〜Piercing the Sky/ACfA別解 Phase16〜


「なぁ、まだなのか?」

 BFF社の空母の甲板の上、
 俺は自機のコクピットの中で、
 待ちくたびれた様に言った。

『まだだ。
 スティグロは落ちていない』

 答えてるのは管制室、王小龍だ。
 俺は不満げに質問を続ける。


「落ちた所で現れたんじゃ、
 ワザとらし過ぎんだろ。

 それに、手遅れになっても、
 困るんじゃねぇの?」


『その時は、その時だ。

 あの程度を凌げんのなら、
 その程度の駒という事だろう』


 つまりは、最悪、
 死んでも構わない、か。

 相変らず、腹黒い爺さんだ。

 今回の依頼は、
 BFFとインテリオルの共同作戦。

 インテリオルが、
“第8艦隊撃破”という名目で、
 シリエジオの弟子に依頼を出した。

 が、奴の味方として協働する……
 事になっているハズの、
 インテリオル製・水上AF【スティグロ】。

 こいつがまた、
 奴を狙って攻撃する。

 これはペナルティだ。

 先のGA社アルテリア施設襲撃事件。
 その制裁措置。

 反体制組織の依頼により、
 奴はクレイドルを脅かした。

 そんなワケで企業連は、
 そこそこ本気で、
 奴を消しに掛かっている。

 艦隊とAF、物量の同時攻撃。
 よしんば生き残っても、
 損失を免れないだろう。

 だが、そいつもまた、
“企業として”の建前だ。

“王小龍、個人”の狙いは、
 別の所にある。

 シリエジオの弟子を生き残らせて、
 奴に依頼した反動組織、
 その内情を探らせる気でいる。

 ったく、ヤヤコシイこった。
 陰謀も過ぎると、
 一周して元に戻るんじゃねぇの?

 で、俺の役目は、
 シリエジオの弟子の、
 援護というか妨害というか、だ。

 幾ら依頼だったとは言え、
 仮にもアルテリア施設を襲う危険人物に、
 高額の報酬をやる訳には行かない。

 スティグロが落とされたら、
 救援と言う名目で出撃。
 奴と競って艦隊を撃滅する。

 で、よしんば奴が負けるなら、
 俺は第8艦隊の援護。
 半死のスティグロを沈めて金を貰う。

 どう転んでも、
 王小龍の掌の上、か……

 しかし、待つだけってのは退屈だ。

 時間潰しがてら、
 装備の再チェックぐらいは、
 一応、済ませておこう。

 今回の試作品は、3つ。

 1つ目は、肩部装備。
 大型追加ブースタ。

 こいつは追加って以外の意味でも、
 ただのブースタじゃない。

 補助ジェネレータまで組み込んだ、
 言ってみれば、小型のVOB。

 コイツは、通常ブーストから、クイック、
 オーバード・ブーストとさえ連動する。

 ヘタに被弾すると爆発するんで、
 取り扱いは注意だが……

 安全装置が勝手にパージしてくれるから、
 大した心配も無い。

 ……ま、安全装置が万全なら、な?

 それから、2つ目。
 近接信管式の、
 長距離用グレネードキャノン。

 精度もボチボチだが、
 何より、直撃しなくても爆発する。
 これはちょっと美味しい。

 それから……

『時間だ。
 スティグロの崩壊を確認した』

 っと、出番か。
 王小龍が状況を告げた。

 俺は、自機を、
 空母のカタパルトに移動させながら、
 王小龍に再確認する。

「第8艦隊、
 ホントに沈めていいのか?」

『どうせ時代遅れの代物だ。
 未練は無い』

 よく言うぜ。

 シリエジオの弟子が負けていた場合、
 俺の予定は、第8艦隊の護衛。

 そんな用意をするなんざ、
 何かしら、執着があったって事だろ?
 その、時代遅れの代物に。

 まぁ、沈めていいってんなら、
 そりゃあ沈める。

 この王大人様には、
 今までコキ使ってくれただけの、
 お礼をしてやらんと、な。

 自機、カタパルトに到達。
 発進準備中。

 追加ブースタの上から、
 更にVOBを装着。

 艦隊まで数kmあるが、
 1分も掛からんだろう。

 問題は、方位。

 長距離移動。
 角度がちょっとズレると、
 辿り着く頃には、明後日の方角だ。

「王大人、艦隊の方角は?
 それとオペレーターだが」


『傍受の可能性がある。
 私が案内してやる訳にも行くまい。

 オペレーターは、
 お前自身のを呼んで来てある。
 今、替わろう』


 俺のオペレーター?

