〜Piercing the Sky/ACfA別解 Phase15〜


「今度負けたら、わしは、
 それを最後の仕事に、
 引退する気で居ったんじゃ」

 暗いバーの中、
 酷く度の強い酒が入ったジョッキを片手に、
 ド・スが、ボヤく様に言った。

 その横顔は、
 少し寂しそうだった。

「だから“この町が終わり”か」

 納得した口ぶりで言うのは、
 シリエジオの弟子。

 直接顔を合わせたのは、
 これが最初だな。

 奴についての言及は無しだ。

 俺だって、余計な事を喋って、
 あのシリエジオに狙われるのは、
 ご免被りたい。

「ったく、縁起悪過ぎだろ。
 殺っちまったかと思ったぜ」

 言いながら、
 俺は窓の外を眺める。

 ……一面、白だ。

 外は濃密な霧と、
 深い静寂に包まれていた。

 ついさっきまで、
 ドンパチやってた場所とは思えない。

 現在地、バーの所在は、
 PA−N51の近傍、建造物の中だ。

 生き残った俺達は今、
 GA本社部隊の迎えを待っていた。


 先の、ネクスト3機対3機の戦い。
 勝敗で言えば、俺達の勝ちだ。

 だが、勝ったとは言え、
 結果は散々。

 レッドラムはメリーゲートから、
 大量のミサイルをブチ込まれ、活動停止。

 だが、奴は苦し紛れに、
 突っ込んで行ってアサルトアーマー。
 メリーゲートが巻き込まれ、戦闘不能。

 俺の機体はスタルカを倒したが、
 奴の実弾ブレードを避け損ない、
 もう右腕と右足が無い。

 シリエジオの弟子は、
 レッドラムの散弾にやられて、
 機体が穴だらけだった。

 それでもマロースには、
 トドメを刺したみたいだが。

 で、生き残った機体は、
 シリエジオの弟子と、俺の……

 つっても、半壊状態。
 全部で1機半。

 これで敵の残党と遭遇したりすると、
 穴だらけの機体が、
 本当に穴だけになっちまう。

 ま、大勢は決した。
 敵に動けるネクストも居ない。
 後はノーマル部隊のお仕事だろう。

 その本社部隊を待つ間、
 俺達は、無人になったバーを物色していた。

 しかし、引退ねぇ……

 ド・スの愛機、スタルカの轟沈。
 所属は弱小企業テクノクラートだ。
 AC1機、立て直すだけでも、
 大変ってトコだろうか。

「だが、あんたが辞めたら、
 テクノクラートは、どうなる」

「恩義があるんじゃ。
 テクノクラートに銃を向けるなら……」


「同じオーメル側で、
 新しいスポンサーを探したって、
 いいじゃねぇか。

 それに、リンクス辞めたって、
 アーキテクトとか……
 考えるだけ考えてみろよ」


「すまん……わしゃあ……」

 とうとうド・スは、
 うつむいて泣き出した。

 泣き上戸かよ。
 飲み過ぎだ。

 と、不意にバーのドアが開く。
 ……敵か?

