
シリエジオの弟子、少し不安だ。
レッドラムからの散弾を、
立て続けに、モロに食らった。
予測装甲値が派手に減った。
旋回性の高い4脚相手、
まだ経験が足りなかったか?
それとも……アレか。
坊やと言われてキレた、か。
幾らか、俺のせいって事もあるか?
作戦前にイライラさせたのが、
後を引いているかも知れない。
責任感ってほどじゃないが、
ちょいと助けてやるか。
俺はシャミアと通信を取る。
「坊や達って、まさか、
俺も入ってんのか?
シャミア、お前って、
そんなに年上だったっけ。
ああー、アレか?
サバ読んでたってヤツ。
まー、なぁ?
お年が気になるお年頃ってんじゃあ、
サバ読むのも仕方無ぇやな。
お肌のお肌の曲がり角〜って」
『こ、こ、この……ッ!』
『シャミア!
アレは挑発や!』
『わ、分かってるわよッ!!』
よし、こいつもキレた。
ド・スがなだめ、
分かってるとか言っているが、
シャミア・ラヴィラヴィは、
明らかに冷静さを欠いた。
同時に、シリエジオの弟子、
挙動が冷静になる。
距離を取る。
散弾の被害を減らす。
この分なら、
そうそう落とされんだろう。
後はメイ機、メリーゲート。
奴は重量級だが、
スタルカの実弾ブレード相手じゃ、
少々分が悪い。
それなら、だ。
俺がメイの援護に…
…と、敵陣の向こうの方から、増援。
ACだ。オーバード・ブーストの光が見える。
『大アルゼブラと、
俺の顔に泥を塗った、
クズどもめ……!
追い詰めて、
肥溜めにぶち込んでやる』
イルビス・オーンスタイン!?
この前の殺り損じだ。
コケにされたのを根に持ってやがったな。
しかも、このタイミングで、
自機の光学迷彩が時間切れ。
手近に見つけた敵、
すなわち俺の機体を目掛けて、
イルビス機、マロースが突っ込んで来る。
……相性が悪いぜ。
重量級のメリーゲートじゃ、
スタルカ得意の近接戦闘、
実弾ブレードは避け切れない。
俺はマロース、
イルビス・オーンスタインが苦手だ。
シリエジオの弟子は万能そうだが……
「メイ、距離を取って、
シャミアを引き付けろ!
若造はマロースを!
スタルカの相手は俺がやる!」
と、俺の指示。
シリエジオの弟子は、
少し怪訝そうに聞いた。
『何だ。結局、
指揮を採るのか』
「“とりあえず”って言っただろ!
ツベコベ言うんじゃねぇ!」
『了解。指示に従う』
自機は右手のブレードをパージ。
格納していたハンドガンを装備。
左の突撃銃と合わせて、
スタルカに銃弾を集中させる。
その軌道と交差しながら、シリエジオの弟子、
自機を追ってきたマロースに、
スナイパーキャノンをぶちかます。
そのシリエジオの弟子をつけて来たシャミアは、
メイのミサイル弾幕を前に、後退。
連携は良好。
ターゲット強制変更、完了だ。
あとは戦うだけだ。
自機と相対するスタルカ、
リンクスのド・スは、
俺とは顔見知りだ。
奴は旋回、
こっちの銃撃を避けながら、
俺に言う。
『まさか、生きていたとはのう。
こんな形の再会じゃなきゃあ、
一杯おごってやる所じゃがな』
「そりゃまた、
ツイて無ぇ話だな。
ま、お手柔らかに頼むぜ」
『生憎じゃが、不器用でな』
「おいおい、
容赦無ぇな…」
3機対3機。
視界の悪い局地戦。
厄介だが……
「指揮の経験が?
何だろう。安心感がある」
シリエジオの弟子が言う。
安心感、か。
俺も否定はしない。
目の前の敵さえ何とかすれば、
後は、どうにでもなる。
そんな気がして来ていた。
この、奇妙な安心感……
背中を預けるだの何だの、
いつ以来だろうか。
ま、どうあれ、だ。
ACスタルカを撃滅する。
そうしない事には始まらん。
銃火が爆ぜる中、霧を裂いて、
6機のネクストが入り乱れ、飛ぶ。