 と、王小龍に言われて、
 先に浮かんだのは…

 …違う。あいつじゃない。
 あいつは死んだ。

 今の俺のオペレーター?
 となると、例のメガネ女か。

 長い事、音信不通だった。
 ちょいと気まずいが、
 そうも言っては居られない、か。

 俺はメガネ女に、
 3つ目の試作品の扱いを聞く。

「あー……おい、聞いてるか?
 この、倍率変更なんたらってのは、
 どう使うんだ?」

『……グスッ』

 返事の代わりに聞こえたのは、
 鼻水をすする音?

「何だ、まだ泣いてんのか?」

『そうよ……悪い?』

 メガネ女とは、ほんのちょっと前、
 この艦内で再開したばかりだ。

 それからずっと、
 この調子……

 ったく、いつまでも、
 女々しい事を。

 いや、まぁ、
 こいつも女だったが。

 泣いても普通。怒れば凶悪。
 反撃すれば外道扱い。
 ホント、泣く子と女にゃ勝てねぇな。


「あー、悪かったって。
 黙って居なくなったりして。

 ってか、連絡したくても、
 出来なかったんだよ」


『……知ってる。
 王大人に聞いた』

 何だ?

 生存報告が無かった事が、
 気に入らないんじゃ無ぇのか?

 じゃあ……アレか。

「勝手に脱出装置とか仕込んだり、
 前の機体が死んだのだって、
 俺は別に、怒ってなんか」

『違う』


「違う? じゃ、アレだ。
 試作パーツの運用データ。
 アレがパーになったって。

 つっても、
 パーツの作成データぐらい、
 何か残ってるだろ?

 また作ってくれりゃ、
 使ってやるって」


『そうじゃないの』


「じゃ、金の問題か。
 機体ブッ壊した経費の請求。

 こっちだって蓄えはあるんだし、
 無茶に吹っ掛けたりしねぇって」


『……そういう事じゃなくて!』

 キレた?

 しかも、その理由も、
 何だかハッキリしねぇ。

 イライラしてきて、
 俺も、つい、声を荒げる。

「じゃあ、お前、
 何で泣いてんだよ!」

『あんたが生きてて、
 嬉しいのよ!』

 ……は?

 え。
 いや。
 待て。

 それって……

 こいつが俺に、
 惚れ、て、たりとか……?

 いやいやいや!

 そうじゃねぇ。
 そうじゃねぇだろ。

 人間、そんな、
 短絡的なモンじゃねぇ。

 だって、ほら……なぁ?

 知り合いが死んだと思って、
 マジびびったとか、
 予定が狂うとか、そういう話だろ?


 ……はぁ。


「まぁ、その……何だ。

 今度も生き残れる様に、
 泣いてないで、
 ちゃんとオペレーターしてくれ」


『分かってる』

「分かってんなら、いい。
 頼むぜ、相棒」

『……おう』

 ちったぁ落ち着いて来たか。
 やれやれ、だ。

「じゃ、行くぜ。
 そういや、倍率……何だっけか」

『倍率変更サイト?』

 それだ、それ。
 FCS内蔵、倍率変更機能。

 望遠カメラ、映像処理なんかによって、
 遠くのモンを大きく見れる。

 この試作FCSには、
 狙撃モードがあって、だな……

 機体は動かせなくなるが、
 狙える距離は倍化、だ。

 ま、流石に、距離2000以上から、
 ノーロックのロケット弾で狙う、
 なんて無謀も無いだろうが。

 事前情報が無い相手の外見を見たり、
 レーダー外の敵の所在を探したり、
 といった使い方も……まぁ、あるか。

 色んな方向を探るのもまた、
 技術屋の仕事。

 で、それをどう活かすか実践するのは、
 現場の人間、傭兵の仕事だ。

『まず、武器の切り替えのレバーで、
 狙撃モードを探して。
 それから……』

 メガネ女の指示。
 俺は言われるままに操作。

 ……動いた。

 倍率を上げると、
 第8艦隊が海上に、
 点々と、煌いて見える。

 シリエジオの弟子の機体も見える。
 飛び回ってる奴だ。

 が、あまり積極的でない。
 スティグロにやられて、
 残弾か装甲でもヤバいか?


 どうあれ、目標捕捉。
 あとは行くだけさ。

 カタパルト起動。
 加速。上昇。

 VOB点火。
 急速前進。

 さあ、仕事の時間だ。


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