 俺とシリエジオの弟子は、
 身構え、銃を抜いた。

 が、相手の顔を確認。
 銃を降ろす。

「何だ、お前か。
 本社の連中は?」

「まだ、かかりそう」

 そう言いながら入って来たのは、
 メイ・グリンフィールド。

 彼女は耐コジマ仕様のヘルメットを外して、
 髪を振り払う。

 彼女は機体の中で、所属企業、
 GA社と連絡を取っていたらしい。

「シャミアはどうした」

「逃げたわ。
 レッドラムのコクピットは空だった」

「しぶッてぇ奴」


「でも、出血の跡があった。
 相当の深手よ。

 助かったとしても、当分の間、
 戻って来られないんじゃないかしら」


 だが、それでも動けたって事だろ?
 シブトイ蜘蛛女だ。

 死んだのはイルビスだけ。
 殺ったのはシリエジオの弟子だけ、か。


「ああいうの、
 戻って来られても面倒だ。

 出来る事なら、
 片付けておきたかった」


 と、シリエジオの弟子。
 リアリストだな。

 俺は肩をすくめる。

「戻って来ないなら、
 別に、死んでなくてもいいだろう。
 俺はオバケが苦手なんだ」

「オバケって。
 貴方も似た様な物じゃない?」

 と、メイが軽口を叩く。

 まぁ、このシケた空気だ。
 何とかしたかったんだろう。

 が、俺が思わず眉をひそめると、
 メイは顔色を変えた。

「……ごめんなさい」

 頭を下げるメイ。

 事情が分からず怪訝そうなのは、
 シリエジオの弟子。
 奴は俺とメイの顔を見比べてくる。

 俺は大して気にもしない態度で、
 酒の入った瓶を振って見せた。

「ま、何にしても、お疲れだな。
 一杯どうだ?」

「あら、いいお酒ね。頂くわ」

 俺が気にしてないつってんだから、
 メイもそういう風に反応する、か。

 常識人、メイ・グリンフィールド。
 育ちがいいって噂も、あながち……

 と、メイは俺から酒瓶を受け取って、
 ラッパ飲みした。

 あながち……
 何だっけ。忘れた。

 それはそうと、
 俺は仕事に戻る。

 仕事。シリエジオの弟子の、
 真意やら何やら。

 俺はシリエジオの弟子に話を振る。

「そういや、ほら、
 アルテリアの件だが」

「ある組織から依頼された」
「組織? 企業じゃないのか」


「違うと思う。多分。

 ただ、反体制派の皮を被った、
 企業の差し金と言う可能性も、
 否定は出来ない」


「今の所、よく分からん、か。

 何でまた、そんな、
 怪しい連中の依頼を、
 受けてみる気になったんだ?」


 と、肩をすくめる俺。

 その問いに、
 シリエジオの弟子は、
 神妙な顔で答える。


「考えたんだ。
 何の為に、戦うのか。

 ホワイトグリントの、
 オペレータに聞かれた。
 何の為に戦うのか」


 グリントのオペレータ、
 フィオナ・イェルネフェルト、か。
 ラインアークの理想主義者。

「……で? 何の為に戦ったら、
 アルテリアを潰す事になる」

「この力で、もし叶うなら、
 不平等を取り除きたいと思った。
 地上と、クレイドルの」

「お前、地上育ちか?」
「そうだ」

 なるほど、まぁ、
 分からんでもない。

 俺も地上育ちだ。
 地上の、企業に冷遇される、
 貧困層ではある。

 恵まれた連中は、
 遥か上空、クレイドル。

 奴らは汚れた地上を見下しながら、
 安穏と暮らし……

 そんな連中を、俺だって、
 憎たらしいと思わんでもない。

 しかし、だ。


「だからって、クレイドルを?
 飛躍し過ぎだろう。

 クレイドルの連中を殺したぐらいで、
 本当に、みんな平等になるってんなら……

 反体制組織なんてセコい事を言わずに、
 地上の奴、みんなで殺しに行くだろ」


「そうかもしれない……

 貴方は、一体、
 何の為に戦っているんだ?」


 それを、俺に聞くか。

 何の為に戦うのかって、
 まるで人生相談だな。

 自分の“先生”にこそ、
 聞けばいいだろうに。

 ……いや、シリエジオの姐さんは、
 戦うのを止めた。

 戦うのを止めるってのは、
 戦わない理由をこそ、得たからか。

 戦う……何の為に。
 俺が戦う理由。

「そうだなぁ……
 金の為、とか」

「金を稼ぐ為?
 稼いで、どうする」


「稼いだら……
 まぁ、使うな。

 美味いメシを食って、
 綺麗なお姉ちゃんと遊んでー、とか」


「どうして。
 それだけの力があるのに。

 もっと有意義にとか、
 正しい事に使おうとは、
 思わないのか?」


「買い被るなよ。
 俺はそんなに上等じゃない。

 幾らか聞いてるだろ?
 逃げ足に長けたチャランポラン。
 そいつが俺だ。

 生き残るって事は、
 必ずしも実力に結びつかない。
 昔、誰かが言ってたぜ」


「それでも、リンクスだ。
 選ばれた人間に違いは無い」


「選ばれた?
“見限られた”の間違いだろ。
 神様だか何だか知らねぇが。

 AMS適正が見つかった。
 そのせいで地上に追いやられて、
 殺し合いをやらされてる」


 と、俺は気楽に言ったつもりだったが、
 シリエジオの弟子は、
 酷く深刻な顔になった。

 ふと見ると、
 ド・スやメイまで……

 おいおい。
 そんなに難しく捉えんでも。


「ま、どうしてかって言うと、な。

 戦争の中で回ってる金を、
 引っ張り出して、
 戦争じゃない所に流す。

 それが、この、
 くだらない企業戦争に対する、
 俺なりの抵抗……かな。

 破壊するだけが戦いじゃない。
 お前も一度、考えてみろよ。

 クレイドルを落とすよりは、
 幾らかマシかも知れんぜ?」


 すると、シリエジオの弟子、
 まるで目から鱗みたいな顔をして、


「そうか。戦わない戦い方。
 そんな手段もあるのか…

 …分かった。
 考えてみる。

 ありがとう……えっと」


 と、奴は何か、
 言葉に詰まった。

 俺は首を傾げる。

「どうした?
 まだ何か疑問か?」


「そういえば、貴方の事は、
 どう呼べばいい?

 カラードの登録には、
 貴方の名前は無かった。未登録だ」


「お互い様だろ。未登録。

 俺だって、
 お前さんの名前を知らん。

 例えば、そうだな。
 機体名で呼んどくか?
【ストレイド】って」


 そう、機体名。

 キューブでなくフラジールと呼んだり、
 霞スミカをシリエジオと呼んだり、だ。
 そんな珍しい事でもない。

 だが、このシリエジオの弟子は、
 それじゃ不満らしい。

「私は迷子じゃない」

 と、こうだ。ケッサクだな。
 俺は思わず吹き出した。

「ぶはははは!」
「笑うな。何がおかしい」

「ああ、いや、すまん。
 その通りだと思ってさ。
 何でストレイドなんだ?」


「先生が前に、
 拾って来た機体なんだ。

 私と同じ捨て猫みたいな物だから、
 好きにしていいぞって」


 拾って来た?
 ネクスト機を?

 ネクストがそこら辺に、
 落ちてるワケが無ぇだろうが。

「拾って……何だって?
 何か情報とか、
 入ってなかったのか?」

「アーキテクト名は、
“セレン・ヘイズ”」

 セレン・ヘイズ。
 別の言語で“霞スミカ”、だ。

 霞スミカってのは、
 シリエジオのリンクスが、
 現役当時に名乗っていた名前。

 まぁ、リンクスの登録名なんて、
 大体が偽名。

 そして、姐さんがACを降りた今、
 そっちの名を呼ぶのは、
 ちょっと妥当か分からんが。

「じゃあ、そいつは、
 お前の先生が作ったんだろ」

「いや、聞いてはみたけど、
 そんなワケあるか! って」

 ……照れ隠しかよ。

 大方、可愛い弟子の為にって、
 せっせこ組み立てたんだろう。

 あのシリエジオが、ねぇ……
 想像すると、何だか微笑ましい。


「先生から譲り受けた時、
 凄く、ピーキーな機体だった。

 でも、軽くて速い。
 鋭く飛ぶんだ。

 初めて乗った時なんて、
 まるで自分が弾丸になった気がした。
 どんな人が組んだのか」


 と、シリエジオの弟子、
 譲られた当初を懐かしむ。

 俺は半笑いで言う。

「そりゃあ案外、
 可愛い奴かも知れないぜ?」


「可愛い……?

 可愛いリンクスとか、
 ちょっと想像がつかない。

 シャミアなんて、
 あんなだったし」


「あら、リンクスにだって、
 可愛い人は居るわよ。ねぇ?」

 と、メイ。

 奴は酒が入って暑いのか、
 パイロットスーツの襟元を緩める。

 コジマ汚染対策完備だ。
 密閉構造。
 暑苦しいのは分かるが……

 挙句、色っぽく仰向けに、
 テーブルカウンターの上に転がって見せ、
 シリエジオの弟子に熱視線。

 ……飲み過ぎだ、
 メイ・グリンフィールド。
 青少年を誘惑すんな。

「え……あ、ああ。
 メイは可愛いよ?」

 照れたような様子で、
 目を反らしながら、
 シリエジオの弟子が答える。

 ……この場合、
 むしろ、可愛いのはお前だ。
 純情青少年め。

 メイの方も、そりゃあ、
 外見だけなら否定はせん。

 が、あのゴツイAC、
 あの大雑把な戦い方だ。

 そこらを冷静に差し引いて、
 俺には何とも言えん。

「で? そのストレイド、
 機体の登録名は変えないのか?」

「いいのが思いつかない」

「ま、名前が無くとも、
 ACは動くが……
 愛着っつーか、さ」

 ……とか話をしていると、
 外からACの飛行音。
 ブーストを吹かしている音がする

 敵? 味方か?
 俺達は窓の外を見る。

 連中は状況を探っている様子で、
 直ぐには降りて来ない。

 ……というか、
 いつまで飛び回ってんだ?
 エネルギーが切れないのか。

 よく見ると、
 ACは後部ブースタだけじゃなく、
 肩武装からもブーストを吹かしている。

 何? 簡易のVOB?
 飛行ユニットと呼ぶべきか?

 いや、むしろ、
 サブ・ジェネレータ?

 また爺さん辺りが、
 変なモン作ったかな……

 だが、まぁ、
 味方に間違いなさそうだ。

 機種はソーラーウィンド。
 GAのノーマルだ。

 それと……シリエジオ!?
 姐さんの機体だ。何でまた。

 弟子と通信が途絶えて、
 心配になったのか?

 ……まぁ、ともかく、
 こっちから姿を見せてやるか。

 一同、外へ向かう。
 メイはシリエジオに連絡。

 ド・スはトンズラする用意。
 まぁ、引退するったって、
 敵側の人間には捕まりたくないか。

 俺はもう一杯飲んでから……
 と、そんな時、シリエジオの弟子。

「そういえば、貴方のパートナー。
 貴方の事を探していたハズだ」

「パートナー?」

「メガネを掛けた、その……
 なんて言うか、
 胸が大きい、メガネの女性」

 ぶふぅ!

 俺は飲みかけの酒を、
 派手に吹いた。

 何だって?
 俺とあいつがパートナー?

 ま、まぁ、仕事上の、な!
 仕事上の!

 シリエジオの弟子、コイツだって、
 変な意味で言ったんじゃ無ぇだろ!

 いや、まぁ、それはともかく、
 心配かけてんのは想像つく。

 しかし、王小龍の監視もある。
 連絡ぐらい取れるか?
 取れりゃいいが。


 ともかく帰還する。

 俺達は外に出て、
 着陸して来た迎えと、顔合わせ。

 と、酒の匂いに勘付いたのか、
 シリエジオの姉御、

「こらぁ! 貴様ら!
 うちの未成年を酒場に連れ込んで!」

 凄い剣幕だった。

 今まで通信途絶だったのが、
 そんなに堪えたのか?
 1時間も経ってないと思うんだが。

「先生、大丈夫だ。
 酒なんて飲んでない。
 ただ、ちょっと、話をして」

「こ、言葉責めだと!?
 この変態どもがーッ!!」

 酷ぇ誤解……
 あんたこそ酔ってんのかい。

 これをなだめるには、
 少し時間がかかりそうだ。

 俺とシリエジオの弟子、
 困った様な苦笑い。


 何の為に戦うのか……

 この過保護な姐さんの為なんてのも、
 まぁ、いいんじゃないか?

 難しく考える事なんか無いだろうさ。
 今は、まだ……


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